じじぃの「名門企業・WH買収・失敗経営者による人災なのか?東芝の悲劇」

【紹介】東芝の悲劇 (大鹿 靖明)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=a5jVmmhIIUE

東芝が会社3分割、半導体事業に積極投資 キオクシア株は現金化

2021.11.12 xTECH
東芝にもはや総合電機メーカーという感覚はない。これは解体ではなく、進化だ」――。
こう力を込めるのは、東芝 代表執行役社長CEO(最高経営責任者)の綱川智氏だ。東芝は2021年11月12日、新たに独立会社を設立し、同社の事業を3社に分割・再編すると発表した。23年度下期に分離し、独立会社の上場完了を目指す。
半導体事業が好調なため、今後積極的に投資していきたい」(同氏)と述べる(図1)。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/11660/

読書メーター 東芝の悲劇

どんなに優れたプロ経営者が行ってもうまくいかない時はある。しかしこれを読んだら、如何に東芝はトップに恵まれなかったか知れる。
Sony(出井氏)も東芝(西室氏96-00年)も異例人事で社長就任し失敗に至っている。元凶は原発メーカーのウエスティンハウス(WH)の買収前からあったことを知る。半導体製造の苦境は知っていたが、東芝ココム問題からトップの認識問題が指摘されている。
高くついたWH買収に震災が重なり、粉飾決算など企業として艇をなしていない。企業訪問した大学の先輩はどうしているだろう。これは正しく人災である。
https://bookmeter.com/books/12287680

東芝の悲劇』

大鹿靖明/著 幻冬舎 2017年発行

第6章 崩壊 より

「騙された」

経産省東芝半導体工場を公費で支援しようと駆けずり回っていた2016年11月のある日、東芝会長の志賀重範は川崎市のホテルの宴会場で1人、暗い顔をしていた。
その日、ウェスチングハウスの買収10周年を祝うパーティーが開かれていた。集まったのは、東芝でWH買収にかかわった者やWHに出向経験のある者ばかりだった。原子力担当の畠澤守執行役常務が「主張先のパリからまっすぐこの会場に駆けつけました」と言って沸かせ、会場のあちこちで久闊(きゅうかつ)を叙(じょ)する杯が重ねられた。東芝原子力部門を歩んだ同じ釜の飯を食った身内の集まりだったが、志賀は場違いなほど暗く沈んだままだった。
「どうしたんですか」。参加者の1人が声をかけても、志賀はずっと押し黙ったままだった。頬はこけてげっそりして見えた。
「なんでシカゴ・ブリッジ&アイアン(CB&I)からストーン・アンド・ウェブスター(S&W)なんかを買収したんだい? 評判が悪い会社だけれど、大丈夫かい? だいたいウチが土木工事まで手を出して大丈夫か」
そう尋ねられると、志賀は暗い表情のまま、「お金が足りないんです」「お金を払ってもらえないんです」と言った。
「お客様からお金を払っていただけないんです……」
その様子を見て参加者の1人は「彼の、あんな様子を見たことがない」と背筋が寒くなった。
志賀は東芝の会長である。それが、うつろな表情で「お金が……お金が……」とつぶやく。
「何かとんでもないことが東芝で起きている」。そう参加者は慄然とした。
この会場で志賀は、「あなたが不正会計にかかわったと言われているけれど、本当なのか」と、尋ねられてもいる。
だが、彼は無言のままだった。
志賀は不正会計にかかわっていた。
    ・
東芝はついに海外の原子力事業から撤退することを表明した。責任者の志賀は東芝の会長を辞任することになった。
WHは2017年3月29日、米連邦破産法11条(チャプター・イレブン)の適用を申請し、総額1兆円の負債を抱えて経営破綻した。東芝は、WHが破綻して米ニューヨーク連邦裁判所の管轄下に入ることによって、WHを連結対象から外すという「非連結化」をすることができた。経産省の背中を押され、三菱重工から奪うようにして大枚をはたいた買収劇だったが、綱側は「振り返ると(買収は)問題のある判断だった。ガバナンス、意思疎通、経営に関する全般的なこと。そういうことを中心に問題があった」と総括した。東芝はWHへの債権の貸倒引当金と米国の両原発の親会社保障によって総額1兆円もの損失を計上する羽目に陥った。高値づかみした買収の失敗(投資損失)を含めると、累計1兆4000億円もの巨大損失を蒙った。西室泰三がけしかけ、西田厚聰佐々木則夫が猪突猛進したWHの買収は、東芝にとってまったく大失敗であった。
遅れていた工事を進めようと相互のクレームを相殺するために、S&Wをただで引き取ったところ、WHは破綻し、東芝債務超過に陥った。平田はそれを自分たちは「騙された」と受け止めた。「状況を見ていると、まるで我々は、米国の原子力産業に食い物にされてしまった」。平田が言うように、人の好い東芝は足元を見られ、海千山千の米国の原子力マフィアに嵌められたのだろうか。それとも、平田はそうとは口にしなかったが、すべてを知る立場の志賀が皆を騙していたのでろうか。
新日本監査法人に代わって東芝の監査を受け持つようになったPWCあらた監査法人は、WHにおける「不適切なプレッシャー」を問題視し、東芝やWHが米国の原発工事に絡んで以前から損失が拡大していたことを知っていながら隠していたのではないか、と疑った。自信を持って精査できるまで監査法人として決算を承認できあいと言い出した。
東芝はWHによって生じた巨額損失を埋めて財務体質を改善するために、利益の源泉である半導体フラッシュメモリー事業を売却することを決めた。

エピローグ より

どんな名門企業といえども、トップ人事を過てば、取り返しのつかないほどの打撃をその企業に与える。1国は1人を以て興り、1人を以て滅ぶ。東芝で起きたことは、それだった。どこの会社でも起こりうることである。三鬼陽之助がかつて書いた『東芝の悲劇』がまた繰り返された。
2015年に粉飾決算が表面化して以来、長年先送りしてきた米ウェスチングハウス(WH)の減損、そしてWHの経営破綻、資産切り売りという東芝の凋落は、すべて経営者の失敗に起因するものであり、その意味では「経営不祥事」だった。
穏やかな紳士による経営が長く続いてきた東芝バブル経済崩壊後、次第に業績が伸び悩むようになり、思い切った刷新を託されて傍流から経営トップが起用された。主流の重電畑でも、昭和40年代まで成長の牽引役だった家電畑でもない。海外営業畑出身の西室泰三が社長に抜擢されたのは、だからである。
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歴史に「if」はないというが、もし西室が社長にならなければ東芝の歩みはずいぶん違ったものになっただろう。

せめて西室が西田を抜擢しなければ、ここまでの惨状に陥ることはなかったに違いない。東芝の元広報室長は「摸倣の西室、無能の岡村、野望の西田、無謀の佐々木」と評したが、この4代によって、その美風が損なわれ、成長の芽が摘み取られ、潤沢な資産を失い、零落した。
東芝で起きたことは、まさに人災だった。