じじぃの「はやぶさ2・運動方程式で導いたリュウグウへの飛行!最強ミッションの真実」

津田 雄一『はやぶさ2 最強ミッションの真実 』 (NHK出版新書)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=7NEvni_BKzQ

Japan probe touches down on asteroid

Japan's Hayabusa2 probe makes 'perfect' touchdown on asteroid

Hayabusa 2: Asteroid image shows touchdown marks

25 February 2019  BBC News
●Japan probe touches down on asteroid
During sample collection, the spacecraft approached the 1km-wide asteroid with an instrument called the sampler horn.
On touchdown, a 5g "bullet" made of the metal tantalum was fired into the rocky surface at 300m/s.
The particles kicked up by the impact should have been be caught by the sampler horn.
The spacecraft then ascended to its home position of about 20km distance from the asteroid's surface.
The image is further, visual confirmation that the touchdown proceeded to plan.
https://www.bbc.com/news/science-environment-47359152

はやぶさ2 最強ミッションの真実』

津田雄一/著 NHK出版新書 2020年発行

第4章 リュウグウへの飛行と運用訓練 より

順調な船出、そしてプロマネ拝命

打ち上げ後、初期運用フェーズの3ヵ月でははやぶさ2の全機能はひとつずつチェックされた。これに合格して晴れて一人前の探査機と呼べる状態になるのだ。電源系、データ処理系、観測機器、通信系、姿勢制御系、イオンエンジン系……と順次確認がなされた。
    ・
2015年3月2日、初期運用フェーズが完了し、はやぶさ2は定常運用に移行した。それまで開発関係者総動員だった体制も縮小され、6年続く運用作業を定常業務として回せるように、チームが作り変えられようとしていた。
そんな中、ある日私はJAXAの執行役に突然呼び出された。はやぶさ2の開発を通じて会話をしたことはあったが、改まって呼び出されたことは初めてだった。
「津田さんに、4月1日付でプロジェクトマネージャーの辞令が出ることになりました。頑張ってほしいので、受けてもらえますか。」
15秒は言葉を失ったと思う。なぜこのタイミングなのかとか、國中プロマネのままではないのか、とか質問をひねり出した気がするがあまり覚えていない。意外な申し出(実際は通達なのだが)に私は、少し待ってほしい、少なくともはやぶさ2を動かしてきた國中・稲場・吉川と相談する時間をください、と言ってその場を後にするのが精一杯だった。

「やりすぎじゃない?」と言ったら睨まれた――リアルタイム運用訓練

「実時間統合運用訓練」は平たく言うとリアルタイムの管制訓練だ。Realtime Integrated Operationの頭文字をとってRIO訓練と私たちは呼んでいた。まったくの蛇足だが、この訓練を始めたのはリオデジャネイロ五輪の年の2016年、リオ五輪にかこつけてまず”RIO”訓練と名付け、sれに単語を充てた、というのが真相だ。この命名に工学チームは大まこめに取り組み、とても長い時間を費やした。
私はプロジェクトエンジニアとして開発をリードしていたときから。着陸のような難しい運用は、絶対に訓練が必要だと考えていた。そのために、はやぶさ2の開発時に試験のために作った部品や装置を残しておき、あとでそれらをかき集めて、電気的にははやぶさ2と全く同じ動作をするシミュレーションを作ろうと考えていた。

小惑星到着

地球スイングバイ後も、はやぶさ2は順調に飛行を続けた。イオンエンジンは3つの時期に分割して、合計約6500時間噴いた。燃料であるキセノンは24キログラム消費した。まだ42キログラム残っているので余力は十分。2018年6月3日14時59分(日本時間)に、往路の予定加速量である時速3600キロメートル分を噴き切って、往路イオンエンジン運転を完了した。
これだけの加速を、たった24キログラムの燃料で出来てしまうのが、イオンエンジンの威力だ。運用の裏で行なわれていたLSS(着陸点選定、Landing Site Selection)訓練やRIO訓練にははやぶさ2チームが集中できた背景には、このイオンエンジンの安定動作が寄与していたのは間違いない。初号機のイオンエンジンはとにかくよく止まった。止まるたびに管制室にメンバーが集まり、復旧し、軌道制御を再開するということを行っていた。そのような不意のイオンエンジン停止が、はやぶさでは全部で68回も起きていたが、はやぶさ2は往路中たったの4回だった。
イオンエンジン運転終盤の2018年2月26日、リュウグウまで130万キロメートルまで迫った時に、光学航法望遠カメラONC-Tにより初めてリュウグウの撮影が行われた。18枚の連続写真には、星空の中にゆっくり動く光点が写っていた。管制室に光学航法望遠カメラ(ONC)チームが集まっていた。沢山の星々に埋もれたかすかな点だったがONC主任研究者の東大の杉田精司は、「予定通りの写り方だ。はっきりリュウグウが写ってます!」と太鼓判を押した。
これが、はやぶさ2に見せてあげられたリュウグウの最初の姿だ。最初の光という意味で”ファーストライト”とも呼んでいたこの運用の成功は、感慨もひとしおだった。

考えても見てほしい。計算だけを頼りに、30億キロメートルほどの距離を目隠しで飛び続け、ある日ぱっと目を開いたら、その視野の真ん中にちゃんとリュウグウが写っていたのだ! 運動方程式という理論の世界と、惑星間飛行と天体力学が織りなす現実の物理現象が結節した瞬間だった。私が初めてはやぶさ2の軌道設計をしたのが2009年、そこから9年越しの計算問題の答えが合っていたことが証明されたのだ。小学校に入学して初めて先生に花丸をもらった時くらい嬉しい出来事だった。