じじぃの「歴史・思想_462_サピエンスの未来・人類進化の歴史」

[NHKスペシャル] 見えた 何が 永遠が ~立花隆 最後の旅~

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Australopithecus Evolution

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世界史演習③(世界史学習の方法と人類の誕生)

山武の世界史
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『サピエンスの未来 伝説の東大講義』

立花隆/著 講談社現代新書 2021年発行

はじめに より

この本で言わんとしていることを一言で要約するなら、「すべてを進化の相の下に見よ」ということである。「進化の相の下に見る」とはどういうことかについては、本文で詳しく説明しているが、最初に簡単に解説を付け加えておこう。
世界のすべては進化の過程にある。
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我々はいま確かに進化の産物としてここにいる。そして、我々の未来も進化論的に展開していくのである。
我々がどこから来てどこに行こうとしているのかは、進化論的にしか語ることができない。もちろん、それが具体的にどのようなものになろうとしているのかなどといったことは、まだ語るべくもないが、どのような語りがありうるのかといったら、進化論的に語るしかない。
そして、人類の進化論的未来を語るなら、たかだか数年で世代交代を繰り返している産業社会の企業の未来や商品の未来などとちがって、少なくとも数万年の未来を視野において語らなければならない。人類の歴史を過去にたどるとき、ホモ属という属のレベルの歴史をたどるなら、100万年以上過去にさかのばらねばならない。
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本書では、ジュリアン・ハックスレーやテイヤール・ド・シャルダンといったユニークな思想家の発想を手がかりとして、そこを考えてみたいと思っている。

第5章 人類進化の歴史 より

異端と正統の戦い

カトリック教会には、回勅という独特の情報伝達手段が昔からあります。ローマ法王が、そのときどきの重要問題に対する法王庁の見解を書簡という形にして、世界中の司教に送るのです。昔は法王庁から使者が出て、その書簡を持ちまわって回し読みしたので、回勅といわれるわけです。回勅はいろんな問題について出されます。
カトリックの教義の体系としては、13世紀に作られたトマス・アクィナスの『神学大全』という、日本語版だと25巻にもなる大部な決定版教義集があるのですが、それを見ればどんな教義上の問題にも解答が与えられているわけではありません。どんな宗教でもそうですが、時代を経るにしたがって、新しい問題が次々と起こり、それに対する信仰上の対応が迫られます。カトリックでは、世界10億人の信者と日々接していろんな問題を持ちこまれている末端の司祭からこの問題はどう考えたらいいんだという問い合わせが来るので、法王庁では、問い合わせが多い、答えるのがむずかしい問題について、ときどき統一見解を出す必要性に迫られるのです。
統一見解はさまざまな形で出されます。回勅以外に教書、教令など法王庁の公式文書の形をとったり、重要な場での演説という形をとったりします。回勅以外の書簡という形もしばしば用いられます。新約聖書を読んだことがある人は知っているように、新約聖書の半分以上は、書簡という形をとっていますね。主として、初期キリスト教のオルガナイザーであった伝道者パウロの書簡ですが、その他、ペテロ、ヨハネなどイエスの直接の弟子であった使徒たちの書簡もある。これらの書簡は、原始キリスト教時代の各地の教会に送られ、そこで朗読され、信徒たちはその書簡を通じてキリスト教の教えを学んだのです。

小さな証拠から大きなストーリーを組み立てる

イデオロギーの世界では、議論に含まれる論理性とか、それを信奉する人の数とか、現実的有効性などによって、主張と主張の間の決着がつけられますが、サイエンスの世界では、基本的には実験事実と観察・観測事実を誤りのないロジックで組み立てていく「証明」によって決着がつけられます。そうはいっても、サイエンスの中にはフィールドによって実験がむずかしい、あるいは、観察、観測がむずかしい世界がたくさんあります。ブラックホールのように、そもそも理論的に観測することが不可能なんていうのもあります。
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テイヤール・ド・シャルダンが専門としていた進化論、古生物学の世界も多分にそういう趣きがあります。だいたい、生物の死体なんて、ほとんど分解してしまって、何の痕跡も残さないのが普通です。化石として残るなんて本当に奇蹟みたいなことですから、化石で進化を語るということは、極端に少ない証拠で、極端に大きなストーリーを語ることなんです。それに古生物の化石というのは、たいてい小さな断片で、1つの生物の骨格が丸々発見されるなんてことは滅多にないんです。ですから古生物学者は小さな断片から古生物の全体像を復元するという、ここでも小さな証拠から大きなストーリーを組み立てる仕事をしなければならないんです。そして次に、さまざまな古生物が複合して構成していたある時代の生物界の全体像を描かなければならない。次にそれらの全体像を時代から時代に追って、その歴史的展開を調べなければならない。そのときはじめて、生物進化の全体像が見えてくるわけです。それはほんの数片のジグソーパズルのかけらから、大きな絵を復元するみたいな仕事ですから、確実性はどうしても小さくなります。
ですから進化論、古生物学の世界ではいろんな異説が渦巻いています。

ヒトはどこから来たのか

テイヤール・ド・シャルダンが1922年に書いた学位論文は「フランスにおける始新世の哺乳類とその地層」というもので、始新世というのは、第三紀のはじめころで、だいたい5000万年前から3500万年前までくらいです。この論文は学問的に高い評価を受けて、彼はパリのカトリック大学の地質学・古生物学の助教授になります。このころ、彼はメガネザルの起源の問題を探究するうちに、彼の生涯をかけての研究テーマである人間の出現の問題に熱中していきます。
誰でも知るように、ヒトとサルは共通祖先から進化したわけですが、そのサルはどこから出てきたのか。よくわからないんですが、だいたい7000万年くらい前、第三紀のはじめかその少し前くらいに食虫類(トガリネズミとかハリネズミのたぐいですね)から進化したんだろうといわれています。進化的に古いのは、ツパイ、キツネザル、メガネザルなど原猿と呼ばれているサルですね。
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原猿の中で、このメガネザルの祖先が、真猿と原猿の共通祖先となっています。つまり、人間のいちばん遠い祖先として確認されている霊長類はメガネザルの祖先なんです。同じ祖先から出ているわけだから、現在のメガネザルと人間の間にはかなり共通点があります。鼻や眼の構造、脳の構造、胎児膜、生化学的成分などがよく似ているといわれます。
(霊長類進化の流れの図を見せて)このように、原猿の中から真猿が生まれ、真猿が旧世界ザル(狭鼻猿類)と新世界ザル(広鼻猿類)にわかれ、旧世界ザルの中から、ヒトと類人猿の共通祖先であるヒト上科のサル(ホミノイド)が生まれてくるわけです。ヒト上科に属するサルとしては、プロコンスル、エジプトピクテス、ケニアピクテスなどさまざまな化石がアフリカ、アジア、ヨーロッパなどで発見されています。時代としては、2300万年前、1700万年前、1400万年前などいろいろです。
このホミノイドの中からヒトの直接の祖先であるヒト科(ホミニド)が出現します。ホミニドは、ヒト亜科とオランウータン亜科の共通祖先で、ヒト亜科からはヒト属(ホモ)、アウストラロピテクス属、チンパンジー属、ゴリラ属が生まれるという運びになります。
アウストラロピテクスに属するのが、いわゆる猿人で、いろんな種類が発見されています。ヒト属の中でまず分岐するのが、いわゆる原人で、ホモ・サピエンス旧人ネアンデルタール人など)と新人(クロマニヨン人)にわかれ、我々は新人の直系の子孫であるということになっているわけです。