じじぃの「カオス・地球_257_人類の終着点・ロー・テクノロジー・生成AI」

her/世界でひとつの彼女

劇場公開日:2014年6月28日 映画.com
他人の代わりに思いを伝える手紙を書く代筆ライターのセオドアは、長年連れ添った妻と別れ、傷心の日々を送っていた。
そんな時、コンピューターや携帯電話から発せられる人工知能OS「サマンサ」の個性的で魅力的な声にひかれ、次第に“彼女”と過ごす時間に幸せを感じるようになる。主人公セオドア役は「ザ・マスター」のホアキン・フェニックス。サマンサの声をスカーレット・ヨハンソンが担当した。ジョーンズ監督が長編では初めて単独で脚本も手がけ、第86回アカデミー賞脚本賞を受賞。
https://eiga.com/movie/79523/

朝日新書 人類の終着点―戦争、AI、ヒューマニティの未来

【目次】
はじめに
1 戦争、ニヒリズム、耐えがたい不平等を超えて
 エマニュエル・トッド 現代世界は「ローマ帝国」の崩壊後に似ている
 フランシス・フクヤマ 「歴史の終わり」から35年後 デモクラシーの現在地

2 「テクノロジー」は、世界をいかに変革するか?

 スティーブ・ロー 技術という「暴走列車」の終着駅はどこか?
 メレディス・ウィテカー×安宅和人×手塚眞 鼎談 進化し続けるAIは、人類の「福音」か「黙示録」か
3 支配者はだれか?私たちはどう生きるか?
 マルクス・ガブリエル 戦争とテクノロジーの彼岸 「人間性」の哲学
 岩間陽子×中島隆博 対談

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『人類の終着点―戦争、AI、ヒューマニティの未来』

トッド、フクヤマ、ロー、ウィテカー、ガブリエル/著 朝日新書 2024年発行

2 「テクノロジー」は、世界をいかに変革するか? より

ティーブ・ロー 技術という「暴走列車」の終着駅はどこか?

【テクノロジーは何をもたらすのか?】
――2022年11月にChatGPTが登場してから、全世界が生成AIに注目するようになりました。ベテランのテクノロジー記者のあなたに、今のAIの現状と今後の可能性、そして私たちがどう付き合っていけばいいかについてお伺いしていきます。まずは、ChatGPT発表以来の状況、AIに関する議論について、どう見ていらっしゃいますか。
   
歴史は繰り返すものではなく、「韻を踏むもの」だと言われています。かつて、1990年代に商業化されたインターネットも、巨大で重要なテクノロジーと言われていました。その際にもメディアや小売り業、広告業界などを、混乱の渦に巻き込むだろうとうわさされていました。そして、実際にそうなりました。

10年後にITバブルが弾けると、新たなテクノロジー改革も進みました。そして現在では、高速通信が普及し、デジタル決済が一般化し、ストリーミング視聴が当たり前になっています。

このように、新たなテクノロジーが登場して普及するまで――熱狂的に迎えられてから実用化まで――には、時間差が生じます。過去の蒸気機関、電気、インターネットといった発明と同じです。

【サム・アルトマン氏が非公開の場で語ったこと】
――このような情勢の中、あなたは、渦中の人物でもあるChatGPTを公開したOpenAI社のサム・アルトマンCEOに最近お会いしたと聞きました。どんな状況で話をして、彼に対してどんな印象を抱きましたか。
   
サムと会ったのは、『ニューヨーク・タイムズ』紙の編集主幹たちが、サンフランシスコで開いた会合の席でのことでした。

その際に私は、本人と直接、非公開で1時間ほど話す機会をいただけました。多くを明かすことはできませんが、その中で最も印象的だったのが、「AIの世界で交わされているという議論」についての話です。

それはつまり「膨大なデータをもとに、賢いソフトウェアを構築する」という現在の開発方法を用いることで、AIはどこまで進化するのか、というものです。

サムはこのように言っていました。「進化とは暴走列車であり、なにものもそれを止めることはできない。もしかしたら、これは天国まで伸び続ける木のようなものかもしれない」と。

つまり、われわれが今見ているものは、途中駅に過ぎない。実際に暴走列車が行き着くのは、人間の仕事の大半をこなせるAI(人間のように、理解して学習して実行できる知能)だということでした。われわれがこれまで見てきたようなAIが行っているのは、大規模なパターン照合に過ぎないのです。すなわち、本来の意味では、AIは世界を理解していないのです。

たとえば、テーブルの端に置いてある水の入ったコップが傾き始めたとしましょう。この後、何が起こるのかは、3歳児でもわかりますね。つまり、コップが床に落ちて、一面が水びたしになる。

ところが、グラスがテーブルの隅っこから落下し、床に落ちて水びたしになっている様子を、何千回から何万回もビデオで見なければ、AIシステムは、この後何が起こるのかを知ることも、予測することもできません。

しかし、このような状況だと知っていても、サムはとても楽観的です。それは、シリコンバレーに勤める人々も、世界中のAI関連の仕事をしている人たちも同じです。

なぜそのように考えているのか。それには理由があります。彼らが見ているのは、AIが、現在置かれている状況ではないからです。

つまり、彼らが見ているのは、これまでのAIがたどってきた進化の軌跡なのです。OpenAIの言語モデル(GPT-3)は2020年に発表されました。その後、会話できるようなバージョンを搭載した「ChatGPT」が登場してくるのは、2020年11月のことです。開発に携わった人たちは、このChatGPTとその進化の速さに心底驚いていました。

たしかに、暴走列車に乗っているのかもしれませんが、AIはは改良を重ねて進化し続けるので、これからも様々な問題を解決してくれるだろう、という考えが彼らの根底にはあります。それゆえに多くの人は、今後のAIの進歩についても楽観視しているのです。

【実は言われているほど、AIは賢くない】
――ChatGPTをはじめ、グーグル、マイクロソフトなども様々なAIツールを相次いで発表しています。AIツールを使ううえで、注意すべきことはありますか。
   
「信用しすぎるな」ということです。古い言い回しになりますが、「導かれても、支配されるな」と。AIツールは見た目ほど優れていませんし、賢くもありません。しかし、役に立つのであれば、ぜひ試してみてください。
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日本が抱える少子高齢化問題は米国にはありません。しかし、生産性を高め、自動化をさらに進める必要があるのは、同じなのです。労働力不足は世界共通の深刻な問題です。

――日本のような高齢化社会では、1人暮らしの高齢者が増える一方です。その中には、孤独を抱える人もいます。生成AIのような新しいテクノロジーは、孤独を癒す助けになることもあるのでしょうか。
   
実は、その点はすでに実験されています。数年前には映画にもなりました。her/世界でひとつの彼女はまさにされです。それに似たサービスはすでにあります。こうしたサービスの開発を担っているのは、主に若い人たちです。

また、精神衛生学の分野では、認知行動療法を自動化し普及するためのソフトウェア開発も行われています。あなたが言われるような「孤独の問題」に関してですが、こうした分野のものが便利な話し相手となり得ます。

これによって高齢者の孤立の問題がすべて片付くわけではありません。しかし少なくとも、1つは解決されるでしょう。この分野には大きな可能性があり、様々な取り組みがなされています。