じじぃの「科学・芸術_856_人類宇宙に住む・量子コンピュータ」

量子コンピュータを説明する - 人類の技術の限界について

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=JhHMJCUmq28

quantum computers

『人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ』

ミチオ・カク/著、斉藤隆央/訳 NHK出版 2019年発行

宇宙のロボット より

ロボット工学の未来の全体像をもっとよくつかむために、コンピュータの内部で起きていることをじっくり見てみよう。現在、ほとんどのデジタルコンピュータは、シリコン回路がベースになっており、18ヵ月ごとにコンピュータの性能が倍増するというムーアの法則に従っている。
ところがここ数年の技術進歩は、それまで数十年のすさまじいペースから減速しだしており、一部の人は、ムーアの法則が破れ、コンピュータの性能のほぼ指数関数的な向上に依存してきた世界経済は深刻な混乱に陥るという、極端なシナリオを提示している。それが現実になれば、シリコンバレーは新たなラストベルト[米国北東部から中西部にかけての斜陽鉄鋼地帯]になりかねない。この潜在的な危機を回避すべく、いまや世界じゅうの物理学者がシリコンに代わるものを探している。彼らは分子、原子、DNA、量子ドット、光、タンパク質などを使った別のコンピュータの開発に取り組んでいるが、どれもまだ主流になる気配はない。
さらに不確定要素も混じっている。シリコンのトランジスタがどんどん小型化すると、いずれは原子のサイズになる。現在の標準的なペンティアムチップは、原子20個ほどの厚みのシリコンの層になっている。10年以内に、こうしたチップはわずか原子5個分の厚みの層になる可能性があるが、そうなると、量子論の予測どおりに電子が漏れはじめ、海路がショートを起こすおそれがある。そこで、まったく新しいタイプのコンピュータが必要になる。グラフェンをベースとするかもしれない分子コンピュータが、シリコンチップに取って代わる可能性もある。だがいずれ、こうした分子コンピュータも、量子論で予測される効果の問題に突き当たるのではなかろうか。
そのときわれわれは、究極のコンピュータを作る必要に迫られるだろう。原子1個という、考えられるかぎり最小のトランジスタで稼働できる、量子コンピュータだ。
その仕組みを明らかにしていこう。シリコン回路の場合、電子の流れに対して開閉できるゲートがある。情報は、いくつもの回路の開閉によって記憶され、その開閉の状態は、1と0が連なった2進数によって記述できる。閉じたゲートが0、開いたゲートが1といったように。
では、シリコンを原子の烈に置き換えてみよう。原子は小さな磁石のようなもので、N極とS極をもつ。原子を磁場のなかに置いたら、上向きか下向きかのどちらかになるはずだと思うだろう。だが実際には、最終的に測定がなされるまで、どの原子も上向きと下向きを同時に示している。ある意味で、原子は同時にふたつの状態をとることができるのだ。これは常識に反するが、量子力学によれば現実である。そのメリットは途方もなく大きい。磁石が上向きか下向きかのどちらかでもある場合、それだけの数のデータしか記憶できない。しかし、どの磁石も両方の状態が混じり合っていたら、原子の小さな一団にはるかに多くの情報が収められる。情報の「ビット」は1か0だが、それが「キュービット」(量子ビット)という、1か0が複雑に混じり合ったものになり、記憶量は莫大になるのだ。
量子コンピュータの話をするのは、われわれが宇宙へ向かうための鍵を握っているかもしれないからだ。理論上、量子コンピュータは人間の知能を上回る能力をわれわれにもたらす可能性がある――まだ不確定要素だが。量子コンピュータがいつ登場するのかも、その真価がどれほどのものなのかもわからない。だが、宇宙へ向かう際に欠かせないものとなるだろう。未来の入植地や都市を建設するだけでなく、さらに一歩進んで、惑星全体のテラフォーミングに必要となる高度な設計ができるようにしてくれるかもしれない。
量子コンピュータは、従来のデジタルコンピュータよりはるかに高性能になる。デジタルコンピュータでは、巨大な整数をそれより小さな2個の整数の積に因数分解するような、きわめて難しい数学の問題にもとづく暗号を解くのに、数世紀かかるだろう。ところが量子コンピュータなら、たくさんの原子の状態の混じり合いを利用して計算し、すばやく解読を終える。CIAなどの諜報機関は、量子コンピュータの将来性を強く意識している。数年前にメディアに流出した米国家安全保障局NSA)の大量の機密情報のなかに、NSA量子コンピュータの動向を調べたものの、近い将来に大きな進歩は期待できないと指摘する極秘文書が交っていた。
あれこれ興奮や騒ぎを引き起こす量子コンピュータだが、われわれはいつそれを手にすると期待できるのだろう?