じじぃの「歴史・思想_591_福島香織・台湾に何が・台湾侵攻のタイムリミット」

【タカオカ解説】中国が軍事演習で晒した“手の内”から見える台湾侵攻の戦略と日本をけん制する本当の理由

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=RGCjWEBxu-U

中国の台湾侵攻はあるのか?


”独裁者”習近平が「台湾武力統一」に動き出すXデー

2022/10/31 Yahoo!ニュース
象徴的なシーンだった。
10月22日に北京の人民大会堂で行われた、中国共産党大会の閉幕式。前総書記の胡錦濤(こきんとう)氏が、職員にうながされ退席させられたのだ。

今回の中国指導部の刷新で、人民解放軍トップの顔ぶれも変わった。台湾と軍事的に対峙する南東部・福建省出身の幹部や、8月の大演習を指揮した人物が抜擢されたのだ。中台の緊張関係は一気に高まっている。中国人ジャーナリストの周来友(しゅうらいゆう)氏が解説する。
「これまで中国は、台湾統一を三つの段階で考えていました。一つ目は、対話などによる平和的統一。二つ目は、海域の封鎖など圧力による統一。最終手段が、武力を行使した統一です」
習氏が態度を硬化させたことにより、最終手段が実行される「Xデー」は一気に具体化しそうだ。可能性が高いのが台湾総統選と米大統領選の、二つの重要な選挙が行われる年だという。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が語る。
「『だいぶ先だろう』という予測をしていた米国政府が、最近しきりに『’24年に中国が台湾に侵攻する』という情報を流しています。おそらく、中国の精度の高い内部情報を掴んだのでしょう。艦艇や爆撃機空挺部隊を使い一気に侵攻し、米国との限定的な衝突も起きるかもしれません。そうなれば、日本も他人事ではいられない。沖縄や九州にある米軍基地が、ミサイル攻撃の対象になるんです」
https://news.yahoo.co.jp/articles/4352760c9dfeab7aca0485020e938535ebbf1652

『台湾に何が起きているのか』

福島香織/著 PHP新書 2022年発行

第3章 台湾侵攻のタイムリミット より

台湾侵攻は2022年秋の予定だった?

蔡英文政権が2期目を迎え、2024年の選挙でさらに民進党政権が続くかもしれないという予測も見えてくると、習近平はますます台湾統一を焦りはじめる。台湾で生まれた民進党という中国共産党と縁もゆかりもない政党による政権がすでに8年続き、仮にその後もう2期8年続けば、台湾の国柄は大いに変わるだろう。
それは1人の人間が物心ついてから大人になるまでの間、ずっと民進党政権であったということであり、その政権の価値観や歴史観が国民の大部分に浸透するのに十分な時間といえるからだ。憲法を改正したり、国名を変更したりしようと思えば、そのための国内外の世論環境を整えることも可能な時間だといえる。

だから、2024年の選挙がおそらく台湾の命運を左右する重大な選挙となる。習近平政権として理想をいえば、その前に、自ら党内における絶対権力を確立するためにも、台湾統一を具体化せねばならない。

なので台湾統一のタイムスケジュールについて、もっとも早い予想は2022年から23年前後、次に2024~2025年、さらに遅くとも2027年というタイムリミットが挙げられてきた。さらに2035年説、2049年説もあるのだが、そこまで先であれば、習近平独裁体制確立のために台湾統一を利用するという目論見は事実上、失敗したということになる。この場合の中台問題は別のフェーズで語られる話になろう。
2022~2023年前後の1つは、ロシアのFSBロシア連邦保安庁)から漏洩(ろうえい)したという機密文書だ。この文書自体はロシア語であろうし、その中身を論評する記事の多くがウクライナ語やポーランド語であったと思う。私は台湾のニュースサイト「新頭殻」(NewTalk' 2022年3月15日付)で、中国語でこれに関する報道を読んだ。
それによると、FSBの機密文書がハッキングによって漏洩され、ロシアの反腐敗ネットサイト、Gulagu.netの責任者で、人権運動家のウラジミール・オセチキンによって公開されたのだという。
このリポートでは、ロシアがウクライナに対して大量破壊兵器の使用を準備しているといった内容も曝露しているのだが、中共総書記の習近平が2022年秋に台湾の前面接収を計画していた、ということも暴露していた。
習近平はもともと2022年の秋に台湾を全面的に進行する計画を持っていたという。「彼(習近平)は、(2022年秋の大会で)第3期目を連任するために小さな勝利を挙げる必要があった」からだという。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻が泥沼地獄にはまり込んで復活できないと見るや、習近平は台湾武力侵攻の機会がすでに失われたことに気づき、さらに米国に、中国を恫喝する口実を与え、同時に習近平の政敵にとって有利な条件を与えていることに思い至ったという。

