じじぃの「科学・芸術_367_ヒトの秘密・ヒトはどこまで動物なのか」

ダイアモンド博士の“ヒトの秘密” 1▽チンパンジーからヒトへ1.6%のドラマ 動画 Dailymotion
http://www.dailymotion.com/video/x6crau1
Chimpanzees React To iPad Magic 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=P8NRh9UI1aQ
Jared Diamond The Third Chimpanzee

高等霊長類の系統樹 (1000ya.isis.ne.jp HPより)

チンパンジーのなかのヒト 早木仁成 1544夜 松岡正剛の千夜千冊
一言でいえば、約700万年前のあたりでヒトとチンパンジーが分岐したわけだ。それまでは“何か”が一緒だった。それかあらぬか、チンパンジーやピグミーチンパンジーボノボ)には、パン・トログロディテス(Pan troglodytes)とかパン・パニスクス(Pan paniscus)という学名がついている。パンというのはギリシア神話の半人半獣神のパン(パーン)のことだ。ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』の旋律にも乗っている。パンはいわば700万年前から「笛を吹いていたサル」なのだ。
一方、DNAのゲノム解析で見ると、チンパンジーはヒトの半人なのではない。チンパンジーのゲノムの塩基配列では半人どころか、ヒトゲノムとはわずか1.23パーセントしか違わない配列になっている。ヒトは98パーセントのチンパンジーであり、チンパンジーは98パーセントの人類なのである。
分子人類学のジョナサン・マークスの、そのタイトルもずばり『98%チンパンジー』(青土社)という本には、このような推理がどのくらい妥当であるのかという、興味深い議論がなされている。
それはともかく、われわれはリスザルやニホンザルやオランウータンとともに、すべからく霊長類に属している仲間なのだ。なかでもゴリラやチンパンジーは、見るからにわれわれの親近感や親和性を呼び起こす。いや、われわれの中に眠っているものを呼び覚ます。
●高等霊長類の系統樹
左側の数字は霊長類間のDNA相違率を、右側の数字は共通先祖からの分岐経過年数を指している。
『人間はどこまでチンパンジーか』ジャレド・ダイアモンド新曜社 1993)より
http://1000ya.isis.ne.jp/1544.html
ダイアモンド博士の“ヒトの秘密 「1 チンパンジーからヒトへ1.6%のドラマ」 2018年1月5日 NHK Eテレ
【主演】ジャレド・ダイアモンド(生物地理学者)
第1回は、ヒトはどこまで動物なのかを考える。
チンパンジーとヒトの遺伝子の違いは、わずか1.6%。それだけの違いで、両者はまるで違う生活を送っている。しかし進化の過程を探ると、意外な類似点も。ユニークな発想で生物の進化を見つめるジャレド・ダイアモンド博士が、疑問を解き明かす。
地球の至る所で豊かで多様な文明を築いてきた私たちヒト。
でも、チンパンジーと同じ動物の仲間でもあります。
ヒトはなぜこのような進化を遂げたのでしょうか。
Q.これから数百万年先にヒトがさらに進化して枝分かれすることはあるのですか?
A.可能性はあると思います。私たちは今も進化しています。1万年前に比べて歯の数が減っていますし、私が死ぬまでの間でも分子レベルでの進化は起きています。問題は今から100万年後に人類は存続しているのか。私たちは大きな問題を抱えていて、50年後に人類が存続しているかは定かではありません。これはシリーズ後半の大事なテーマです。もしこの50年を乗り切る事ができれば私たちは100万年を生き延びて進化できると思います。
http://www4.nhk.or.jp/diamond-hakushi/x/2018-01-05/31/1761/2753021/
『若い読者のための第3のチンパンジー ジャレド・ダイアモンド/著、秋山勝/訳 草思社文庫 2017年発行
三種のチンパンジーの物語 より
1970年代、チャールズ・シブリーとジョン・アールクウィストという2人の研究者が、DNAの変化にうかがえる分子時計というアイデアを鳥類の進化的関係の調査に用いた。調べた鳥の種類はおよそ1700種、これは現在生息する鳥類全体の約5分の1に相当する。
それから10年、2人は同様の手法で霊長類の進化の研究をおこなった。この研究のために使われた材料がヒトのDNAで、それと人類のもっとも近縁とされるすべての種――つまり、コモンチンパンジーボノボ(ピグミーチンパンジー)、ゴリラ、オランウータン、テナガザル2種、そして7種類のサルのDNAだった。この研究の結果、霊長類の系統樹をめぐる新たな理解がもたらされたのである。
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科学者が霊長類の分子時計を調べると、ヒトおよび類人猿とサルとのあいだに遺伝上もっとも大きな違いが存在していた。とはいえ、これは別に驚くほどのことではなかった。類人猿が科学的に知られるようになって以来、ヒトと類人猿は、ヒトとサルのあいだ、類人猿とサルのあいだよりもはるかに近縁の間柄であると広く認められていたからである。DNAの構造において、ヒトおよび類人猿のDNAとサルのDNAのあいだには、7パーセントの違いが存在することを分子時計は示していた。
また、類人猿のなかでは、テナガザルがもっとも際立った違いをもつことを分子時計は示していた。DNAにうかがえる差は、ヒトおよびほかの類人猿に比べて5パーセント。オランウータンの場合、ゴリラ、チンパンジー、ヒトのあいだに3.6パーセントの差が認められた。類人猿の系統樹においては、テナガザルやオランウータンが、ヒトやゴリラ、チンパンジーよりも早い時期に分岐したことを意味する。今日でも、テナガザルとオランウータンは東南アジアにしか生息していない。一方、ゴリラやチンパンジーの場合、生息地はアフリカに限られており、そしてここは初期人類が誕生した故郷でもある。類人猿のなかでもっとも近い種は、コモンチンパンジーボノボの2種のチンパンジーだ。そのDNAの構造は99.3パーセント同じなのである。
では、ヒトの場合はどうだろう。その差は、ゴリラとは2.3パーセント、コモンチンパンジーおよびボルボとは約1.6パーセント、つまり私たちヒトは、チンパンジーとは98.4パーセントのDNAを共有し、チンパンジーこそヒトにもっとも近い種にほかならない。そして見方を変えれば、チンパンジーにとって、彼らにもっとも近縁の種とはゴリラなどではなく、遺伝的には私たち人間なのである。
霊長類の遺伝的距離を分子時計で測ると、ゴリラがチンパンジーやヒトへと続く系統から分岐していったのは約1000万年前のことだった。ヒトの祖先はいまからおよそ700万年前にチンパンジーの系統から分かれた。つまり、ヒトは約700万年の年月をかけて独自の進化を遂げてきたのだと言えるだろう。
ヒトとチンパンジーを隔てる遺伝的な距離は、テナガザルとフクロテナガザルの距離(2.2パーセント)よりも長くはない。鳥類の世界を例にとると、アカメモズモドキとメジロモズモドキは同じスズメ目に分類される鳥だ。いずれも同一の属、つまり近縁種の一群に分類される。しかし、遺伝的距離の点では、この2種の鳥には2.9パーセントの隔たりがあり、その差は私たちヒトとチンパンジーの距離よりもはるかに大きい、つまり、遺伝的距離の点からすれば、ヒト、コモンチンパンジーボノボは同じ属として扱われてしかるべきで、そうした点から考えれば、私たちヒトという動物はまさに第3のチンパンジーにほかならないのである。