じじぃの「歴史・思想_469_サピエンスの未来・全人類の共同事業」

Nikolai Fyodorovich Fyodorov Everything Philosophers

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=umlewQVs1Pc

Nikolai Fyodorov

人類は、宇宙に住むことも、不老不死になることもできる! フョードロフ

2018年5月3日 Ameba
ニコライ・フョードロヴィチ・フョードロフ(1829~1903)という思想家をご存知でしょうか?
ルミャンツェフ博物館(現・ロシア国立図書館)の司書で,“モスクワのソクラテス”と呼ばれた人物です。
ドストエフスキートルストイをはじめとする多くの思想家に,絶大な影響を与えました。
https://ameblo.jp/eliyahx/entry-12373029961.html

『サピエンスの未来 伝説の東大講義』

立花隆/著 講談社現代新書 2021年発行

はじめに より

この本で言わんとしていることを一言で要約するなら、「すべてを進化の相の下に見よ」ということである。「進化の相の下に見る」とはどういうことかについては、本文で詳しく説明しているが、最初に簡単に解説を付け加えておこう。
世界のすべては進化の過程にある。
    ・
我々はいま確かに進化の産物としてここにいる。そして、我々の未来も進化論的に展開していくのである。
我々がどこから来てどこに行こうとしているのかは、進化論的にしか語ることができない。もちろん、それが具体的にどのようなものになろうとしているのかなどといったことは、まだ語るべくもないが、どのような語りがありうるのかといったら、進化論的に語るしかない。
そして、人類の進化論的未来を語るなら、たかだか数年で世代交代を繰り返している産業社会の企業の未来や商品の未来などとちがって、少なくとも数万年の未来を視野において語らなければならない。人類の歴史を過去にたどるとき、ホモ属という属のレベルの歴史をたどるなら、100万年以上過去にさかのばらねばならない。
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本書では、ジュリアン・ハックスレーやテイヤール・ド・シャルダンといったユニークな思想家の発想を手がかりとして、そこを考えてみたいと思っている。

第12章 全人類の共同事業 より

地球化学が明らかにするもの

テイヤール・ド・シャルダンの進化思想は非常にユニークなものですが、思想の流れにおいて、突発的に出現したものではありません。思想史を学ぶち、そもそもどんな思想も突発的に出現するものではないということがわかります。テイヤール・ド・シャルダンの思想もその例外ではありません。
ロシアに、ロシア・コスミズムとよばれる思想の流れがあります。宇宙スケールで存在論、自然論、人間論を考えようとする立場で、生命圏(バイオスフィア)、精神圏(ヌースフィア)という発想も、彼らの中で生まれてくるのです。正確にいえば、精神圏という概念は、彼らとテイヤール・ド・シャルダンたちとの交流を通じて生まれたといったほうがいいかもしれません。
ロシア・コスミズムの代表的人物として、ウラジーミル・ヴェルナキー(1863~1945)という人がいます。テイヤール・ド・シャルダンとほぼ同時代の人です。彼は、鉱物学、土壌学から出発して、やがて、地球全体を物質循環の立場から研究する地球化学(geochemistry)という新しい学問分野を築き上げた人です。
地球化学というのは、現代における最も重要な学問の1つで、環境科学は全部地球化学の上に乗っているといるといっても過言ではありません。ぼくは、大学の教養課程の学生には全員必修で地球化学をとらせるべきだ、くらいに思っています。まだとってない人はぜひとってください。授業でとらなくとも本の1冊くらいはぜひ読んでください。

モスクワのソクラテス

ロシア・コスミズムの源流として知られるのが、ニコライ・フョードロフ(1829~1903)です。コンスタンツィン・ツィオルコフスキー(1857~1935、人工衛星や宇宙船、宇宙旅行の可能性としてロケットで宇宙に行けることを証明した業績からロシアの「宇宙旅行の父」と呼ばれる)は、少年時代に耳が聞こえなくなったため、まともな教育も受けていない、独学の徒なのですが、そのツィオルコフスキーにあらゆる学問を授けたのが、ロシア最大の図書館であったルミャンツェフ図書館(革命後のレーニン図書館。現在はロシア国立図書館と名前を変えている)の伝説的司書、フョードロフなのです。この図書館に毎日決まった時間に通い、フョードロフがすすめる本を次々に読むことで彼は宇宙科学を学び、宇宙哲学を作っていったのです。
ツィオルコフスキーは、この図書館が自分の大学であったといい、フョードロフが自分の大学教授だったといっています。
「チェルトコフ図書館で、彼はひとりの図書館員と宿命的な出会いをする。この人物は当時まだ無名であったが、類稀な百科全書的な教養を持ち、変容された不死の人間、そして不死の人間の宇宙的な未来という壮大な夢をその心の奥に秘めていた。しかもそれは単なる夢想ではなく、哲学的に深く考察され、たくさんの具体的な計画を伴っていた。ツィオルコフスキーは、自分を驚かせたこの『並外れて善良な顔』をした人から受けた印象を『わたしの生涯の特徴』で次のように書いている。
『その後、同じような顔をした人物に出会ったことがない。おそらく顔は魂の鏡だというのは本当なのだ……。彼はわたしに禁書を貸してくれた。のちにこの有名な禁欲主義者フョードロフがトルストイの親友であり、驚くべき哲学者であり、慎ましい人であることを知った』」(同前)
(フョードロフの肖像を示して)これがフョードロフです(図.画像参照)。生前彼は自分のことを誰にも書かせず、また誰にも肖像を描かせたりしなかったのですが、パステルナークという画家が秘かにスケッチしたものがこれなんです。
フョードロフというのは実に不思議な人物でして、ツィオルコフスキーだけでなく、トルストイドストエフスキーゴーリキーマヤコフスキーなどにもきわめて強い影響を及ぼしています。ドストエフスキーは、彼の思想を「まるで自分の思想のように読んだ」といい、トルストイは、「こういった人物と同じ時代に生きられることを誇りに思う」とまでいっています。最高の知識人たちから、最高の尊敬をかちえ、「モスクワのソクラテス」とまでいわれた人です。
彼は、公式には、図書館の一司書にすぎなかったのですが、ルミャンツェフ図書館の本を全部読んだにちがいないといわれるほど博識で、聞かれると、誰にでも惜しみなく自分の知識を与えました。
その生活は驚くほど禁欲的で、ほとんど聖書のそれに近いといわれました。スヴェトラーナ セミョーノヴァの『フョードロフ伝』によると、その生活はこんな風でした。
「4時過ぎにルミャンツェフ博物館から自宅の小さな部屋に戻り、たいていはパンと砂糖抜きの紅茶で夕食をとり、何も敷いていない固い長持ちのうえで数冊の本を枕代わりに1時間ほど仮眠に、されから読書をし、午前3時から4時まで書きものをする。そしてさらに2、3時間眠ってから再びお茶を飲み、7時から8時ぐらいに図書館に出勤する。こうした生活が死ぬまで続いていった。彼はいつも徒歩で動きまわり、娯楽には一文たりとも使わなかった。冬と夏、彼はカツァヴェイカと呼ばれる同じ古びたシングルのコートを着ていた」(安岡治子亀山郁夫訳、水声社

