じじぃの「科学・地球_187_宇宙の終わりとは・宇宙について大まかに」

The End of Everything | Dr. Katie Mack | All Space Considered

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=O_En_F9z_3U

宇宙の終わりに何が起こるのか

ケイティ・マック (著)
この宇宙は必ず終わる。―いつ、どうやって!?「万物が究極的に破壊される」瞬間を描く5つのシナリオ。19ヵ国で翻訳!話題の最新宇宙論に待望の邦訳登場!
第1章 宇宙について大まかに
第2章 ビッグバンから現在まで
第3章 ビッグクランチ―終末シナリオその1 急激な収縮を起こし、つぶれて終わる
第4章 熱的死―終末シナリオその2 膨張の末に、あらゆる活動が停止する
第5章 ビッグリップ―終末シナリオその3 ファントムエネルギーによって急膨張し、ズタズタに引き裂かれる
第6章 真空崩壊―終末シナリオその4 「真空の泡」に包まれて完全消滅する突然死
第7章 ビッグバウンス―終末シナリオその5 「特異点」で跳ね返り、収縮と膨張を何度も繰り返す
第8 未来の未来
第9章 エピローグ

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『宇宙の終わりに何が起こるのか』

ケイティ・マック/著、吉田三知世/訳 講談社 2021年発行

第1章 宇宙について大まかに より

「終末論」へようこそ

科学論文にも。古典とされる(そして非常に面白い)ものはあるが、万物の終わりについての研究を指す「終末論」という言葉に私が初めて出会ったのは、宗教について読んでいたときのことだった。
終末論──あるいは、もっと具体的にいえば「この世界の終わり」──は世界の多くの宗教にとって、神学のさまざまな教えを、具体的な状況にあてはめて説明し、それが何を意味するのかを圧倒的な説得力で信者の心に深く刻ませてくれるものだ。キリスト教ユダヤ教、そしてイスラム教は、神学上はあれこれ違いがあるものの、世界に最後の再構成が起こり、善が悪に打ち勝ち、神に愛された者たちが報われるという終末観を共有している(これらの報いが、誰に対して、どのように配分されるかの詳報は宗教ごとに異なる)。
正しく生きる人々が人生を価値ある善いものにしたくても、不完全で不公平で恣意(しい)的な現世は、それを保障してはくれない。最後の審判という約束は、この現実をある種埋め合わせるはたらきをしているのかもしれない。小説が、その最終章の良し悪しで「終わりよければすべて良し」式に一挙に挽回できたり、逆に振り出しまで遡ってすべて台無しになってしまったりすることがあるのと同様に、多くの宗教哲学には、世界に終ってもらう必要がある。そして、「正当に」終わってもらうために、世界にはそもそもの初めから意味があった、とする必要があるようだ。
もちろん、すべての終末論が最後の報いを謳(うた)っているわけではないし、そもそもすべての宗教が「時間に終わりがある」と予測しているわけではない。マヤ文明が2012年12月に世界の滅亡を予測しているという話で大騒ぎになったことがあるが、じつのところマヤ文明の宇宙観は、ヒンドゥー教の伝統と同じく循環的で、特定の「終わり」があるなどとは述べていない。
これらの伝統的分化における「循環」は、単なる繰り返しではなく、次にめぐってくるときには、物事がより良くなっている可能性をたっぷりと孕(はら)んでいる。この世界であなたが被(こうむ)っているすべての苦しみは辛いものだが、心配は要らない、新しい世界が近づいており、その新世界は、その世界は、現在の不公正によって少しも損なわれていないし、むしろそれによって改善されているかもしれないのだから、というわけだ。
一方、非宗教的な終末の物語は、少しでも意味のあることなど何もない(そして、その虚無が最終的にすべてに優る)という虚無主義から、一度起こったことはすべて、まったく同じかたちで、何度も繰り返して起こるという、めまいがするような永劫回帰説(この世界観も、いまでは古典となった、2000年代前半のアメリカのSFテレビシリーズ『GALACTICA/ギャラクティカ』に取り入れられている。ただし、テレビでは哲学的な詳細を掘り下げてはいない)まで、ありとあらゆるものが存在する。じつのところ、一見正反対に見えるこの2つの説は、どちらもフリードリヒ・ニーチェに帰せられている。ニーチェは、宇宙に秩序と意味をもたらしうるあらゆる神の死を宣言したのち、最後の購(あがな)いが待っていない世界に生きる意味を明らかにしようと苦闘したのだった。

5つのシナリオ

本書は私にとって、宇宙がこの先いったいどうなるのか、これらすべてのことはいったい何を意味するのか、そして、これらのことを問いかけることによって、自分たちが住んでいる宇宙について何がわかるのかという疑問を、自分が深く掘り下げるための絶好の機会だ。これらの疑問のどれについても、誰もが認めうる唯一の答えはまだ存在しない──すべての存在の運命という問いは、未解決で、さかんに研究がおこなわれている領域であり、そこでは、データの解釈をほんの少し変更しただけで、引き出される結論が劇的に変わることもあるからだ。
本書では、プロの宇宙論研究者たちのあいだで、いままさにおこなわれている議論のなかで、特に目立つものという基準で選んだ5つの可能性を取り上げ、現在の最善の証拠を詳しく検討し、これら5つの終末シナリオそれぞれにとって有利な証拠なのか、逆に不利な証拠にあたるのかを見ていこう。
5つのシナリオは、それぞれまったく異なるかたちの終末を見せる。その理由は、それぞれが異なる物理学プロセスに支配されるからだが、どれもある1つの点では一致している。──「終末は必ずくる」という点だ。
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まずは「ビッグクランチ」から始めよう。これは、現在の宇宙膨張が楽典するのなら起こる出あろう、劇的な宇宙崩壊だ。続く2つの章では、ダークエネルギーによってもたらされる終末を2種類論じる。1つは、宇宙が永遠に膨張を続け、徐々に空っぽになり、暗くなっていくもの(熱的死)、そしてもう1つは、宇宙が文字どおり自らズタズタに千切れていくものである(ビッグリップ)。
その次に登場するのは、「真空崩壊」による終末だが、これは、「死の量子の泡」(正式な専門用語では、「真の真空の泡」とよぶ。公平にいって、こちらもなかなかおどろおどろしい)が自発的に発生し、それが宇宙全体を呑み込んでしまうというものだ。そして最後に、「サイクリック宇宙論」という、現時点ではまだ仮説段階にある領域に踏み込む。ここでは、空間の余剰次元に関する諸理論も論じるが、そのような理論では、私たちの宇宙が並行宇宙と衝突して消滅する可能性がある……しかも、繰り返し何度も。
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宇宙の終わりの姿は火なのか、氷なのか、それとも、何かもっとまったく風変わりなものなのか──私たちはまだ知らない。わかっているのは、それは計り知れないけれど、美しく、ほんとうに素晴らしい場所であり、時間を割いて検討してみる価値が十分にあるということだ。まだできるうちに、そうしよう。