じじぃの「科学・地球_284_mRNAワクチンの衝撃・同盟締結」

mRNAワクチンって?新型コロナウイルスのワクチンについて堀江が解説[PR]

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=A-_FlY5_UlA

mRNA医薬とは

香港、3回目のワクチン接種へ 中国製から切り替え促す

2021年11月3日 日本経済新聞
香港政府は3日、新型コロナウイルスワクチンの追加接種(ブースター接種)を11日から始めると発表した。
まず60歳以上の高齢者や医療従事者など約186万人を対象に実施する。専門家は中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製ではなく、独ビオンテックと上海復星医薬が協力して製造販売するワクチンを推奨した。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM032J40T01C21A1000000/

【特集】mRNA医薬が未来を変える

ナノキャリア株式会社
●mRNAを用いたCOVID-19のワクチン開発
特筆すべきはその開発スピードであり、COVID-19ワクチンの場合、最初にウイルスのゲノム配列が報告されたのが2020年1月10日ですが、その4日後にはmRNAワクチンのGMP製造が開始され(Moderna社)、2ヵ月後にはPhase1試験を開始、半年後にはPhase3試験が開始されました。
10ヵ月後の11月にはModerna社、Pfizer/BioNTech社のmRNAワクチンがPhase3で有効性が確認され、重篤な副作用も見られないという結果が発表されました。本年12月には緊急使用承認で実用化が始まるという驚異的なスピードです。
https://www.nanocarrier.co.jp/special/%E3%80%90%E7%89%B9%E9%9B%86%E3%80%91mrna%E5%8C%BB%E8%96%AC%E3%81%8C%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E3%82%92%E5%A4%89%E3%81%88%E3%82%8B/

