じじぃの「歴史・思想_215_シンギュラリティ・加速するテクノロジー」

楽天ブックス:シンギュラリティは近い 人類が生命を超越するとき

レイ・カーツワイル(著)
【目次】
第2章 テクノロジー進化の理論――収穫加速の法則
https://books.rakuten.co.jp/rb/14117597/

『シンギュラリティは近い[エッセンス版] 』

レイ・カーツワイル/著 NHK出版/編 2016年発行

テクノロジー進化の理論――収穫加速の法則 より

進化のプロセス

テクノロジーの進化のプロセスは、その能力を指数関数的に向上させる。イノベーションを図る者は、性能を倍々に改良しようとする。イノベーションとは、加法的にではなく。乗法的に進むものなのだ。テクノロジーは、他の進化のプロセスと同じように、それ自身をもとにして発展していく。この様相は、エポック5(人間のテクノロジーと人間の知能が融合する)において、テクノロジーがそれ自身の進歩を完全にコントロールするようになっても、依然してと加速を続ける。

第5のパラダイム

ムーアの法則は、じつのところ、コンピューティングシステムにおける第1のパラダイムではない。20世紀全般にわたる49の有名なコンピューティングシステムとコンピュータのコストパフォーマンス――1000恒常ドル[インフレの影響を除いたドルの価値]あたりの毎秒の計算回数で測定したもの――をグラフ化した図(画像参照)を見れば、よくわかる。
この図で明らかなように、集積回路が発明されるずっと以前より、コンピューティングのコストパフォーマンスで指数関数的な成長を示した4つのパラダイムが確かに存在していた。電気機械式計算機、リレー式計算機、真空管、単体のトランジスタがそうだ。しかも、ムーアの法則で終わりではない。ムーアの法則、2020年より前にS字曲線の終端に達すると今のところ予測されているが、引き続き、3次元の分子コンピューティングが出現し、第6のパラダイムとなって指数関数的成長を続けるだろう。
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先ほども述べたように、ムーアの法則は、一定のサイズをもつ集積回路上のトランジスタの数といった限られた対象についてのものにすぎない。さらには、トランジスタの加工寸法といったさらに狭い範囲に限定されることもある。しかし、コストパフォーマンスを追跡するのなら、最適な基準は、単位原価あたりのコンピューティング速度になる。この指標なら、多様なレベルの「賢さ」(イノベーション、すなわち、テクノロジーの進化)を考慮に入れることができる。集積回路に関連するあらゆる発明の他にも、コンピュータの設計においては、何層もの改善が積み重ねられてきているのだ(パイプライン処理、並列処理、命令ルックアヘッド、命令とメモリのキャッシュなど多数)。
人間の脳は、非常に効率の悪い、電気化学的なデジタル制御のアナログコンピューティング処理を用いている。脳の計算の大半は、ニューロン間結合(シナプス結合)によって行なわれ、毎秒約200回の計算速度しかない(ひとつの結合ごとに)。これは、現在の電子回路の速度より100万倍以上も遅い。しかし、人間の脳は、3次元の超並列組織を構成していることから、驚異的な力をもっている。3次元回路を人工的に構成するためのさまざまなテクノロジーはすでに準備段階に入っている。
コンピューティングのプロセスを支える物質とエネルギーの分量にはもともと限界があるのではないか、という疑問もあるだろう。これは重要な問題だが、21世紀の終わりごろまでこの限界に達することはない。個別のテクノロジーパラダイムにおいて見られるS字曲線と、幅広い領域にわたるテクノロジーもおいて進行中の進化のプロセス、たとえばコンピューティングなどに見られる継続的な指数関数的成長とを区別することが大切だ。ムーアの法則をはじめとする個別のパラダイムは、最終的に、指数関数的成長がそれ以上不可能な水準に必ず到達する。ところがコンピューティングの伸びは、基盤となるパラダイムを次々と取り換え、当面のところ、現行の指数関数的成長が持続する。