じじぃの「カオス・地球_382_街場の米中論・第4章・ヒポクラテスの誓い」

Global Covid-19 deaths top 750,000

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=C_NMp8XFvZE


The Countries With the Highest COVID-19 Death Toll

Jun 22, 2021 statista
Little more than 15 months into the coronavirus pandemic, Brazil passed a grim milestone on Sunday. The most populous nation in South America became only the second country in the world to surpass half a million COVID deaths. That is according to official figures at least, as it is widely expected that India's official death toll of roughly 390,000 is a drastic undercount. Estimates for India's true COVID losses range from 600,000 up to 4.2 million deaths, as the official Indian case number of just under 30 million infections is estimated to undercut the true count by hundreds of millions due to a lack of widespread testing and poor reporting/tracking.

As the following chart shows, the U.S. has been hit hardest by the pandemic in terms of total lives lost. As of June 20, 2021, COVID deaths in the United States amounted to just over 600,000, ahead of the aforementioned Brazil and India.
https://www.statista.com/chart/24258/countries-with-the-highest-number-of-covid-19-deaths/

街場の米中論

【目次】
第1章 帰ってきた「国民国家」時代の主導権争い
第2章 自由のリアリティ
第3章 宗教国家アメリカの「大覚醒」

第4章 解決不能な「自由」と「平等」

第5章 ポストモダン後にやって来た「陰謀論」時代
第6章 「リンカーンマルクス」という仮説
第7章 国民的和解に向かうための「葛藤」
第8章 農民の飢餓
第9章 米中対立の狭間で生きるということ

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『街場の米中論』

内田樹/著 東洋経済新報社 2023年発行

疫病と戦争で再強化される「国民国家」はどこへ向かうのか。
拮抗する「民主主義と権威主義」のゆくえは。
希代の思想家が覇権国「アメリカ」と「中国」の比較統治論から読み解く。

第4章 解決不能な「自由」と「平等」 より

解決不能の葛藤を抱えた国

アメリカはいまのところ世界唯一の超覇権国家です。どうしてアメリカはこれほど強国になり得たのか。これは僕にとって大変興味のある論件です。僕はその理由を「深い葛藤を抱えているせい」だと考えています。これは僕が長く生きてきて経験的に獲得した知見です。

深い葛藤を抱えている人間は定型に居着かず、一度崩れた後も復元力が強い、逆にシンプルな信条を掲げて、どんな局面でもすぱすぱと決断を下し、内的葛藤のない生き方をしている人間は短期的には効率的な生き方をしているように見えますが、成長がない。そして、一度崩れるともう立ち直れない。

アメリカが成功したのは解決不能の葛藤をその建国のときから抱え込んでいるせいである、というのが僕のアメリカ論のアメリカ論の仮説です。そんなこといきなりいわれても意味がわからないでしょうから、じっくり時間をかけてご説明します。

破られた「ヒポクラテスの誓い」

まえの方でも書きましたけれど、アメリカは「自由」と「平等」の根源的葛藤を抱え込んでいます。この2つはアメリカの統治理念の根本のなす原理なのですが、自由と平等は食い合わせが悪い。自由というのはいかなる外敵な介入も退けて、すべてを自己決定し、その帰結についてはすべて自己責任を負うという生き方のことです。これがアメリカ人が理想とする生き方であることはすでに申し上げました。でも、同時に市民社会が健全に機能し、国が豊かになり、文化的に成長してゆくためには、平等という原理を導入することが欠かせません。

例えば、医療がそうです。前にも書きましたが、パンデミックは全国民がその貧富や強弱にかかわらず等しく良質の医療を受けられるシステムができない限り収束することはありません。医療は個人の利益をもたらすサービスであるから、受益者負担の原則に基づき、医療を受けられる人間だけが受けることができ、貧しい人間は医療を受ける機会を放棄しろということを主張する人がいます(日本にもいます)。でも、国民の一部が制度的に医療から遠ざけられている社会では、その人たちがウイルスや病原菌を培養し続けるので、感染症は絶対的に終息しない。

医療者は患者の貧富の差によって診療内容を変えてはいけないというのは古代ギリシャの医聖ヒポクラテスの誓言の1条でした。社会を疾病から守るためには良質の医療を全員が等しく受けられる医療システムが必要です。疾病から社会を守るために統治者は医療の平等を実現しなければならない。でも、ヒポクラテスの誓いは必ずしも現代の常識ではありません。
医療とは高額のサービスであるから、それを購入できるだけの資力のある人間以外に受ける資格はないという主張はアメリカではいまでも根強くはびこっています。医療先進国であるにもかかわらず、アメリカが感染初期に世界最悪の感染者数と死者数を出したのはそのせいです。

教育は有償であるべきか

教育もそうです。学校教育を受けて知識や技能を身につけることを「自己利益の増大」だと考えるなら、「受益者負担」の原則に基づき、教育は有償であるべきだという話になります。事実、19世紀に公教育の導入に際して、アメリカでは根強い反対がありました。納税者たちは「われわれは刻苦勉励の結果、自分の子どもに学校教育を受けさせるだけの社会的地位を得た。われわれほど努力をしなかった者の子どもたちには同じような教育を受ける権利はない。公教育に税金を投じるということは、われわれの金を使ってわれわれの子どもの競争相手を育てるということである」と公教育に反対しました。

なんとなく理屈は通っているようですが、もしそうやって政府が学校教育への税金投入を止めていたら、アメリカはいまだに一握りの国民しか文字を読めない、四則計算もできないという低学歴国にとどまっていたでしょう。たしかに国内的には「強者のパイの取り分が多く、弱者の取り分は少ない」という「フェアネス」が実現したかもしれませんが、国際者国際社会においては「後進国」扱いに甘んじなければならなかった。

国力を増大させ、集団的に生き延びてゆくためには、どこかで公権力が介入して、富者の私財の一部を取り上げ、強者の私権のの一部を抑制して、平等を達成するということをしなければならない。強者の市民的自由を部分的に制限することなしには社会的平等は絶対に実現しません。