全人類の共同事業

あるとき、フョードロフの弟子の一人が、彼の思想のある部分を要約してドストエフスキーに送ったんですね。すると、ドストエフスキーはすごく感激して、『作家の日記』の中で、「これらはすべて若々しく、みずみずしく、観念的で非実際的だが、減速においては完全に正しく、たんに誠実というだけでなく、苦悩と痛みをもって書かれている……。私はこの論文に感謝する。というのは、この論文は私に並外れた満足をもたらしてくれたからだ。これ以上に論理的なものはまれにしか読んだことがない」と書いたりしています。
そこで、弟子がさらに多くの思想の要約を送ると、次のような手紙を送ってきます。
「まず第1の質問です。あなたが伝えて下さったこの思想の主はだれなのでしょうか? できればその人の本名も教えて下さい。私は彼にあまりにも興味をかき立てられています。少なくとも、たとえばその顔つきでもいい、何でも結構ですから彼に関して伝えてください。次に言いたいことは、本質において私はこれらの考えに完全に同意見だ、ということです。それらの考えを私はまるで自分の考えでもあるかのように読み通しました」(『フョードロフ伝』)
そして、この人の思想をもっと知りたいといってきたのです。実はここまでは弟子が勝手にやっていたのですが、ここまで来て、フョードロフにいわないわけにはいかなくなり、フョードロフは身近らそれを執筆しようとしますが、それが4年もかかるうちに、ドストエフスキーは亡くなってしまいます。このときフョードロフがまとめたものが、後の『共同事業の哲学』になるんです。
共同事業とは何なのかというと、全人類が力を合わせて、より高次の存在に能動進化(意識的にコントロールされた進化)をとげていくことなんです。そして、地球レベルはもちろん、宇宙レベルで自然を統御していくことなんです。彼は、自然現象をすべてコントロールしなければならないといいます。そのためには、宇宙に進出して、宇宙の住民になり、宇宙現象をコントロールすることも必要になるといいます。人間尾能力をさらにグレードアップするために、人間の肉体も改変しなければならないだろうといいます。先に紹介したようなツィオルコフスキーのほとんど霊的存在になった未来人間という考えは、もっぱらフョードロフから来てるんです。そういうことを可能にするためには、人類の知を統合しなければならないといいます。すべてを知の対象として、すべての人が研究者になり、すべての人が認識者にならなければならないといいます。
それは何のためにかというと、人間にとって最高の幸福と思われるものすべてを獲得するためだといいます。そのためには人間の最大の敵である死を克服しなければならないといいます。また悪を滅ぼさなければならないといいます。
悪というのは、結局のところエントロピーの増大が生む崩壊現象、秩序が失われた状態、世界の欠陥状態、「落下」、未完成状態だから、それに対抗するためには、全世界を合理的自覚を持って反エントロピーの方向に動かしていくことが必要で、そのために全人類が総力をあげることが、人類の共同事業だというわけです。
「自然の盲目の力を統御し、操ることは、人類が共同で行なうことができ、また共同で行なわなければならない偉大な事業なのだ」(S・G・セミョーノヴァによる『共同事業の哲学』からの引用、「序論」『ロシアの宇宙精神』)といいます。
フョードロの思想は、あまりにも壮大だから、ここでその全容を紹介するというわけにはいきませんが、大事なポイントは次の一点です。

「世界は、眺めるために与えられたものではない。世界を鑑照することが人間の目的ではない。人間は常に、世界に対して作用を及ばすこと、自分の望むがままに世界を変えることが可能であると考えてきた」(『著作集』)