じじぃの「科学・地球_90_水の世界ハンドブック・リスクのある地域・三峡ダム」

China's Three Gorges Dam: The inside story of a mega-project with disastrous consequences

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=VEqZu3Nr3Q8

三峡ダム

ウィキペディアWikipedia) より
三峡ダムは、中華人民共和国の長江中流域の湖北省宜昌市三斗坪にある大型重力式コンクリートダムである。
1993年に着工し、2009年に完成した。洪水抑制・電力供給・水運改善を主目的としている。2,250万キロワットの発電が可能な世界最大の水力発電所である、三峡ダム水力発電所を併設する。
【ダム決壊騒動】
2019年、中国国内のダム専門家がGoogle earthで2009年に撮影したダムの基礎部分の写真と2018年に撮影した写真を比較した際「2009年にはダムの基礎部分はまっすぐな直線になっているが、2018年には数ヶ所が湾曲している」と発表したことで、三峡ダムに決壊の危機が迫っているとする声が高まった。
一方、中国当局はこの指摘に対して、ダム自体に問題は発生しておらず、そのゆがみはGoogle earthの技術的な問題であり、事実ではないとした。
実際にこの歪みは衛星写真を結合して作られる地形図では頻出する問題であり、騒動を受けて2020年7月の段階でGoogle earthの航空写真の歪みは修正された。
なお、万が一決壊した場合は上海市武漢市などの下流域の大都市に大きな被害をもたらし、中国経済に大ダメージを与えるとともに、中国国内の電力供給がストップすることで大規模な停電を引き起こす可能性がある。

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『地図とデータで見る水の世界ハンドブック』

ダヴィド・ブランション/著、吉田春美/訳 原書房 2021年発行

6 はじめに より

水問題はいたってシンプルである。世界で6億人以上の人々が飲料水にアクセスできず、世界の農業生産の40パーセントが灌漑農業に依存している。
水辺の生態系は自然のプロセスに欠くことのできない役割を果たしているにもかかわらず、きわめて脆弱である、ということである。

133 21世紀への挑戦 より

134 リスクのある地域

人口増加に生活水準の向上がくわわり、すでに危機的だった多くの流域がさらに悪化するおそれがある。2025年には30あまりの主要な流域に世界人口の半数が集中するとみられており、そうした地域は水ストレスのラインを超え、10ヵ所ほどの大流域は潜在的な水不足におちいるだろう。だが、世界の人口1人あたりの水資源は、将来水危機が生じる可能性のある地域を限定できるほど十分にあるわけではない。こんにちと同じく将来の水危機も環境、経済、政治、社会の要素が結びついて生じるのである。

水文学的リスクから「政治的」水リスクへ

水文学的リスクはよく、気候変動(洪水や干魃)と人間の脆弱性が結びついて生じると定義される。このふたつの要素を組みあわせて考えることで、水文学的リスクと政治的水リスクが潜在的に高い地域を特定できる。
もっとも緊迫した状況は、いまでもおおむね気候の要素によって決まる。降水が極度に不安定な乾燥地帯や半乾燥地帯である。だが、干魃と洪水が破滅的な被害をもたらすのは、人間の適応力に限界があるところにかぎられる。そのため、貧しい国は脆弱性がより大きくなる。セネガルからスーダンにかけてサヘル・スーダン帯や、西アジアペルシャ湾岸諸国を除く)は、水危機になる可能性がもっとも高いと思われる。
先進国と新興国も気候変動の影響を受けるが、脆弱性を低下させるための対策がとられている。リスクの予防(フランスの洪水防災計画)や軽減(干魃にそなえてのダムや水道の建設)、深刻な事態が起きたときのすばやい対応など、やれることはいくらでもある。
「政治的水リスク」の出現もふたつの異なる要素に起因している。流域がいくつかの国家に分断されていること、国内ないしは当事国のあいだで激しい対立が起きていること、である。政治的水リスクがもっとも高い流域は、ナイル川ヨルダン川、ティグリス・ユーフラテス川、さらに、アラル海にそそぐシルダリヤ川とアムダリヤ川である。水戦争が起きることはまずないだろうが、水をめぐる政治的な緊張により、水文学的リスクをうまく処理する見通しがなかなか立たない。たとえば、アラル海の低地では、カザフスタンが自国領の「小アラル海」を救おうとしたために、大半がウズベキスタンにある「大アラル海」の縮小が急激に進んだ。

中国の三峡ダムあるいは水の完全なコントロール

2009年に運用がはじまった中国の三峡ダムは、水資源を完全にコントロールするという国家的政策の切り札である。て堤高185メートル、容量40立方キロメートル近くの貯水池をもつこのダムは、中国最大の河川、長江をせき止めている。付属の水力発電所は最終的に中国の電力生産の10パーセントをまかなうことになっている。
環境と人へのインパクトも事業の規模に比例してかなり大きく、130万人近い人々が移転させられ、何百もの歴史・考古学の遺構が水没した。事前の環境対策はほとんど行われておらず、環境へのインパクトは今後も増えていくだろう。この巨大事業は、中国の伝説によれば禹(う)王(紀元前2000年頃)がはじめたという治水工事の延長線上に位置づけられる。国に大損害をあたえる洪水や干魃を防ぐために水を完全にコントロールしようとするのは、リスクの高い賭けである。
こうした巨大ダムの建設は、長期的に見ると、広大な貯水池にストックされた水をめぐる地域間、国家間の争いを激化させる可能性がある。