じじぃの「ドジャース・大谷の社会学・第8章・野球界の救世主!OHTANIの雑学」

【日本語字幕】「フィールド・オブ・ドリームス」公式戦が問いかける米国の野球愛と郷愁:大谷選手も追い続けるメジャーの夢

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=thYx05Y6-nM

「世界で活躍する日本人」の最高形態である…イチロー大谷翔平に対する「日本人の熱狂」に差がある理由

「出る杭」は打つが、「出すぎた杭」には憧れる
2024/05/15 PRESIDENT Online
内野宗治(フリーランスライター)

アメリカでの評判を取り上げるメディア報道
大谷が23歳で渡米し、MLBで活躍してアメリカで評価されて初めて、僕ら日本人は「大谷は本当にすごいのだ!」という確信を得た。

日本メディアの報道を見ると、たとえば「MLB公式サイトが大谷を特集」「ニューヨーク・タイムズの記者が大谷を絶賛」「対戦相手の監督が大谷に脱帽」といった類いの見出しで溢れている。「大谷はアメリカでこれだけ注目されていますよ!」「アメリカでも高く評価されていますよ!」ということを伝えているのである。

大事なのは自分たち日本人の評価ではなく、アメリカ人がどう評価しているのか、なのだ。もっとも、アメリカ人のコメントにはお世辞やリップサービスが多分に含まれている場合もあるので、多少割り引く必要はあるのだが……。

日本のスターからグローバルスター
とはいえ、大谷フィーバーは何も日本だけでのことではなく、アメリカでも今や大谷は押しも押されもせぬ「MLBの顔」であることは確かだ。

2022年、ニューヨークの中心地であるタイムズ・スクエアには、大谷がパッケージの表紙を飾った野球ゲーム「MLB THE SHOW」の巨大広告が登場。大谷は『GQ』や『TIME』といった名だたる雑誌の表紙を飾り、2021年にはTIMEが選ぶ「世界で最も影響力のある100人」にも名を連ねた。

2023年のWBCに出場したチェコ代表の選手たちは大会前に「対戦を楽しみにしている選手は誰か?」と聞かれ、全員が“Shohei Ohtani”と答えた。同年のMLBオールスターゲームのファン投票で、大谷はリーグ最多の得票数だった(日本からの投票も含まれているが)。そして同年12月、大谷はロサンゼルス・ドジャースと10年総額7億ドル(約1015億円)という「スポーツ史上最高額」で契約を結んだ。

野球はサッカーほど世界的に普及しているスポーツではなく、野球が盛んな地域は主に北米と中南米の一部、そして東アジアに限定される。しかし、その限られた野球界において大谷は、今や世界の誰もが知る正真正銘のグローバルスターなのだ。
https://president.jp/articles/-/81002?page=5

大谷翔平社会学

内野宗治/著 扶桑社新書 2024年発行

リベラル時代の新ヒーローはアメリカでどう受容されたのか?結婚フィーバーからグローバル資本主義まで、大谷翔平を知ることで“世界”が見えてくる。

第8章 ”OHTANI in the U.S.A.” リベラル時代の新ヒーロー より

野球界の救世主

『GQ』の大谷特集は、もちろん単なる写真集ではなくて、同誌の記者であるダニエル・ライリーが大谷に独占インタビューした記事が掲載されている。インタビューは、日本でもおなじみの水原一平通訳(当時)を介して行われた。

大谷の生い立ちから、大坂なおみ錦織圭ら世界的に活躍する日本の若いアスリートを取り巻く環境、さらには野球界の現状など幅広いテーマに話が及んだこのインタビュー記事のタイトルは「大谷翔平はいかにして野球を再び面白いものにしたか」。このタイトルは「かつては面白かった野球が、いつしかつまらなくなった」(でも、大谷のおかげでまた面白くなった)という書き手の認識を伝えている。

では、かつて野球が「面白かった時代」とはいつの話なのか? そして野球のどこが、どうつまらなくなったのか?

野球だけでなく映画への造詣も深いことがうかがえる筆者のライリーは「ハリウッドが野球にしか興味をいだいていないかのような時代」として、大谷がこの世に誕生する前、1980年代後半から1990年半ばに公開された野球をテーマにした数々の映画を紹介している。具体的には『ブル・ダーラム(さよならゲーム)』(1988年)、『メジャーリーグ』、フィールド・オブ・ドリームス(1989年)、『ミスター・ベースボール』、『プリティ・リーグ』(1992年)、『サンドロット/僕らがいた夏』、『ルーキー・オブ・ザ・イヤー(がんばれ!ルーキー)』(1993年)、『エンジェルス』、『リトル・ビッグ・フィールド』(1994年)といった作品群だ。

野球に関する映画が次々生まれたこのころがライリーにとっては「野球の黄金時代」だったようで、その後は「野球がアメリカの文化的想像力の中で衰退をつづけている」とライリーは言う。
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MLBの「マネーゲーム」化と並行して、野球というゲームそのものの質も変わっていった。1990年代後半、サミー・ソーサマーク・マグワイアが歴史的なホームラン競争を繰り広げ、2001年にはバリー・ボンズが歴代最多のシーズン73本塁打を放ったが、彼らは禁止薬物であるステロイドの力を借りていた。また、2000年代には野球のデータを統計学的に分析して選手編成や戦略立案を行うセイバーメトリクスが球界に浸透し、野球は現場の感覚を頼りにしたアナログなゲームではなく、数字に基づくデジタルなゲームに変わった。投手の球数は徹底的に管理され、先発投手の「完投」を理想とするような価値観は時代遅れとなり、効率的でシステマティックな経営を推し進める″株式会社″のごとく徹底した分業制が敷かれた。2010年代にはプレーのトラッキング技術が進化し、選手たちはiPadでデータを見ながら自身の「バグ」を見つけて「フィックス」(修正)する作業に勤しむようになった。

こう書いていると、まるで野球というスポーツがディストピアに向かっているかのようだが、その反動かMLBは近年「古きよき時代(good old days)」を彷彿とさせる懐古趣味的なイベントをよく行っている。昔懐かしいレトロなデザインのユニフォームで試合を行ったり、野球のノスタルジア溢れる名作映画フィールド・オブ・ドリームスの舞台となった球場で特別試合をしたり……古きよきものが失われていく時代にあって、野球に本来備わっていた魅力を何とか取り戻そうともがいているかのように見える。

そんななか、投げてよし、打ってよし、という「野球本来の楽しさ」を体現する存在として大谷が登場したのだ。『GQ』に掲載された記事と写真は、大谷を「古きよき時代を思い出させてくれる存在」としてプロデュースしているかのように見える。