中国への経済制裁はあるか

フィナンシャル・タイムズ』(FT、2022年5月1日付)の独自ダネによれば、中国の金融管理当局は銀行幹部を招集して、海外資産をいかに守るかの対応を討議した。米国が主導する対ロ制裁に、中国の金融資産を連座させないための対策を協議したという。一般に、この討議を招集した背景には、中国が台湾に侵攻したときの対応を考える意味もあったようだ。
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ある財政部高級官僚は、「習近平政権はすでに米国およびその他同盟国がロシア中央銀行のドル試算を凍結した能力について、警戒を維持している」と語った。
官僚と会議参加者は具体的な状況について言及しなかったが、この種の制裁は、中国が台湾に侵攻したときも起きうるとの認識を示した。
「もし中国が台湾を攻撃したら、中国と西側経済のデカップリングはロシアとのデカップリング以上に深刻な影響をもたらすだろう。中国経済は世界の隅々まで浸透しているから」とある参加者は語ったという。
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「米国が中国に対して大規模制裁をするのはきわめて難しい」と香港東欧資本研究公司のアンドリュー・コリヤーは指摘する。「それは核戦争でお互いが殲滅し合うようなものだ」と。
一方で、台湾国立雲林科技大学財務金融学科の鄭政ヘイ教授はラジオ・フリーアジア(RFA)の取材でこう答えていた。
「ロシアがウクライナ戦争を開始したとき、米国を中心とした西側国家はロシアに対してSWIFT排除、資産凍結など一連の制裁を行い、中国も脅かした。中国は結局中立・独立路線をとらざるをえず、ロシアの立場に完全には立てなくなった」
「米国は、中国が今後も発展し続け、5~10年後には米国は米国は中国を抑止する能力がだんだん弱くなっていくと察している。中国も同様のことを意識している。なので、中国が実質的にロシアを支持するかしないかにかかわらず、米国は軍事同盟国、西側経済同盟国とともに中国を制裁していくだろう」
「中国内部では今、台湾統一アクションを起こすのと、5~10年後にアクションを起こすのと、どちらが成功率が高いのかを考えているところだ」という。

共産党史に名を刻むレガシーを優先

もし、中国が台湾に侵攻し、同様の制裁を中国が受ければ、中国は耐えられるだろうか?
江蘇省の匿名のエコノミストは、RFAにこう答えていた。「習近平が台湾との戦争をする場合、習近平の思考に立って考えれば、制裁など大したことがないと判断するだろう」「天安門事件の鎮圧後ですら、最終的には外国または中国にやってきて投資したのだから、3~5年、あるいは8~10年の制裁ぐらいでは、中国は根本的に恐れない」「もし、台湾を手に入れれば、習近平の名は共産党史に刻まれ、だれも自分を権力の座から引きずり降ろそうとは思わなくなる。台湾を自分の統治下で奪還したのだから」
つまり、10年くらいの経済制裁の痛みよりは、共産党史に自分の名を刻む永遠のレガシーを習近平は選択するだろう。そして今すぐ武力統一アクションを起こさなくとも、10年以内に起こす可能性は高い、という話だ。
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米CIAのバーンズ局長も7月20日習近平は数年内に台湾に対する軍事行動を起こすリスクが非常に高い、と発言している。米国コロラド州のアスペン戦略安全フォーラムでの発言だ。
バーンズは「中国指導部は現在、ロシアのウクライナ侵攻を研究し、教訓にしようと努力している。これは彼らにとってどのような意味があるか?」と問いかけ、CIAの分析によれば、目下の問題は「中国指導部が数年後に台湾武力統一をしようとするのか否かの問題ではなく、いつ軍事行動を行うかの問題である」と語り、もはや中国による台湾に対する軍事行動は決定しているとの見方を示した。
バーンズによれば、中国はすでにウクライナ戦争に対する観察から「十分な圧倒的実力がなければ、迅速な勝利、決定的な勝利を得ることはできない」と学んでいるという。
2022年度の日本の『防衛白書』でも、初めて台湾有事を想定した記載がなされた。軍事バランスは中国側に有利に変化していると分析し、台湾侵攻シナリオも、中国沿岸に軍事演習を装っての軍集結があり、重要目標へのミサイル発射やサイバー攻撃のあと強襲揚陸艦による上陸作戦の3段階を想定し、中ロ軍事協力の可能性やハイブリッド戦への対応についても書き込まれた。
こうした様々な方面の見方を総合すれば、台湾海峡有事は数年内にある、と見構えておくべきだろう。そして数年後に、あの取り越し苦労は何だったのかと笑って迎えられる日があれば幸運であったと思うのがよい。
そして台湾人に今起こりつつある危機を、日本や米国がうまく強力して乗り越えていけば、日本にとっても台湾にとっても、新しい国際社会の枠組みにおいて、新しい国家として生まれ変わってデビューするチャンスとなると思うのだ。日本は戦後レジームを脱却した成熟したアジアのリーダーとして、台湾は成熟した民主主義を勝ち取った新国家台湾として。

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