じじぃの「ノーベル物理賞2020・ブラックホールの特異点ってなあに?ホーキング入門」

Infinite Curvature of Spacetime Singularity

Holographic universe
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ノーベル賞!私がデビュー作で「ペンローズの宇宙観」を書いた理由

2020.10.07 竹内薫(サイエンス作家)
●熱狂的なファンからの祝福メッセージ
え? いま、ペンローズって言ったよな。空耳じゃないよな?
画面を凝視していると、ペンローズの似顔絵が現れた。に、似てねぇ……ごめん、イラストレーターさん。でも、ペンローズは、もっとハンサムだぜ?
てなわけで、物理学賞に関してはテレビ出演で日本人受賞者の解説をする仕事はなくなったが、妙に嬉しいニュースである。なぜなら、私の実質的なサイエンス作家デビュー作は、何を隠そう『ペンローズのねじれた四次元』(講談社ブルーバックス)なのだから。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76210

『マンガ ホーキング入門―天才物理学者の人生とその宇宙論

J・P・マッケボイ/文、オスカー・サラーティ/絵、杉山直/訳 ブルーバックス 2005年発行

無私の博士論文指導教官 より

デニス・シャーマこそ、経験に裏打ちされた指導を行う無私の指導者というケンブリッジの伝統にのっとった、献身的な博士論文指導者であった。
ティーヴンの父親からの説得力に満ちた懇願にもかかわらず、シャーマは博士号取得の時期の短縮を決して認めなかった。
シャーマには、大学院学生を指導するのに、独自のスタイルがあった。彼は世界中で他の多くの教授がやっているように学生と共同研究をすることをあえてしなかった(彼は学生との共著論文さえほとんど書かなかった)。彼は学生のために研究テーマを選んでやることさえしなかった。
この時期にシャーマが指導したほとんどすべての学生が、その後宇宙論の分野で世界をリードする研究者となった。
シャーマの果たした重要な役割の1つは、彼の学生たちが重要なセミナーに出席できるように配慮することだった。彼は常に学問の世界で何が起こっているかを把握しているようであった。1960年代中頃、ケンブリッジのグループはロンドン大学バークベック校に籍を置いていたロジャー・ペンローズという若き応用数学者の仕事に興味をかき立てられていた。

ケンブリッジで学位を得た後、アメリカで研究を続けたペンローズは、「特異点定理」という思いつきを発展させようとしていた。これこそ、ケンブリッジの研究グループが自らの研究を進める上でどうしても必要としていた研究であった。

シャーマが幾人かの彼の同僚や学生たちとともに、宇宙論に熱中し始めたのは、ジョン・ホイーラーがオッペンハイマーの解やブラックホールの存在を認めてからわずか数年の後のことであった。当時すでに世界最高の数学者として認められていたペンローズは、ケンブリッジの喫茶店でシャーマと話しているときに、これら奇妙な存在を扱う方法についてぱっとひらめいたのだ。
ペンローズは、星がある点を超えて収縮すると膨張することができなくなることを、すぐに証明してみせた。一般相対性理論の枠組み内では、星は無限大の密度になることを避けられない。すなわち、中心に「特異点」が形成されるのである。
当時多くの人が信じていた、星を構成する物質が内部を通り抜けて収縮から膨張に転ずるという考えは誤っていた。その代わりに、そこでは時間が終わりを迎え物理法則がもはや適用できなくなる。時空の特異点が形成されるのだ。これこそが最初の「特異点定理」である。
物質が修飾している星の内部を通り抜け、膨張に転ずる――ペンローズはこの考え方が誤りであることを示した。

知っておく必要のあること:特異点とは何か?

一般に、特異点とは数学的関数が定義できない点である。そこでは関数は無限大の値を出して発散する。
例えば、y = 1/x という単純な数式では x = 0が特異点になる。
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シャーマの学生たちは、星が収縮するときにブラックホールを形成すれば、そこには特異点が必ず存在することを証明すると予告されたペンローズのロンドンでのセミナーに大挙して出席した。
スティーヴン・ホーキングはこのペンローズセミナーに出席しなかった。しかし、そのニュースはすぐに彼の元に届き、深い感銘を受けた。
このときホーキングは大学院への最終学年を迎えるところだった。最後になってようやく取り込むに足るやりがいのある研究テーマを見つけたのだ。ペンローズの方法を適用するにはそこで使われている数学を学ぶ必要があり、その上で自身の博士論文の最終章となる、宇宙の始まりに関する特異点定理をまとめあげるという、猛烈な量の仕事をこなさなければならなかった。
ホーキングは、一般相対性理論が正しいとすれば、過去、宇宙には特異点、すなわち時間のはじまりが存在していなければならない、ということを示したのである。