じじぃの「カオス・地球_363_林宏文・TSMC・第5章・これからは中国の時代」

台湾で半導体工場 建設ラッシュ 有事にらんだ "生存戦略"か?【日経プラス9】(2022年6月14日)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=pjWipTSUKC8

「SEMICON Taiwan 2022国際半導体展」でスピーチする蔡総統


「SEMICON Taiwan」開幕、蔡総統「産官学研で人材育成と技術開発進め台湾の強みを保つ」

2022/09/15 Taiwan Today
蔡英文総統が14日夜、台北市内で14日から16日まで開かれている半導体の見本市「SEMICON Taiwan 2022国際半導体展」に伴うレセプションに出席し、英語でスピーチした。
蔡総統は、今年27回目となる「SEMICON Taiwan」は常に提携を促し、最新の産業トレンドと機会を反映するとし、「SEMICON Taiwan」が台湾にとって重要なイベントであるにとどまらず、全世界の半導体産業の進歩と成長のためのカギとなる原動力であることを強調した。
https://jp.taiwantoday.tw/news.php?unit=148,149,150,151,152&post=225076

TSMC 世界を動かすヒミツ

【目次】
はじめに――TSMCと台湾半導体産業のリアル
序章 きらめくチップアイランド
第1章 TSMCのはじまりと戦略
第2章 TSMCの経営とマネジメント
第3章 TSMCの文化とDNA
第4章 TSMCの研究開発

第5章 半導体戦争、そして台湾と日本

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TSMC 世界を動かすヒミツ』

林宏文/著、牧髙光里/訳、野嶋剛/監修 CCCメディアハウス 2024年発行

2024年の熊本工場(JASM)始動と第2工場の建設決定で、注目が高まるTSMC。創業時からTSMCの取材を続け、創業者モリス・チャンのインタビュー実績もある台湾人ジャーナリストが、超秘密主義の企業のベールを剥がす。
(以下文中の、強調印字は筆者による)

第5章 半導体戦争、そして台湾と日本 より

台湾と中国のこれからのヒミツ――台湾半導体産業の中国進出

2018年を境に米国は対中政策を大幅に変更し、それまでの全面的な協調関係から、米中貿易戦争や半導体戦争といった全面的な対決姿勢へと転じた。それに伴ってそれまで中国と密接な経済関係を保ってきた台湾の状況も変化し、過去十数年にわたり4割以上を維持してきた、貿易に占める対中比率が徐々に下がり、2023年の1月から7月までの比率は35.4%まで低下した。そのなかで下げ幅が最も大きかった品目に、半導体や電子部品なども含まれていた。

とはいうものの、台湾社会には中国との関係に関して常に2つの意見がある。特に、台湾の半導体業者が中国に進出するのを許可すべきか、あるいは中国資本が台湾の半導体企業に入るのを認めるかどうかについて、この20数年間の間に少なくとも二度、大きな議論が沸き起こっている。

最初の議論が起きたのは2011年、ちょうど各国が中国に資金投入し始めたころで、8インチ工場を中国に建設したいという企業が台湾でも現れるようになっていた。2回目は2015年だ。中国の半導体大手、紫光(しこう)集団会長の趙偉国(ちょういこく)が訪台して、TSMCやメディアテック(聨発科技)を買収したいなどと発言したものだから、中国からの投資に門戸を開くべきかどうかについて議論が沸き起こった。

最初の議論:これからは中国の時代

2011年の最初の論争のときには、これから中国の時代が到来するといった雰囲気が社会全体に満ちていた。中芯国際(SMIC)創業者の張汝京(ちょうじょきょう)が訪台した時には、講演会の会場に聴衆が詰めかけた。誰もが中国で働きたいと思っていたからだ。ウォール街を含む全世界が中国に投資し、台湾の学術界や業界の重鎮、メディアもこぞって規制を撤廃すべきだと主張した。うかうかしていた台湾企業がチャンスをふいにしてしまう。
とはいえ当時の学術界や政界には、反対の声を上げる人も少なからず存在した。
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当時の反対者たちは、製造業はすべての根幹であり、しかも資本・知識集約型のウエハー製造は要(かなめ)のなかの要であるため、安易に規制を撤廃すべきでないと考えていた。台湾がIC製造を握るということは、すべてを掌握するに等しい。風船の束にたとえると、多くの雇用を創出する製造業は、すべての風船のひもを1つに結んだ結び目の部分にあたる。その結び目の部分を移転することは、風船全体、つまり製造業から派生する全ての派生産業が持っていかれることを意味するのだ。

