じじぃの「カオス・地球_02_人間がいなくなった後の自然・荒地・核実験のあとで」

The Five Sisters Bing


A nuclear weapon test by the US military at Bikini Atoll in 1946


The Five Sisters Bing

28th March 2021 Scottish Shale
Since 1995, Westwood Bing (a.k.a the five sisters) has actually been a scheduled monument and is now protected for posterity. They’ve become a symbol of West Lothian, and a memorial to the shale oil industry, yet the famous five-leafed bing is an oddity, a one of a kind.
https://www.scottishshale.co.uk/stories/five-sisters/

After 75 years, it’s time to clean Bikini

March 9, 2021 Bulletin of the Atomic Scientists
A nuclear weapon test by the US military at Bikini Atoll in 1946. (Credit: US Defense Department image via Wikimedia Commons, licensed with PD-USGov-Military)
https://thebulletin.org/2021/03/after-75-years-its-time-to-clean-bikini/

『人間がいなくなった後の自然』

カル・フリン/著、木高恵子/訳 草思社 2023年発行

第1部:人間のいない間に より

第1章 荒地:スコットランド、ウエスト・ロージアンのファイブ・シスターズ

エディンバラから南西に約24キロメートル、薄緑色の風景の中に立つ節くれだった赤い拳がある。赤みかかった金色の砂利でできた5つの山が、草とコケでつながり、あたかも火星にそびえる山脈か、あるいは壮大な規模の土塁のように見える。これらはボタ山である。

それぞれの山は、地表の同じ地点から急な尾根に沿って、扇状に、幾何学的な簡素な姿を見せている。これらの尾根に沿って、かつては何トンもの粉々にされた岩が蒸気を上げてトロッコに載せられ上方へと運ばれた。ここは近代石油産業の黎明期からの廃棄場所だ。

1860年代から60年間にわたって、オイルシェール(油母頁岩)を燃料に変える革新的な精製法のおかげで、スコットランドは世界有数の石油産出国になった。奇妙な山々は、その時代の記念碑のようにたたずんでいる。
当時、120棟の工場が唸り上げ、その少し前までのどかな農村地帯だったこの土地から、年間60バレルの石油をしぼり取った。しかし、その精製工程には多額の費用と多くの労力を要した。石油を取り出すにはシェール(頁岩)を砕いて加熱しなければならなかった。そして、大量の廃棄物が発生した。石油10バレルに対して、使用済みのシェールが6トンも出るのだ。総計、2億トンもの廃棄物を、どこかへ捨てなければならなかった。それがこの巨大なボト山である。全部で27基あったが、そのうち19基が現存している。

しかし、ボタ山と呼ぶのは、その大きさ、その高さ、風景の中に常時存在する形状も規模も不自然なこの山を低く評価しすぎれいる。地元では「ビングス(bings)」と呼ばれている。古ノルドのbingr(ベッド、枕)に由来し、堆積、ゴミ捨て場、置き場の意味である。

先端の尖った5つの細長い部分を持つピラミッド状の独自の形状をしているものを、「ファイブ・シスターズ」として知られている。各シスターは頂点に向かってゆるやかに傾斜し、その後、急勾配で下る。ファイブ・シスターズは平坦な、何の変哲もない風景――ぬかるんだ野原、鉄塔、干し草の俵、家畜――の中に立っているため、この地域の最も重要な陸標となっている。他には、ピラミッド形もあれば方形もあり、自然に戻りつつあるもの、形を成していないもの、生焼けの赤い脇腹を見せるウルル(オーストラリア大陸にある世界で2番目に大きい1枚岩)のような台地に見えるものもある。

核実験のあとで

ビキニ環礁は、ターコイズブルーのラグーンを囲むサンゴ礁の島々である。
1940年代から1950年代にかけてアメリカが核兵器の実験場として使用していた。特に1954年のブラボー実験では広島に投下された原爆の7000倍以上の威力を持つ熱核爆弾が爆発した。この爆発の威力は設計した科学者たちにショックを与え、ひいては、大気圏内の核実験が世界的に禁止されるようになった。

爆発は、幅約1.6キロメートル、深さ80メートル以上の大きさのクレーターをえぐり出し、2つの島を蒸発させ、蒸気、加熱された空気、粉砕されたサンゴからなる巨大なキノコ雲と、第2の太陽のように輝く火の玉を形成し、空を真っ赤に染めた。爆風は約40キロメートルの高さまで上昇した。その後、放射性降下物が、マーシャル諸島に吹雪のように降り注ぎ、触れたものすべてを焼き尽くした。ラグーンの水は摂氏5万5000度の高温で沸騰し、高さ約30メートルの波となってラグーンの外へ飛び出した。そのため100万トンもの砂が巻き上げられ、爆発で生き残ったサンゴも全滅した。結果、海底はひどく汚染され、どんな生物も存在しない荒地と化した。

しかし、2008年、国際的な研究チームが環礁に戻り、ラグーンを調査したところ、驚いたことに、爆発で生じたクレーターの中に、数十年の時を経て、活発な水中生態系が形成されていた。あるサンゴ学者は、「手つかずの自然だ」と驚嘆して述べた。ただし水面上では、この島は打ち捨てられた不気味な廃墟のままで、小さな観光事業の世話人以外だれもすんでいない。そして、この島の地下水とココナッツは人間が飲んだり食べたりするのは適していない。しかし、眼下のラグーンには、万華鏡のように千変万化する生命が渦巻いていたのだ。
以前よりは種は少ない。サンゴのうち28種がまだ見つかっていない。しかしそれでも、ここは地球で最も印象的なサンゴ礁となっている。サンゴは車ほどの大きさの巨大な岩のクッションのような形状や、8メートルの高さの、ほっそりした枝を持つ樹木のような形状に成長していた。

スタンフォード大学のチームが2017年に再びクレーターに潜ったところ、さらに高密度の生命であふれていることがわかった。何百匹もの魚の群れ――マグロ、オグロメジロザメ、フエダイが、澄んだ水の中を泳ぎ回っている。このプロジェクトを率いるスティーブン・パルンボ教授は、「視覚的にも、感情的にも、息をのむほどすばらしい」と述べている。奇妙なことに、この新しいサンゴ礁は、この環礁の傷ついた歴史によって守られてきたのだと彼は言う。人為的干渉がなかった結果、魚の個体数は増え、サメはより豊富になり、サンゴはさらに美しく成長した。

残り火の中から豊かな生命がよみがえった。生命は、この地には、風や鳥ではなく、海流によって運ばれた。

海の中の塵のようなサンゴの幼生は、約120キロメートル離れたロングラップ環礁から運ばれてきたと考えられる。以前の、白い粉状になったサンゴの残骸が散らばる月面のように荒涼とした風景にうがたれたクレーターに、新しいコロニーを作り始めたのだ。

またしても、生命は潜伏していたのだ。生命は、大気と同じように目に見えないが、常に私たちの周りを漂っている。それは私たちが呼吸する空気の中に中にもあるし、私たちが飲む水の中にもある。味わってみよう。息を吸う時、水を飲むとき、私たちは生命の可能性を味わっている。その何でもないコップの中には、すべてのものの胚芽が入っているのだ。