じじぃの「骨粗しょう症・ISSで6ヵ月過ごした場合の体の変化!宇宙飛行士に聞いてみた」

骨粗しょう症薬で結石予防 長期滞在の宇宙飛行士

骨粗しょう症薬で結石予防 長期滞在の宇宙飛行士で検証

2022/1/13 毎日新聞
無重力状態の宇宙に長期滞在する宇宙飛行士に多い尿路結石を、骨粗しょう症治療薬「ビスホスホネート」で予防できる可能性があると、名古屋市立大や宇宙航空研究開発機構JAXA)などのチームが米科学誌「JBMRプラス」に発表した。
閉経期の女性や寝たきりの人など結石ができやすい人への応用が期待される。
https://mainichi.jp/articles/20220113/ddm/016/040/011000c

宇宙飛行士に聞いてみた! 世界一リアルな宇宙の暮らし Q&A - 日本文芸社

ティム・ピーク(著)
●ティム・ピークってどんな人?
イギリス陸軍航空隊を経て、欧州宇宙機関ESA)所属の宇宙飛行士へ。
2015年、国際宇宙ステーションISS)第46/47次長期滞在クルーとしてミッションを遂行し、船外活動でも活躍。
国際宇宙ステーションからロンドンマラソンに参加したり、SNSISSや宇宙の様子をリアルタイム配信したりと、
宇宙を身近に伝えて大人気となっている宇宙飛行士です。

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『宇宙飛行士に聞いてみた!』

ティム・ピーク/著、柳川孝二/訳 日本文芸社 2018年発行

第6章 地球への帰還 より

Q 地球へ戻ってくるまで、どれくらい時間がかかりますか?

国際宇宙ステーションISS)から地球への帰還はあっという間の旅だ。
2016年6月18日、午前5時46分(グリニッジ標準時GMT)。私と仲間にとってのISSでの半年の生活は、ソユーズがアンドッキング(離脱)したこの瞬間におわった。
同日の午前9時15分(GMT)、186日前に飛び立ったところからそう遠くないカザフスタンの大草原に降り立った。地球に戻るのにかかったのはわずか3時間半! ロンドンとモスクワ間のフライトよりも短い。ほんの24時間前には宇宙でいつもどおりも朝を迎え、作業していたのに、地球に戻ってきていることがなんとも奇妙に思えた。
前日にはISS外に数ヵ月放置された日本の実権で大忙しだった。菌類などの微生物が厳しい環境下でいかに生きのびるかについての興味深い研究だ。それに加え、ベタベタとしたエアロゲルの中から、有機物を含有する極小隕石を見つける仕事もあった。このサンプルは惑星間での生命移動の可能性を評価するのに役立つ。
きぼう(日本の実験棟)のエアロック(気圧の異なる場所を人や物が移動するときに、隣り合う室内の圧力差を調節する機能を持った出入り口として使用する小部屋)から実験機器を回収したあと、ジェフリー・ウィリアムズと私はフル装備の保護服を着て、細心の注意を払いながら、貴重な科学サンプルをせっせとはずした。昼頃、作業はおわった。「さ、そろそろ荷物をまとめて帰り支度でもするか。いよいよ、あと数時間でここを離れるのか」。
地球低軌道からは早く帰還できる。緊急時、ソユーズ宇宙船は究明ボートとなり時間単位で地球に戻ってくる。
簡単そうに聞こえるだろう? 実際は宇宙飛行のすべての段階と同じく、宇宙船が地球へ下降するまでのプロセスも非常に複雑で、厳密に計画されている。そしてもちろん危険をともなう。人生でもっともスリリングな経験だろう。私にとってはまさにそうだった。

Q 宇宙飛行による健康への長期的な影響はありますか?

これは重要な質問で、宇宙飛行士ならだれしも考えることだろう。
宇宙飛行が「薬」だとしたら、それによって起こりうる「副作用」が宇宙に行きたいという気持ちに水を差してしまうかもしれない。
ISSで6ヵ月過ごした場合、どのような影響があるか見てみよう。

骨の衰え

症状 骨はかかった力の強さに応じて形成される。骨が簡単に折れないのは、骨を溶かす吸収作用(破壊)と、骨を作る形成作用を繰り返し、たえず生まれ変わっているからだ。リモデリングと呼ばれる。
 だが無重力では骨への負荷が減るため、リモデリングのバランスが崩れる。ISSではひと月あたり約1.5%の骨量が減少するが、これは高齢者の年間減少量と等しい。
 特に症状が出やすいのが骨盤部と背骨の下部で、骨粗しょう症が見られる場合もある。さらに骨密度が低下し、体に再吸収されるため、血液中のカルシウム濃度が上昇して、軟部組織の石灰化や腎結石のリスク増加につながる。
 問題はそれだけではない。無重力下で新しい骨組織が形成されると、骨の構造そのものが変化し、地球に帰還した際に骨折リスクが高まる。
予防と対策 運動が有効だ。骨格筋を鍛えて骨に力学的負荷を与え、新しい骨組織を作る骨芽細胞を刺激するのだ。ただ骨には筋肉と同じように、運動が有効な部分もあれば、そうでない部分もあるので、運動だけでは骨の衰えを防ぐことはできない。
 宇宙飛行士は普段の食事で十分な量のカルシウムを摂取するほかに、サプリメントビタミンDを毎日摂取し、健康な骨づくりを心がけている。
 また塩分摂取量を控えることも骨量減少を抑える。NASA宇宙食のナトリウム含有量を減らすべく、80品目以上を変更した。一方で骨粗しょう症の治療に使われるビスフォスフォネート(骨の吸収を防ぐ医薬品)が、宇宙飛行での骨量の減少を抑えると研究で明らかになった。
 私はISS滞在中に大腿骨頸部と腰椎の骨量が大幅に減ってしまったが、帰還してわずか半年後には、減少した量の50%が回復していた。たいていの宇宙飛行士は、帰還から1~2年以内を目途に骨量の完全回復を目指すが、私もそのくらいを想定している。
 ISSでは骨密度の減少について多くの研究が進められている。こうした研究は長期滞在ミッションに携わる宇宙飛行士の骨量減少を抑えるだけでなく、地上での骨粗しょう症治療薬の開発を進める上でも役立っている。