『mRNAワクチンの衝撃』

ジョー・ミラー、エズレム・テュレジ、ウール・シャヒン/著、石井健、柴田さとみ、山田文、山田美明/訳 早川書房 2021年発行

第6章 同盟締結 より

大文字で強調されたロイターのニュース速報がパソコン画面に現れ、ロシュニ・バクタは新型コロナワクチンをめぐるファイザーとの提携を初めて知った。ロシュニはアメリカ人の分子生物学者で、帰国するドイツ人の夫についてこの地にやってきた。特許と許諾の分野で専門知識を蓄え、本人いわく「機械工が自動車のセールスウーマンになった」のちにビオンテックに採用される。科学者として同社の技術をよく理解していて、熟練した商取引のやり手として同社の知的財産を最大限に守る術を心得ていた。医薬品開発企業との提携が次々と結ばれるなか、ロシュニの役割はビオンテックの事業開発において中心的な位置を占めるようになりつつあった。ウールはその性格からして新しい提携先を信頼しがちで、関係する研究者と意気投合したときには特にそうだ。この信頼を悪用されないようにするのがロシュニの役割である。「私の仕事は会社を守ることです」と彼女は言う。だからこそ、3月13日金曜日の朝、デスクトップ・パソコンの画面に出た速報には驚いた。
ファイザー社――自社の抗ウイルス療法の開発を進め、mRNAコロナワクチン候補についてビオンテックと協力」と速報にはあった。お茶を淹れたばかりだったロシュニはびっくりして振り返り、その朝に唯一オフィスにいたビオンテックのコミュニケーション責任者ヤスミナ・アラトヴィチのほうを向いた。「これって……本当? うちの会社、ファイザーと提携したの?!」。ロシュニの部署の社員は3人だけで、中国の復星(フォースン)医薬とのあいだで準備中のもののほかは、誰も提携の予定について話していなかった。ヤスミナも何も聞いていない。これはインフルエンザのワクチンでのファイザーとの提携の一部ではありえないことをロシュニは知っていた。その合意のもとでアメリカ側がさらなる薬品を開発するオプションは存在しなかったからだ。
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「チームからの回答では、mRNAが提案されていました」とアルバート・ブーラ(ファイザー社の最高経営責任者)は振り返る。「私には驚きでした。実証ずみの技術ではなかったからです」。アルバートはビオンテックとのインフルエンザ事業には最低限の関与しかしていなかった。2018年に承認のための書類がデスクに届いたときに、初めてこの提携のことを知ったのである。「特に注意を払っていたわけではありません」とアルバートはあっさり認める。「そのときにはウールのこともほかの人のことも知らなかったのです」。キャスリンから新型コロナウイルスでのビオンテックとの協力を提案されると、アルバートはウール自身と話したいと申し出て、急ぎ2人の電話会談が設定された。「一目ぼれでした」。最初の話し合いについて、ファイザーの最高責任者は言う。「すばらしいかたちで意見が一致しました」。すぐに「ウールは非常に誠実で刺激的な人物だとわかりました。ずば抜けて高い信頼感を覚えたのです」。一方でウールは、アルバートを「とても博識で個人として熱心に仕事に関与している」人物だと感じたという。
ちょっとした雑談ののち、2人の最高責任者は基本的なルールの話し合いに移った。
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こうした応酬があっても、作業のペースはほとんど落ちなかった。通常、条件規定書を起草して規約を結ぶまでには最低でも6ヵ月はかかる。比較的シンプルな取り決めだった復星との提携は、わずか2ヵ月でまとまった。ファイザーとは、最初の契約が無事締結されたのが4月9日、「基本合意書」のわずか21日後である。しかし当然ながら、それには24時間体制の努力が必要だった。「大詰めの段階では、36時間ぶっ通しで交渉したと思います」とロシュニは言う。「火曜の夜から始まって……木曜の朝にそれに署名したんです」。祝福はなく、ただ疲労と、両社の科学者がようやく全速力で前進できる準備が整ったという安堵感だけが残った。ショーンがビオンテックの経営陣と監査役会にメールを送る。「終わりました」
その72時間前には、こうした結末を迎えられるとは思えなかった。ロシュニはファイザー側の担当者と、いくつかの重要な判断の最終決定権をめぐって闘っていた。臨床試験へ進ませる最終候補の選択、世界規模の試験の設計、どこでどのようにしてワクチンをつくるべきかの判断などである。それらは表にまとめられ、衝突する可能性のある項目について1つひとつ詳しく議論していた。「必死に闘っていました」と、どのような契約にすべきかをあらかじめ慎重に考えていたロシュニは言う。ゴールが近づいてきてはいたが、まだいくつかの争点が残っていた。

そもそもビオンテックは従業員1300人の会社であり、それが7万人の社員を擁する会社に対して要求をしていたのである。「向こうは非常に優秀でした」とロシュニは尊敬を込めてファイザーの担当者たちのことを語る。

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1年以上前のこの出来事を振り返ってロシュニは、自分とショーンはビジネスと法律の視点から物事を考えていたと認める。「どれだけこちらが手に入れてそれを保っておけるか」というのがその視点である。一方でウールは純粋に「どうすれば効率的に意思決定をしてこの仕事を実現できるか」という視点で状況を見ていた。そして契約の進捗を妨げるもpのはすべて取り除かれる。30日以内に決定が至らなかった場合には双方が法廷に訴える権利を持つとする調停の仕組みもその1つである。「ウールが言うんです。『それはすべて削除しろ』って」、いまなおこの措置に愕然としているロシュニはそう回想する。「『調停を待っていたら、このパンデミックに対処することなんてできない』と言って」
ウールとエズレムはかつて独立を手放す経験をし、苦労して勝ち取った独立を長年必死に守ってきた。シュトリュングマン兄弟の辛抱強さと潤沢な資金のおかげで、10年以上、なんとか自立を確保してきたのだ。いま人生最大の仕事において、2人は製薬大手を信じようとしていた。プロジェクト・ライトスピードのすべての段階で、両社が合意に至るまでの間、バーチャル会議室から抜ける者は誰もいないのだ。