ほかにも、中国市場は巨大でICの95%は輸入に頼っているため、台湾が中国市場に食い込むためには中国進出しかないとも声高に叫ばれていた。だがこの理屈もあまり正確ではない。台湾も当時ICの80%を輸入に頼っていたが、海外から輸入するICに関税をかけていなかった。というのは、国内のICを保護するために輸入ICの関税を引き上げた場合、国内の完成品業界が打撃を被ることになるからだ。完成品業界のほうがIC業界よりも生産額が大きかったため、ICの関税をむやみに引き上げると、完成品産業が打撃を食らって製品を出荷できなくなってしまうのだ。

同様に、中国は組み立て製造受託を主としていて、携帯電話やパソコンといった完成品業界の生産額のほうが大きかった。そのため中国もICを大量に輸入していたが、やはり台湾と同じくICに関税をかけていなかった。そうしなければ完成品業界の生産額を増やし、世界の工場を円滑に稼働させることはできなかったからである。ICに関税がかからないのだから、どうしても中国に進出しなければならないわけではない。
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また台湾政府は、半導体産業はまだ急成長段階にあるため、中国に進出しないのであれば台湾で積極的に投資すべきだと考えて、中部サイエンスパークの発展も推進した。そしてTSMCとUMCも相次いで合計9000億新台湾ドルにも上る投資プロジェクトを発表して、半導体の製造という、風船の束の結び目の部分が台湾に残るようにした。

2回目の議論:IC設計業者の市場、中国

紫光集団の趙偉国が訪台した2015年に起きた二度目の論争のときには、その議論がもっとオープンに行われるようになっていて、反対派の研究者が何人も表舞台に立って、業界関係者と議論を戦わせた。

まず、2015年の台湾と中国の景気を振り返ってみよう。台湾では当時、DRAM、パネル、太陽光パネル、LEDというという4つの「惨」業が大赤字や倒産に喘いでいた。だが中国のインターネット業界は発展のピークを迎えており、アリババやテンセント、バイドゥなどの企業が世界の資本市場で多額の資金を集めていた。そんななか趙偉国が豊富な資金を背景に訪台し、半導体各社を買収したいと言ったものだから、台湾社会から大きな反発の声が上がった。そして台湾IC産業への中国からの投資の解禁に反対する声も強くなった。

とはいうものの、当時のIC産業の関係者から規制撤退を求める声が少なからず上がっていたのも確かだ。とりわけIC設計業者は、IC設計はウエハー工場とは違うため、中国への、中国進出を禁止すべきではないし、中国からの投資も禁止ではなく、何らかの規制を設ければ済むはずだと考えていた。台湾のiC設計業者の市場は中国にあったため、どうしても市場に近い場所に行かざるを得ないというニーズがあったのだ。また仕様の決定に早くから参加するには、中国で研究開発に投資して人材を雇用する必要があったし、もし中国側が資金投入や株式購入を行ってくるなら、より多くの戦略的パートナーや同盟関係を手に入れることができる。

IC設計業者がこう考えたのも無理のない話だった。だが、趙偉国が台湾で話した内容が強気で傲慢に感じられたせいか、社会が反発し、2016の総統選挙では政権交代が起きて蔡英文(さいえいぶん)の民進党政権が誕生した。新政権は民意にそって、台湾半導体企業への中国資本の投入を厳しく制限した。

このときの論争をもう一度振り返ってみると、政府が台湾半導体企業への中国資本の投入を許可しなかったことに多くの業界関係者が歯噛みして、政府は何をやっているのだと悔しがっていたことが思い出される。だが2018年に米中貿易戦争とハイテク戦争が始まったため、中国大陸の半導体業界を取り巻く状況も急変した。もしあのとき、台湾企業が中国企業に資本参加や投資を許していたら、多くの中国企業が米国企業が米国のエンティティリストに掲載された今、一体何が起きていただろうか。まさに人間万事塞翁が馬。目の前で今起きていることが将来的にどうなるかなんて、誰にも分からないのだ。