The Secret History of the Earth
図1 「地球全史スーパー年表」型年表の構造
図2 過去12万年間のイベントEの発生頻度と規模
鏡の日本列島 1:「真新しい日本列島」の使い方を考えるために
[2020.11.1 生環境構築史 伊藤孝【編集同人】
ときどき頭を整理してみるという点では、この方法は非常に優れている。私も大いに推奨したい。だが、地質年代が出てくるたびに、いつも換算ばかりしていられない。そのためここでは、九州大学の清川昌一が考案した『地球全史スーパー年表』★9を紹介したい。
この年表では、地球の歴史を表現するのに、贅沢にも10個の年表を駆使している。過去150億年、50億年……、2000年、200年とどんどんズームアップされたものが、上から下へと10個並んでいる。そして、それぞれの時間のスケールで見た重要な出来事が記述されている。そのため、自分が知りたい出来事が10個の年表のうちどれに載っているかを見ることで、地球史上の重大性の程度と時間の経過ぐあいを肌で感じることができる。
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『日本列島はすごい――水・森林・黄金を生んだ大地』
伊藤孝/著 中公新書 2024年発行
序章 日本列島の見方 より
3 地球科学的な時間の感覚
長大な時間の捉え方
私は現在還暦間近であるが、この齢になっても、日々経験のないことに直面し、右往左往するばかりである。
そんななか友人から、「志村けんは、人間の一生を「1日」として捉えているよ」というはなしを聴いた。さっそく『志村流』を買って読んでみた。どうやらヒトの一生を72年とし、それを1日(24時間)に換算して把握しやすくする、ということのようだ。すなわち、3年が1時間に相当する。
たとえば、『志村流』を執筆したときの志村さんは52歳なので、「人生の17時過ぎ」「夏場だったらまだ明るいけど、冬ならかなり暗いたそがれ時」「これから1日の最後の食事、ディナーが残っているから、楽しみがまんざらないわけではないけれど……」と、一生におけるそのときの自分の立ち位置を分析している。人の何倍も独特の経験を積み、時代を駆け抜けてきた志村さんでも(だからこそかもしれないが)、まだ生きたことのない「一生」を客観的にイメージすることは難しく、なんらかの比喩が必要だったのだろう。
それは地球の歴史を考えるときもまったく同じである。「地球の誕生は46億年前」といわれてもピンとこず、「すごく昔」という感想そかないはずだ。先に出てきたサピエンスが誕生した20万年前とどれくらいかけ離れているのか、実感を伴って理解することはきわめて難しい(「年」を「円」に言い換えると、数字の違いを実感しやすいという説がある。46億年と20万年vs.46億円と20万円、いかがたろう?)
様々な工夫
この捉えにくさをなんとかすべく、多くの工夫がなされてきた。よく用いられるのが、地球の歴史46億年を1年に換算して考える方法。これは『志村流』の人間の一生を1日に換算する発想と同様である。そうすることで、たとえば恐竜が絶滅した6600万年前であれば12月26日となり、意外に年の瀬も押し迫ってからの事件であったことがわかる。ホモ・サピエンスの誕生20万年前は大晦日12月31日の23時37分でNHKの紅白歌合戦もフィナーレを迎えるころで、「なんだよ、サピエンス、大きな面して新入りのペーペーじゃないか!」ということが実感できる。
地球や生命、人類の時間スケールを整理してみるという点で、この方法は非常に優れている。私も大いに推奨したい。だが、地質年代が出てくるたびに、いつも換算ばかりしていられない。そのためここでは、九州大学の清川昌一が考案した『地球全史スーパー年表』を紹介したい。
この年表では、地球の歴史を表現するのに、贅沢にも10個の年表を駆使している。過去150億年、50億年……、2000年、200年とどんどんズームアップされたものが、上から下へと10個並んでいる。そして、それぞれの時間のスケールでみた重要な出来事が記述されている。そのため、自分が知りたい出来事が10個の年表のうちどれに載っているかを見ることで、地球史上の位置づけを肌で感じることができる。
また、この年表の最大の特徴は、すべての年表の右端が今現在になっている点だ(図1、画像参照)。このなにげない工夫の効用は計りしれない。どの年表を見ても、「その時間の尺度でみたときの現在」が浮き彫りになるからである。エドワード・カーは『歴史とは何か』で、歴史とは「現在とかことの間の尽きぬことを知らぬ対話」と述べているが、『地球全史スーパー年表』は、まさに過去と現在の対話が容易になるよう工夫されている年表といえるだろう。
加えて、もう1つ利点がある。いつも現在を含めた年表とすることで、将来的なイベントの再来可能性を直感的に理解できる点だ。たとえば、ある種の性質・規模をもつ地球科学的イベント(ここではイベントEとしよう)が繰り返し起こっているとする(図2、画像参照)。図を見ても、つぎはいつ、どれくらいの規模のイベントEが起こるのか予測するのは難しい。しかし、何か特別なことがない限りは、二度とイベントEが起こらないことはありえず、いつの日かかならず起こるということは一目瞭然だろう。
これから日本列島の成り立ちや資源をみていく上で、高校地学教科書、地理院地図、地質図Naviに加え、この『地球全史スーパー年表』も必需品として挙げておきたい。