Belgium: Molenbeek and Islamist terror | Focus on Europe
Total fertility rates in Europe
Why European women are saying no to having (more) babies
03 May 2016 VOX, CEPR Policy Portal
Europe is in the midst of a major demographic crisis, with many countries facing ultra-low fertility rates.
https://voxeu.org/article/why-european-women-have-few-babies
『2050年 世界人口大減少』
ダリル・ブリッカー、ジョン・イビットソン/著、河合雅司/解説、倉田幸信/訳 文藝春秋 2020年発行
老いゆくヨーロッパ より
EUの出生率の平均は1.6
ベルギーの出生率は1.8で、人口置換水準を十分に下回る。そしてベルギーの現状は欧州のなかで決して例外的ではない。それどころかEU(欧州連合)の平均は1.6とベルギーよりさらに低い。英国こそベルギーと同じ1.8の出生率だが、EU平均の1.6を下回る国も多い、具体的にはギリシャ(1.3)、イタリア(1.4)、ルーマニア(1.3)、スロバキア(1.4)などだ。こうした国ではすでに人口減少が始まっている。ギリシャは2011年に減少に転じた。イタリアで2015年に生まれた新生児の数は、1861年の建国以来もっとも少なかった。同じ2015年、ポーランド全土で200の学校が生徒不足により閉鎖された。ポルトガルは2060年までに人口が半分に減る恐れがある。国連の推計によれば、1990年代から現在までの間に東欧諸国は全体として人口の6%、1800万人を失ったという。これは地球上からオランダ一国が丸ごと消えるのに等しい人口減少である。
こうした人口減少は、ブリュッセルの夕食会に参加した男女には良いニュースに思える。
「空間が増える」
「仕事も増えるね」
「家が安くなる」
「すべてのものが安くなるよ」
だが、彼らは考えが足りない。若者の数が減るというのは、若者が高齢者になったときにその医療費や年金を支えるはずの納税者が減ることを意味する。子供を持つカップルが減れば家の買い手も減るので、住宅価格は下がり、結果として人々の資産も減る。新卒から中年までのもっとも購買意欲の高い層が減るというのは、車や冷蔵庫、ソファからジーンズに至るまで買い手が減ることであり、経済成長は減速する。その点を指摘すると、テーブルのみんなは黙ってしまった。
モロッコ人労働者をベルギーに”輸出”
ベルギーの首相というのは、民主主義世界でもトップレベルに不安定な仕事である。ワロン人とフランドル人との間に存在する忌々しい違いのせいだ。ベルギーの歴史を通じて、炭鉱や大型産業のあったワロン地域はおおむねフランドル地域より栄えてきたので、フランドル人は傍流意識を持っていた。だが近年はその状況が逆転し、ただでさえ火種の多いこの国にまたひとつ可燃物が加わった。ベルギーでは選挙の後で連立政権をなんとかまとめ上げるのに数ヵ月かかることもあり、その連立政権もすぐ倒れかねない。このため1961年にテオ・ルフェーヴルが政権を握ったとき、彼は自分に与えられた時間はそれほど長くないとわかっていた。そして当時は、緊急に解決すべき課題がひとつあった。ベルギーの工業生産を支える、臭くて汚い仕事、ときには危険なこともある炭鉱労働者といった仕事の担い手がおらず、深刻な労働力不足に陥っていたのだ。
どうすればいいのか――。
その頃、モロッコ国王のハサン2世もやはり問題を抱えていた。国王になってわずか3年目にして、モーリタニアとアルジェリアの一部の領有権を主張したことで近隣諸国の怒りを買い、一方で国内北部では諸部族の反乱に直面していた。彼には外国からの援助と西側諸国の後ろ盾が必要だった。国家の安全保障と富の蓄積には輸出が大きな役割を果たす。ところが当時のモロッコには輸出すべきものがほとんどなかった。あるとすれば自国民くらいである。そして、それこそまさにベルギーが必要とするものだった。1964年、ベルギーとモロッコは協定を結ぶ。何万人ものモロッコ人――そのほとんどは面倒を惹き起こす北部のリーフ地方の部族民――を外国人労働者としてベルギーに送り込む、という内容だ。他の欧州諸国も、トルコやアルジェリアなど中東や北アフリカの国々と似たような協定を結んだ。
・
結局はベルギー政府がより良い職業訓練と教育機会の提供を通して、事態の改善に着手した。そして、学校や政府機関で以前より多くのアラブ系ベルギー人の姿を目にするようになり、融合が進んでいるという明るい兆しが見えてきた。今ではブリュッセルは世界でもっとも多様性に富んだ都市の1つである。だがそれでも、多くのベルギー人は孤独を抱えている。狭い国土に何百万という人々がひしめき合って暮らし、美しい田舎町と完璧な風景写真のような田園地帯と丘陵地帯を持ち、木の1本に至るまで無計画に育っているとは思えないようなこのベルギーは、孤独の集合体なのである。
良い環境でも悪い環境でも下がる出生率
ここまでの話にある種の皮肉が含まれているのに気づいた読者もいるだろう。
工業化と都市化、そして経済成長によって初めて、産む子供を少なくしようという選択を女性ができる条件が整えられる。ところが、ひとたびそうなった後では、不況になると出生率低下につながりかねず、景気が回復すると子供作りも上向く。良い条件が出生率を下げ、悪い条件も出生率を下げるのだ。
ブリュッセルでの夕食会まで、ジュディスとナサニエルも、その友人たちも、出生率低下という問題を気にかけたことはなかった。誰でもそうだ。少しでもいいアパートを探し、就職先の心配をし、うまく就職できれば次はもっといい職場に移りたいと思う。交際相手との関係を一歩ずつ深めて、絆の強さを確かめてみる。うん、この相手なら大丈夫だ。ぜひ一緒に住もう。私たちは結婚するの? するかもね。でも、しないかも。子供は作る? うん、そろそろいいね。ふたり目はどうする? 無理だよ、もっと早ければ考えたけど――
こうしてヨーロッパは衰退していく。