じじぃの「カオス・地球_22_進化を超える進化・序章・ホム二(集合性人類)」

Gaia Vince's Homuseum - Episode 7 - Arrowhead

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=yfY_aTfM_JQ

【直言】進化史に学ぶ「人新世」の危機を生き延びるヒント

2022/7/22 NewsPicks編集部
まるで預言者プロフェット)のように、新しい時代のムーブメント、思考法をいち早く紹介する連載「The Prophet」。今回登場するのは、ロンドンを拠点に活躍するサイエンスライターのガイア・ヴィンス氏だ。
ヴィンス氏の新刊『進化を超える進化』(野中香方子訳/文藝春秋)は、ジャレド・ダイアモンドの『鉄・病原菌・鉄』や、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』などの系譜に連なる、新しいビッグ・ヒストリーとして話題の一冊だ。
その中でヴィンス氏は、自然科学と人文科学を縦横無尽に交差させ、人類の進化の歴史に新たな光を当てている。
前編では、「チンパンジーと人類の進化の違いを決定づけたものは何か?」という問いを起点に、人類がいかにして「与えられた身体」の限界を突破し、自らの運命を切り開いてきたのかを、「火」「言語」「美」「時間」という4つのキーワードをもとにひもといた。
この4つをテコにしながら、自らの遺伝子と環境と文化を「共進化」させることで、人類は「進化を超える進化」を遂げてきた──というのがヴィンス氏の主張だ。
https://newspicks.com/news/7344783/body/

文藝春秋 進化を超える進化

【目次】

序章

創世記
第1部 火
第2部 言葉
第3部 美
第4部 時間

                    • -

『進化を超える進化――サピエンスに人類を超越させた4つの秘密』

ガイア・ヴィンス/著、野中香方子/訳 文藝春秋 2022年発行

序章――人間がいかに生物学的人類を超える種となったかについての物語へようこそ より

人類進化の3つの要素

これから述べるのは、わたしを夢中にさせた驚くべき進化の物語だ。それはすべて、「遺伝子」と「環境」と「文化」の進化の特別な関係に基づき、わたしはそれを人類進化の3要素と呼ぶ。この互いに補強しあう3つの要素ゆえに、人間は変化する宇宙の一生物に終わらず、自らを変える力を持つ並外れた種になった。人間は、他のすべての動物がたどった進化の道から外れ、より壮大で、より驚異的な存在になろうとしている。人間を創造した環境が人間によって変化するにつれて、人間は最大の超越(トランセンデンスを始めている。

文化を進化させる4つの要素

地球上の生命の物語において、文化進化は勝敗を決める因子だ。人間の進化は環境と遺伝子だけでなく、文化によっても推し進められてきた。文化進化には生物進化と重なる要素が多くみられる。遺伝子による進化は、変異、継承(遺伝)選択によって進んでいく。この3つは文化進化にとっても駆動力になる。主な違いは、生物進化はたいてい個体レベルで起きるが、文化進化では、個体より集団の選択が重要であることだ。わたしたちを利口にしたのは、個人の知性を超えた集団の文化なのだ。

人間はこの進化の道をたどった唯一の人類ではない。わたしたちには親類がいたが、生き延びたのは人間だけだ。数十万年前、わたしたちは文化によって物理的・生物的限界を克服し、他の種を非創造的な生活に閉じ込めていた環境の揺り籠から抜け出した。その並外れた進化は、主に4つの要素によって推し進められた。その4つとは、「火」、「言葉」、「美」、「時間」である。

「火」の部では、エネルギーを外部委託(アウトソーシング)することで、人間が生物としての限界から解放され、物理的能力を拡張できたことを見ていこう。

「言葉」の部では、人間の成功に情報が果たした役割について探究する。言葉は、複雑な文化的知識を正確に伝達・保存することや、相手と心を通わせることを可能にした。言葉は社会の接着剤であり、共通の物語によって私たちを結びつけている。また、言葉があればこそ正確な予測をしたり、誰を信頼すべきかを決めたりする。

次なる要素、「美」は、活動に意味をもたらし、共有する信念とアイデンティティのもとにわたしたちを融合させる。芸術表現は文化的な種分化――社会間、社会内の分化――を生じさせるが、その一方で、資源や遺伝子やアイデアの交換を促すことにより、遺伝的な種分化を抑制する。そして結果的に、より優れたテクノロジーを持つ、より良くつながった、より規模の大きい社会をもたらす。

4つ目の要素、「時間」は、自然作用についての客観的・合理的説明の基礎になる。知識と好奇心は人間を、他の動物よりはるか遠くへ進むよう駆り立てた。私たちは世界とその中での自分の位置を秩序づけるために科学を発展させ、今や地球規模でつながっている。

超生命体へ

これから見ていく通り、文化進化は、適応上の多くの問題を遺伝的進化よりスピーディに、しかも種分化を伴わずに解決する。遺伝的進化、環境的進化、文化進化という3要素が相互に強化するサイクルによって、人間は自ら運命を切り開くことのできる並外れた種になり、数を増やし、住む地域を拡大し、その結果として、より複雑な文化への進化を加速させてきた。

現在、人間集団のサイズとつながりは未曽有のレベルに達している。同時に、人間は地球環境に劇的な変化をもたらし、人間を形成した惑星を「人新世(アントロポセン)」、つまり「人間の時代」と呼ばれる全く新しい地質年代へと進ませた。道路、建物、耕作地など、人間がもたらした物質的変化の総重量は30兆トンと見積もられ、90億、さらには100億へと向かう世界人口の緊密な接続を可能にしている。周囲を見渡せば、目に映る物すべてがわたしたちの知性がデザインした物であることがわかる。わたしたちは地球上のあらゆる場所に手を伸ばし、宇宙さえもゴミ捨て場にしている。

人間独自の性質がどのようにして種としての人間を変えたか、さらに、そうすることで、自然との関係をどのようにリセットしたかを見る旅へご案内しよう。

今、わたしたちは瀬戸際に立っている。人間の遺伝子と環境と文化の相互作用によって、超協力的な人類の集団から、新たな生命体が生まれようとしている。

わたしたちは超生命体になりつつある。それをホモ・オムニス(Homo omnis=集合性人類)、略して、ホムニ(Homni)と呼ぼう。

これは、わたしたちの超越の物語だ。