じじぃの「ヤンソンのこころ・6歳児感性の再生法!絵本『さびしがりやのクニット』」

Vem ska trosta knyttet? (1980)

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=-ym8dbuK2L4

The Life of Tove Jansson

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=tYgC0nKyF0g

寂しがりやのクニット

クニット(トフル)は小さくて大きな目をした生き物、お互いにとても小さな、殆ど聞こえない声で話をしています。彼らはとてもシャイで寂しがり屋です。彼らはあまり色がなく髪と服装は全てグレーのためムーミン谷の他の住人からは殆ど気にされることはありませんでした。
彼らは他の生き物に囲まれている時でも木や石の間から覗き見をしたり、常にシャイで一人であり続けています。そのため彼らは「Who will comfort Toffle」(寂しがりやのクニット)の本の中で寂しさの象徴として描かれています。
http://www.aikapaikka.com/2013/11/nyyti-toffle/

『人生の1冊の絵本』

柳田邦男/著 岩波新書 2020年発行

50歳からの6歳児感性の再生法 より

トーベ・ヤンソンムーミン童話やムーミン童話や、A・A・ミルン(文)とE・H・シェパード(絵)によるクマのプーさん童話は、子どもと大人の領域を超えた世界児童文学の傑作として、これから100年後も200年後も読み継がれていくだろう。
優れた児童文学の数々を読んでいつも感心するのは、6歳児くらいまでの幼いこころの動きを、みごとと言えるほど鋭くとらえている点だ。それはとりもなおさず作家が6歳児くらいまでの感性をそのまま失わずに持ち続けていることを示している。
6歳児くらいまでの感性とは、どういうものなのか。それは、小学校に入って受ける教育のなかで身につけていく知識や理屈などが前頭葉で支配的になる前のこころの動きだ。たとえば、未知のものへの好奇心、何かを自分でやろうとするひとむきなこころ、自分が生きるのを守ってくれる人に対する真っすぐな信頼感、言葉に対する敏感な反応などだ。
ヤンソンにしてもシェパードにしても、そういう幼児期の子どもの心理を、物語のなかの会話の言葉でも、挿し絵や絵本の絵のなかでも、みごとに表現している。
ヤンソンの絵本『さびしがりやのクニット』は、孤独な男の子クニットの”こころの成長の物語”と言える。クニットは、森のなかの小さな家にひとりで暮らしている。夜になると怖くてさびしくてたまらないので家じゅうのランプをつけ、ベッドのなかで泣き明かしている。誰もなぐさめてくれない。ランプに火を灯すクニットの目は恐怖におびえている。
家よりも大きな不気味な怪物ヘムレンたちのすごい足音が響いてくるし、べつの怪物モランのうなり声も聞こえてくる。クニットはもうこの家にはいられないと、朝もやに包まれた森のなかに鞄(かばん)ひとつで逃げ出す。森のなかで振り返るクニットの小さな姿は痛々しい。
白夜の日暮れ時、疲れきったクニットが、海辺に出ると、1本のピンが流れ着く。拾い上げると、なかに手紙が入っていた。スクルットという女の子が書いたもので、島のなかにひとりぼっちでいて、怪物モランのうなり声が怖くてたまらない。誰かなぐさめに来てほしいという。
クニットのこころに大きな変化が起こる。勇気がわいてきて、強くてやさしい少年になったのだ。鞄をボートにして、沖へです。島に着き、スクルットを探そうと進むと、すべてを凍らせるモランが巨大な姿で立はだかる。クニットがモランのしっぽにかみつくと、モランは悲鳴をあげて森へ逃げ込んでしまう。
スクルットはその様子を岩の上から見ていた。はじめて会ったふたりは、ただじっと見つめ合うばかり。ハッピーエンドの物語となる。クニットのこの”こころの成長の旅”の途上には、ムーミン童話のなかに登場する怪物をはじめ擬人化された愉快な生きものたちや人物たちが描かれて、物語展開の脇役を演じ、スクルットの内面の葛藤やこころの変化と成長を浮き彫りにする役割を果たしている。人間も不思議な生きものたちも、素性の説明はなくどんどん登場させるところに、ヤンソンのこころのなかに息づいている6歳児の感性が全開している。
ミルンとシェパードによるプーさん童話の世界からも、同じことを感じる。プーさん童話に登場するプーさんをはじめ、みんなおかしな動物たちの原型は、ミルンの息子の幼いクリストファーが大事にしていたぬいぐるみたちだった。