じじぃの「科学・芸術_201_独裁者ゲーム・リスペクト」


ヒューマン なぜ人間になれたのか 第1集「旅はアフリカからはじまった」 2012年1月 NHK
【プレゼンター】藤原竜也
人間とは何か。
人間を人間たらしめているものとは一体。
●分かち合い実験
世界中の研究機関が1つの実験を行いました。それは、お金を使った心理実験。伝統的な生活を続ける人々から、農村、漁村、都市部など世界中の15の場所で同時に行われました。
ケンブリッジ大学・人類学フランク・マーロー博士、「このゲームは単純です。あなたがプレーヤーの一人です。他にもう一人、あなたの知らない人がいると考えてください。相手もあなたの事を知りません。あなたはこの10ドル札をあなたがどれだけとって、どれだけ、あげるかを決める事が出来ます」
あなたの目の前のお金、それをまったく見ず知らずの人にどれだけあげるか。もちろん全部自分で取っても構いません。その結果は、誰にも知られず人の眼を気にする必要はありません。
アメリカでは、自分が53%をとり、相手に47%をあげるという結果でした。15の場所全てで見知らぬ人に分けないところはなく、少なくとも20%はあげるという結果になりました。
同じ実験は、日本でも行われました。自分が56%をとり、相手に44%をあげるという結果でした。
マーロー博士、「この実験は、人間の本心が現れます。世界中で共通した傾向が見えたのです。縁もゆかりもない人に対して分かち合わなければいけないという気持ちを、程度の差こそあれ、現代人は心に秘めているのです。アフリカで培った分かち合いの心を携えて、人類は世界中に拡散していったのです」
見ず知らずの人とも分かち合う心、それは私たちにも受け継がれているのです。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2011035496SA000/
『つながる脳』 藤井直敬/著 NTT出版 2009年発行
リスペクトがつなげる世界 (一部抜粋しています)
それでは、まずカネがどのようにヒトを動かすのかについて少し考えてみましよう。カネと意思決定の関係は、経済学と心理学が結びついた行動経済学分野で盛んに研究が行われています。行動経済学では、さまざまな心理実験を行い、ヒトの意思決定に関してどのような要因がヒトの合理的判断に影響を与えるのかを検討しています。
それでは、1つ実験をしてみましょう。以下はみなさんに対する質問です。
「あなたにこれから1000円のお金をあげます。この1000円のうち、いくらでもよいので隣の部屋にいるもう1人のヒトに分けてあげてください。残りの金額は私たちの実験に協力してくれる報酬としてあなたに支払う金額です。となりのヒトはあなたが分けてあげる金額を実験に協力した報酬として受け取ります。となりのヒトはあなたがいくら貰うかを知りませんし、実験の後に会うこともありません。よろしいですか。それでは、いくらを隣の部屋のヒトに支払いますか。」
さて、みなさんがこの実験に参加したとしたらいったいいくらの金額を支払うでしょうか。このゲームは「独裁者ゲーム」と呼ばれ、相手からのフィードバックがない点で、ゲーム理論などで使われるその他者との相互関係を組み込んだゲームとは趣を異にしています。
よく考えるとわかる通り、このゲームには相手からのレスポンスがないため非常に単純なゲームに見えますし、合理的に考えるならば、1円だって支払う理由がありません。何しろ、あなたには支払わないことで生じるリスクは何もないのですから。
しかし、実際に実験に参加するヒトたちが支払う金額の平均はだいたい20%前後なのです。1000円だったら、200円になります。多いヒトだと40%支払うヒトもいます。いったいこれはどういうことなのでしょうか。明らかに支払うことにメリットはありません。それでもこのゲームに参加するたいていのヒトはいくらか支払ってしまうのです。
一般に、この実験の結果は、実験での行動選択が自分の評判に影響を及ぼすことを心配しての結果だと解釈されています。つまり、たとえ明確な他者がそこに存在しなくても、社会の中の自分に対する評判を保つという目的のためには、自分の分け前のうち2割程度のコストを支払うことは価値があると思っているということです。
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社会的実存を認めるということは、個人をとりあえず無条件で丸ごと尊重(リスペクト)しますよということです。ですから、まず身近なヒトたちへ自分からそういう気持ちをもって接することから始めるというのはどうでしょうか。リスペクトには多少の積極的なエネルギーが必要とされますが、「独裁者ゲーム」の結果からみると、僕たちは自分の取り分の2割程度はそのために使えるのです。リスペクトはそれを受け取る相手に嫌な思いを引き起こすことはないでしょう。それに、自分をリスペクトしてくれるヒトがいるとすれば、それに対してリスペクトを変えそうという気持ちに自然になるのではないでしょうか。つまり、いったん自分からリスペクトを発信すると、それは循環を始めるのです。