じじぃの「科学・芸術_481_自我を持ったロボット」

石黒浩著『アンドロイドは人間になれるか』出版企画発表会 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=5KVpFiiEaJE
ヒトの心をロボットは持ちうるのか?

ロボット製作には「最後の砦」がある--石黒浩氏、自我を機械に芽生えさせることの難点を語る 2017年11月3日 ログミー
石黒 心っていうことを言うのは、人間だけですよね。要するに自分たちを客観視して、自分で自分の「自我」っていう感覚を持ってるのは、たぶん人間だけなので。それをもし、コンピュータとかロボットで再現できると、僕は極めて人間とロボットの差はなくなると思ってるんですね。
そこが、どうしていいかはまだわからないんです。だから、意識の研究って怖いかもしれない。なんでかって言うと、10年ぐらいの間に「私は」っていうことを本気で言うロボットが出てくるかもしれない。
https://logmi.jp/258127
『僕がロボットをつくる理由-未来の生き方を日常からデザインする』 石黒浩/著 世界思想社 2018年発行
裸を包む機能美 より
――服を着ておしゃれをすることを含めて、見た目を追求するのは、モテたいという理由もあると思います。人はなぜ、モテたいと思うのでしょうか。
 それは第1章でも触れた、「コミュニケーションとは何か」という問いとつながります。他者と関わりたいというコミュニケーションの根っこには、性的な欲求があるという話をしましたよね。たとえば動物を見ればわかりやすい。孔雀がきれいな羽を広げることも、ライオンが群れのボスになることも、多くのメスに選ばれて、自分の遺伝子を残すための行動です。だから性行動イコール、見た目と力の問題になります。人間になると、動物のような直接的な力ではなく、財力だったり知能だったり、いくつかの別の要素が加わります。
 ようするに、性差がなければ他者とつながりたいという欲求は生まれず、コミュニケーションというものがなかったかもしれません。少なくとも動物はそうなんです。動物に性がなかったら、コミュニケーションしない可能性がある。なぜ鳥がさえずるんですか。パートナーを見つけるために歌を覚えるわけです。
 僕らもそうですよね。魅力的なパートナーを見つけたくて、必死で勉強したり、着飾ったり、歌を覚えることだってあります。だから性欲がなければ、人と人をつないで社会を構成するような力は働きません。でも人間にはとても厳しいモラルがあって、社会のなかで性について論じることは、タブー視されています。つまり、「性の問題とコミュニケーションの問題は別のもの」ということになっているんです。
 この性というものを社会のなかにうまくブレンドするのが、ファッション、服を「着る」ということだと思うんです。ファッションショーでもほとんどヌードに近いような服だったり、体のラインを強調したような服を着たりしますよね。だけどそれを「魅力的な服」と言ってしまえば、社会におけるファッションの話になる。
 最初のほうでも言ったように、ファッションというのは、人間の裸を包むことです。そうして性的な欲望も、社会のなかに混ぜ込んでいる。これが「着る」ということの本当の意味かもしれません。
――だとすると、見た目をどうにでもできるロボットは服を着ないのでしょうか?
 人型のロボットは、これから人間社会に入ってきます。そして人間社会のなかでの役割を表すには、制服が必要です。だから、汎用的な人型のロボットがいたとして、ホテルで働くならホテルの制服を着せるし、駅なら駅員の制服を着せるはずです。社会的役割を示すという意味では必ず服を着ます。これは人間と同じですね。
 じゃあロボットが、自ら着飾るようになるかといえば、自我がない限りそんなことにはなりません。アイデンティティを持ちたいという強い自己顕示欲がなければ、ブランドものに身を包みたいなんて思いませんよね。
 それでもいつかロボットが、自我を持つようになるかもしれません。そうすると自らの判断で、ステイタスやアイデンティティを確保しようと考えて、人が流行に流されるのと同じように、最新のファッションを追いかけるようになる可能性があります。
 自己保存という目的で、服を選ぶこともありえます。たとえば異様に寒い日は、凍らないようにしたほうがいいとか、暑い日は少し冷却したほうがいいとか、機能を維持するために服を活用することもあるかもしれません。
――自我を持ったロボットはどんな服装をするようになるのでしょうか。
 人間が自我を持っている理由は、自分をより強く進化させたいという欲求があるからです。子どもが幼稚園児くらいになると、「ぼく」とか「わたし」とか、自分の名前をよく口にするようになります。一生懸命に自我を獲得しようとしているわけです。やがて自我を確立して、より強い遺伝子を次の世代に残すためのパートナーを探そうとします。だから服を着て、見た目を良くする。
 図にすると、まず自我があって、より強く進化することを望み、性は進化の手段というわけです。これが人間の「自我」と「性」と「進化」の関係ですね。
 ロボットの自我はどうかというと、少なくとも性からはスタートしません。ただし、一度自我が芽生えると、人間と同じように、より強い個体を残して進化したいと思うはずです。でもロボットの場合は、生殖によって進化するわけではありません。
 見た目が魅力的な人型のロボットなら、人間のほうから性的な関係を求めるでしょう。そして性を通して人間に気に入られたロボットが、人間によってさらに改良されたり、コピーを残すことになります。ロボットの場合は、人間を通した間接的な進化になるんです。だから自我を持ったロボットは、人間を魅了するような服装をするようになります。