じじぃの「科学・地球_04_炭素物語・地球そっくりな惑星」

Hubble Observes Atmospheres of TRAPPIST-1 Exoplanets in the Habitable Zone

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=kgHKXjuuE40&feature=emb_title

『Nature』(2017年)の表紙を飾ったTRAPPIST-1惑星系のイラスト

TRAPPIST-1の惑星に地球に似た大気や大量の水が存在か

2020年12月25日 アストロアーツ
地球から40光年の距離にあるみずがめ座の赤色矮星「TRAPPIST-1」には惑星が7個見つかっている。
最初の2つはヨーロッパ南天天文台ラ・シーヤ観測所のトラピスト望遠鏡によって2016年に発見され、昨年にはNASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」と地上の望遠鏡による観測で残り5つが発見された。7個とも地球に近い大きさを持ち、そのうち3個はハビタブルゾーン(主星からの距離が生命の誕生に適している範囲)内に軌道があることで話題となった。
https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/9709_trappist1

交響曲第6番「炭素物語」――地球と生命の進化を導く元素』

ロバート・M・ヘイゼン/著、渡辺正/訳 化学同人 2020年発行

「土」――深部の炭素 より

地球に固有な鉱物層

炭素鉱物を調べると、地球について何がわかってくるのか? 私たち地球の住民は特別なのか? なるほど地球は、太陽系にある岩石質天体のどれともちがう。かつて温暖で水もあった火星は、炭酸塩とおぼしい岩床が散在するだけ。隕石は炭素鉱物をあまり含まず、かなり調べの進んだ月も、グラファイトや炭化鉄の微粒子は見つかるけれど、炭酸塩鉱物は影も形もない。けれど、べつの恒星のまわりを回る惑星はどうだろう?
グレーテ・ハイスタッドは数学を使い、地球上の未知鉱物を予測した。それを思いだしつつ、こんな疑問に心が浮かぶ。サイズと質量、元素組成、内部構造、海と大気とプレート運動など、地球にそっくりな惑星があるとしよう。年齢も45億歳くらいで、鉱物も5000種くらいあるとする。その5000種が、いま地球にある5000種とピッタリ重なる確率はどれほどなのか?
鉱物学者には、かつての私と同様、鉱物の分布も似ているとみる人が多い。石英や長石、輝石、雲母など、岩石をつくる鉱物は多いはず。ダイヤモンドや金、トパーズ、トルコ石など特別な数百種の鉱物も、さらには希少な鉱物もたいてい、量の多少を問わなければ、存在するにちがいない……。
だが、それはまちがい――とハイスタッドの結果は語る。地球と同じ物理・化学条件の惑星なら、地質史のテープを巻き戻したとき、鉱物種の半数くらい(2500種超)は共通だろう。「ありふれて」はいない別の1500種ほどは、たぶん確率25~50%で地球型惑星にも見つかる。だが、残る1000種以上の鉱物が地球型惑星にも見つかる確率は10%未満だという。
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ハイスタッドはその計算結果を、2013年の地球惑星科学論文誌に発表した。「地球の鉱物が示す多様性が物理・化学・生物学的要因で決まるなら、地球の鉱物相は、広い宇宙で地球だけのものだと考えてよい」。

地球型の系外惑星

科学の話題として、太陽系外にある惑星の発見と素性解明ほど、世の関心を引く者はない。私たちからはるかに遠く、目で見ようもない世界だからだ。宇宙のなかで人間が孤独なのかどうか知ろうと天文学者は、遠い恒星の微妙な「揺れ」や周期的な明滅を調べる。調べた結果から、光が弱すぎて望遠鏡では見えなくても、恒星のまわりを惑星が回っていることの確かな証拠になる。
まず見つかったのは、木星より大きいひとつの惑星。恒星のまわりをたった数日で1周し、恒星の動きを乱していた。ただし、太陽系外にそんな惑星が見つかって20年ほどあと、注目点は巨大な天体から地球型の天体にシフトした。
「地球型」が何を指すかは、人ごとにちがう。天文学者は、確実に測れる半径と質量、軌道に注目する。惑星の半径は、惑星が恒星の前面を通る際のわずかな輝度低下から見積もれる。質量は、重力が起こす恒星のかすかな揺れから決める。また地球型の惑星は、恒星から適切な距離の「生命居住可能領域」(ハビタブルゾーン)を動き、表面近くに水がなければいけない。そんな惑星の特定が進み、たとえば宇宙望遠鏡「ケプラー」で観察したところケプラー、186f、438b、452bが地球型惑星だとわかった。太陽から3光年先にある小さな恒星「トラピスト1」をめぐる惑星7個のうち3個も地球型だという。昨今は毎月のように「地球そっくりな惑星」の報告や報道がある。
短い報道記事はふつう触れないが、半径と質量、軌道の3つだけだと、地球の「きょうだい」とはいえない。肝心なのは化学環境だ。遠い恒星を可視光(天体望遠鏡)で観測すれば、化学組成は恒星ごとに大差があるとわかる。私たちの太陽に比べ、マグネシウムや鉄や炭素の相対量が多かったり少なかったりする。すると、恒星と惑星は同じ原始惑星系円盤から生まれたため、公転する惑星の化学組成も地球とはかなりちがうはずだ。
地球型かどうかの最終判断には、惑星の化学組成を使う。鉱物学者と地球化学者の最新知見によると、惑星が生命に適するかどうかは、ちょっとした差が決める。マグネシウムが多すぎれば、生命の養分を循環させるプレート運動が始まらない。鉄が少なすぎれば、あぶない宇宙線をさえぎる地磁場ができない。水や炭素や窒素やリンが少なすぎても、私たちの知っている生命は生まれない。
では、「もうひとつの地球」が見つかる確率はどれほどなのだろうか? 10種余りの多量元素と、10種ほどの微量元素も必要だから、胎児な元素すべてで、2つの惑星がほぼ同じ組成になる確率はかなり低い。「地球そっくりな」元素組成の惑星はせいぜい100分の1、たぶん1000分の1だろう。むろん、半径と質量、軌道の3つが近い地球型の惑星は少なくとも10の20乗個あるというから、地球に似た天体はずいぶん多いのかもしれない。
そう思うと、なんとなく落ち着かない気分になる。地球そっくりな惑星を見つけようとするのは人間だけだ。嗜好や政治観、宗教の面で気の合う友人や恋人をほしがるようなものだろうか。だが、あらゆる面で自分そっくりな人物、洋服の好みも職業も趣味も、用語の好みも身振りもそっくりな人物に出会うのは、そうとうに気味が悪い。それと同様、地球のクローンといってもいい惑星が見つかると思えば、心穏やかではなくなる。

心配ご無用。そうはならない。「地球型」の惑星を見つける試みが、人類史が続く時間内に成功するとは思えないため、地球そっくりな惑星は「ほかにない」と思ってかまわない。