じじぃの「日本の伝道師たち」

『VOICE』 6月号 資本主義の新たなる実験 岩井克人〈対談〉伊藤元重
岩井克人(東京大学教授) 伊藤元重(NIRA理事長、東京大学教授)
グローバル市場に勝つ日本型モノづくり (一部抜粋しています)
伊藤 最後に、「もはや金融資本主義は終わった、モノづくりを中心とした、日本型資本主義の時代だ」という議論をよく耳にしますが、そのような考えはたについてはどう思われますか。
岩井 その問いに答えるためには、会社とは何か、という問題を避けては通ることができません。会社とはいわば二階建てで、二階には、株主がモノとしての会社すなわち株主を所有しており、一階は組織の部分で、人としての会社が経営者を通じて財産や人的資源を所有してコントロールする。この二つの組み合わせから会社は成り立っている。
近年、世界では株式市場に大きく資本が流入し、二階部分が大きな力をもつようになりました。だが、今回の危機で、株式市場が企業価値を効率的に評価しているという新古典派的な主張は説得力を失った。これまで勢いのあった株式主権論は退潮するでしょう。しかし。一概に二階を否定できない。株主による資金調達がなければ、多くの会社は成り立ちませんし、上場することで経営の透明性もある程度担保されます。逆にいえば、これまでの日本は一階にしがみつきすぎていた面もある。会社はそもそも二階建てなのだから、一階と二階の両輪でいくことになるでしょう。もちろん、このとき一階の要となるのはやはりモノづくりであると思います。
伊藤 日本の「モノづくり」や「日本的な資本主義」をあまり強調することは危険だと思います。最近、若い人たちに、「君たちには専門家になって、特定の分野を深く掘り下げてほしい。ただし、専門バカにはなってほしくない」と話すんです。世の中は激しく動いていて、しかも多様です。そこで、たとえば折り紙を世界一のスピードで折る技術を獲得したとする。たしかに素晴らしい技能ですが、それだけでは自己満足にすぎません。外部にどのようなニーズがあり、どういう技術をもつ人たちがいて、それに対してどうシナジーを起こしていくか、という部分が重要で、それが結局、自分の技能を生かすことにもつながる。
いま大きな利益を上げている企業の一つにユニクロがありますが、あの会社の面白いところは、市場の潮流を読みながら、新しい価値の組み合わせにチャレンジしている点です。残念ながら日本企業は、これまでそういう部分を苦手にしてきました。製品に強い愛着をもっていて、一生懸命モノをつくって少しずつ改良していくやり方をとってきましたが、グローバルマーケットでその手法を続けることは、あまりに実直すぎます。もちろん日本的な深い洞察やこだわりは重要で、その部分を捨てては日本企業たりえませんが、それだけで勝負することはこれからの時代、激しくなるでしょう。
岩井 まさに共感を覚えます。たしかに日本のモノづくりは、自動車にしても電機にしてもよいモノをつくりますが、たとえば藤本隆宏さんなどは、開発力や商品化の部分で負けていて、結局、利益率が高くないことをつねに指摘してきた。
ではどうするか。人間が自由を求めるかぎり、資本主義は続き、グローバル化も続きます。金融は勢いを失うでしょうが、英語が基軸言語になっており、アメリカに全世界から優秀な人が集まりつづける傾向は変わらない。ではそれに合わせて日本もすべて英語化すればよいかといえば、そうではない。
これからの日本は、ある意味でもう"格差社会"にならざるをえません。「モノづくりをする人たち」と「エリート」に分かれるのです。一方で地道にモノづくりをする人の重要性、しかも日本の最大の比較優位がこれからもそこのあることは、今回の危機が終わればますます明らかになるでしょう。
だが同時に、エリートの育成が絶対に必要です。ここでエリートとは、グローバル社会において経済においても政治においても文化においても何が求められているかを見極めた上で、日本なら日本のために戦略を練ることができる人です。そういう人たちが、これまで日本にはあまりにも少なかった。
