映画「リンカーン」本予告 動画 Youtube
https://www.youtube.com/watch?v=6xTvZNP4_no
Lincoln's Humor
リンカーンのジョーク アメリカ歴代大統領研究ポータル
リンカーンは生真面目な人だったという印象を持たれることが多いが、必ずしも生真面目な面ばかりではなかった。リンカーンは好んでジョークを口にした。
中には以下のような卑猥なジョークもあるが、ポルノが氾濫している今の世の中からするとまだ大人しい内容だと思う。今の我々から見ると大人しい内容であっても、日本とは違い、宗教的に厳格な面があるアメリカでは、聖職者をネタにしていることからすると、十分に卑猥なジョークだと言える。
http://www.american-presidents.info/AT28.html
『映画と本の意外な関係!』 町山智浩/著 インターナショナル新書 2017年発行
リンカーンのユーモア (Lincoln's Humor) より
スティーブン・スピルバーグ監督の『リンカーン』(2012年)は奇妙な伝記映画だ。リンカーンといえば「人民の、人民による、人民のための政治」で有名なゲティスバーグの演説、それに奴隷解放宣言、そして暗殺だが、この映画には、そのどれも画面には登場しない。
描かれるのは、奴隷制を永久に禁止する合衆国憲法修正第13条を下院議員で通過させるまでのほぼ1ヵ月の駆け引きだけなのだ。
「奴隷制もしくは自発的でない隷属は、アメリカ合衆国内およびその法が及ぶ如何なる場所でも、存在してはならない」
これを憲法に加えない限り、奴隷解放宣言も効力を持たない。しかし、憲法改正には上院・下院それぞれの議会の3分の2以上の賛成を必要とする。当時は南北戦争の最中で、北部連邦政府は奴隷廃止を求める共和党、南部連合は奴隷制存続を求める民主党に支配されていたが、北部の下院も3分の1の議席は民主党議員に占められていた。彼らの票を獲得するため、リンカーンはあらゆる手段を使う。閣僚のポストを約束したり、現金で買収したり、その裏工作ぶりは「正直エイブ」と綽名(あだな)された大統領のイメージとは正反対だ。
「コンパスは北を指すが、目的地までの間に沼地や砂漠があることは教えてくれない」
リンカーンは言う。奴隷解放という理想ははあっても、その実現には、困難を突破する具体的な策と実行力が必要なのだ。
……という『リンカーン』の本筋の部分は映画を観てもらうとして、ここではリンカーンの「言葉」、彼が劇中で何度も口にするジョークについて考えてみる。
映画は、ゲティスバーグの演説の直後、若き黒人兵とリンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)の会話から始まる。彼は南部の農園から脱走し、北軍に身を投じて自由のために戦う元奴隷だ。これからは好きな職業に就ける。床屋はどうだろう、という話になって、リンカーンは言う。
「私の髪をうまく切ってくれる床屋はいないよ」
「そういえば、大統領閣下は、白人にしてはずいぶんくせっ毛ですね」
「こないだも理髪師が絶望して首をくくったよ」
リンカーンは、ごわごわした毛、落ちくぼんだ目、額の大きなイボ、蜘蛛のように細長い手足をよく自虐的にジョークにした。
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伝えられるリンカーンのジョークには下ネタが多い。リンカーンは北軍の最高司令官だったジョージ・マクレラン将軍の判断力のなさに失望していた。ある日、将校用の簡易トイレを作っていた兵士がリンカーンに「穴はひとつにしましか? ふたつにしますか?」と尋ねた。リンカーンは「ひとつにしてくれ」と言った。
「ふたつにすると優柔不断のマクレランはどっちにすればいいか迷っているうちに漏らしてしまうからな」
大統領のジョーク好きに手を焼いたエドウィン・スタントン陸軍長官は、
「あなたはどうして、いつもジョークばかり言ってるんですか?」
と尋ねたことがある。リンカーンはこう答えたという。
「笑わないと死んでしまうからだよ」
それはジョークではなく、本当に彼は笑わないと死ぬ病気だった。
ジョシュア・ウルフ・シェンク著『リンカーン――うつ病を糧に偉大さを鍛え上げた大統領』(06年)によると、リンカーンは生涯、鬱病と闘ってきた。自殺をしようと銃を持って森に入り、通りかかった人に止められたこともあった。
シェンクによるとリンカーンの鬱はまず遺伝的なもので、両親の家系がともに鬱病の傾向が強かった。父は飲酒どころかダンスも罪と考える厳格なキリスト教徒で、ユーモアのセンスに欠けていた。母はいつも悲しげな女性だったという。
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富豪の娘メアリー・トッドと結婚したが、結婚式の日、リンカーンは思わず「地獄行きだ」と漏らしたという。その予感は的中した。メアリーは、暖炉にくべる薪の量が少ないと言っては薪でリンカーンを殴った。買ってきた肉が違うと言われて妻に殴られたリンカーンは口の中を切った。リンカーンの個人秘書ジョン・ヘイはメアリーを「ヘルキャット(地獄の猫)」と呼んだ。映画『リンカーン』でガミガミとうるさい大統領夫人を演じるサリー・フィールドは、その容貌も含めて、映画史上最も完璧なメアリー・リンカーンだといわれている。
リンカーンの友人で伝記作家のウィリアム・ハーンドンは二人の結婚生活を「家庭内地獄」と呼んだが、リンカーン自身は「結婚は天国でも地獄でもないさ」と言っている。
「煉獄(れんごく)だよ」
リンカーン夫妻には4人の息子ができたが、2人を子どものうちに亡くした。その悲しみからメアリーは浪費癖がひどくなった。リンカーンの死後、メアリーの狂気は加速し、ついには精神病院に収監された。歴史家たちは彼女を「史上最悪の大統領夫人」にランクした。
だが最近、メアリーのヒステリーは夫の愛がなかったからでは? という説も有力だ。数々の証拠がリンカーンがバイセクシュアルだったことを示しており、特にボディガードだったデヴィッド・デリクソンが恋人だったといわれている。