じじぃの「科学・地球_242_生態学大図鑑・生態的レジリエンス」

The Good, the Bad, and the Algae - Science at NASA

動画 YouTube
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藻類の大繁殖

生態学大図鑑』

ジュリア・シュローダー/著、鷲谷いづみ/訳 三省堂 2021年発行

肝心なのは数が変わらないこと 生態的レジリエンス より

【主要人物】クロフォード・スタンレー・ホリング(1930年~)

大規模な山火事、洪水、ハリケーン、深刻な汚染、森林伐採、あるいは「外来の」新たな種の導入などによる攪乱のあとに、生態系が回復する能力は、生態的レジリエンス(復帰性)として知られる。これらの攪乱の影響はしばしば劇的に食物網を変化させるが、人間活動がそれらの増加の原因でもある。

レジリエンスの持続

カナダの生態学者クロフォード・スタンレー・ホリングは、自然のさまざまなシステムが破壊的な変化に直面したときの存続性を記述するために、生態的レジリエンスという概念を提案した。ホリングは、自然のシステムは安定性とレジリエンスを必要とするが、それまで生態学者が考えてきたこととは異なり、これらは必ずしも同じような特性であるとは限らないと主張した。
安定したシステムは現状を維持するために変化に抵抗するが、レジリエンスは刷新と適応から成る。ホリングは、自然の攪乱を受けていないシステムは、常に過度的な状態にあり、ある種の個体数が増加し、別の種の個体数が減少しつつあると記した。しかし、これらの個体数変化は、システム全体が根底的に変化するほど重大なものものではない。システムのレジリエンスは、大きな衝撃のあとに、平衡状態に戻るのに要する時間によって、あるいは攪乱の影響を緩和する能力によって説明できる。
ホリングが研究した例の一つは、北米の五大湖の漁業であった。20世紀初頭の数十年間、チョウザメやニシンなどが大量に漁獲されていたが、乱獲により漁獲量が激減し。その後、漁獲制限がおこなわれたが、五大湖の魚類に回復は見られなかった。ホリングは、過度の乱獲が生態系のレジリエンスを徐々に弱めたのではないか示唆した。
ホリングは、生態的レジリエンスは常にプラス方向に働くとは限らないとも主張した。もし淡水湖が農業用肥料由来の栄養塩の大量流入を経験すれば、富栄養化する。それにより藻類が大増殖し、湖の酸素を欠乏させて、魚類は生息できなくなる。そのような湖がレジリエンスを持つとしても、生物の多様性はいっそう減少するだろう。ホリングは、レジリエンスを決めるのは3つの重要な要因であるとした。最も重要なのは、完全な回復が不可能になる限界点を超える前にシステムが変えられること。システムに大きな変化を起こすことの難易度、そしてシステムが限界点に、その時点でどこまで近づいているかということである。
●藻類の大繁殖
藻類の厚く密な緑色の泡が、インドのマハラシュトラ州ロナー湖の湖面を覆っている。富栄養条件の下で藻類が大繁殖し、死んだ藻類が分解されるときに酸素が消費され酸素欠乏が進むと、魚はほとんど生き残れない。

変化する状態

ホリングの見方によれば、生態系レベルでのレジリエンスは、それに含まれる個体群が過度に固定的ではないこと、すなわち、構成要素が変わりうることによって高まる。その例の一つは、北米東部の森林から、アメリカグリのほとんどが姿を消し、オークとヒッコリーに取って代わられたことである。ホリングにとっては、これはレジリエンスの一例であった。森林の構成樹種は変わったが、広葉樹林は残ったからである。
生態学者は今、生態系は複数の安定状態をとりうることを理解している。たとえばオーストラリアでは、ムルガ(アカシアの一種)が優占する森林は、牧羊を支える草の多い環境として存在することも、牧羊にまったく適さない低木が優占する環境になることもありうる。