ただ、強調すべきなのは、英語をある程度自由に使えることは当然ですが、それだけではエリートではない。世界で売れる何か、伝えられる何か、語れる何かを自分のものとしてもっていなければ、意味がありません。そのためには、自国の経済や政治や文化に深く関わっていなければならない。
これからのポスト産業資本主義のなかで、何が勝因となりうるか。それは「違い」です。グローバルな視点に立ちながら、モノづくりの技術を生かし、地道に「違い」をつくっていくことが重要です。そのためにも、会社の二階建て構造と同様に、エリートとモノづくりがうまく融合する社会をつくらねばならない。日本の電機メーカーが失速したのは、かっては「ソニースタイル」など各社の個性がありましたが、アメリカ的コーポレートガバナンスの流行を追ったところはダメになってしまった。「違い」をなくしてしまったのです。
繰り返しますが、いまいった意味でのエリートは、社会的な責任も重く、大変な役割です。すべての人がそうなる必要はまったくない。優れたモノづくりが、これからも日本の中核であることを、忘れてはなりません。
伊藤 私も、この国のモノづくりはダメだ、というつもりはまったくありません。たとえば広島県福山市にカイハラというジーンズ生地を製造している会社があります。このジーンズ生地は世界最強で、ベルサーチやグッチといった超高級ブランドの何十万円もするジーンズから、量販店で扱うの何千円のジーンズまでその幅は広い。国内に競合はいるかもしれませんが、いまのところ海外でカイハラの布に競合する会社は一社もありません。そういった意味で、特定の分野に特化したモノづくりは、まさにこの国のお家芸、といってもよいのかもしれない。
しかし、岩井さんがいわれたように、その存在をグローバル社会に向けて伝えるためにどうするか。ということが、これからは重要になってくるのです。そういう意味でも日本のモノづくりを世界に送り届ける、いわば「伝道師」が必要なのでしょうね。

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どうでもいい、じじぃの日記。
『VOICE』 6月号 「資本主義の新たなる実験」を読んだ。
対談の最後に「そういう意味でも日本のモノづくりを世界に送り届ける、いわば「伝道師」が必要なのでしょうね」がある。
5月11日 BSフジ プライムニュース『日本よ・・・今こそ目指せ!"新モノづくり国家" 政財界キーマンが直言』を観た。
この対談の中で元ソニー社長、出井伸之氏の言葉「ソニーでもトヨタでもドル建てでやってきた。円というものにポリシーを持っていなかった。もともと、金融恐慌が起きる前から、本当は生まれ変わっていなければならなかった」があった。
http://d.hatena.ne.jp/cool-hira/20090514/1242248915
アメリカ発の金融危機に揺さぶられ続けてきた日本。
50年とは言わなくても、10〜20年のスパンで物ごとを見通せる「指導者」、または「伝道師」がいなかったのが日本の不幸だったのかもしれない。
このような「指導者」、または「伝道師」として思いついた人々を書いてみた。
坂本竜馬 幕末の志士
福沢諭吉 「学問のすゝめ」の著者
新渡戸稲造 「武士道」の著者
丹下健三 建築家
松下幸之助 パナソニック元社長
本田宗一郎 ホンダ元社長
川上源一 ヤマハの元社長
盛田昭夫 ソニーの元社長
小倉昌男 クロネコヤマトの元社長
土光敏夫 東芝の再建者
斉藤秀雄 指揮者
坂村健 「TRON」の提唱者
柳井正 ユニクロ社長
外国では。
エイブラハム・リンカーン アメリカの元大統領
アルバート・シュバイツアー 医師
ルフレート・ベルンハルト・ノーベル ノーベル賞の設立者
アンドリュー・カーネギー アメリカの鉄鋼王
トーマス・エジソン 発明王
クーデンホーフ・カレルギー 欧州統合(EC)の提唱者
ビル・ゲイツ マイクロソフト元CEO
スティーブ・ジョブズ アップル元CEO