じじぃの「歴史・思想_183_地球に住めなくなる日・フェルミのパラドックス」

宇宙人はいったいどこにいるのか? - フェルミパラドックス

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The Fermi Paradox

『地球に住めなくなる日』

デイビッド・ウォレス・ウェルズ/著、藤井留美/訳 NHK出版 2020年発行

第4部 これからの地球を変えるために

劇的変化の時代が始まる より

地球温暖化の予測がもしまちがっていたら? 何十年も積みかさねてきた気候の学説や情報が誤っていたとなると、生態系はもちろん、科学と科学的手法の正当性、信頼性まで危機に直面する。しかし同時に、科学が負けることは勝利でもある。この賭けは、地球というたったひとつのサンプルで勝負しなければならないのだから。
温暖化をずっと観察してきた科学者たちは、その原因は1850年代に、ジョン・ティンダルとユーニス・フットが示唆した温暖効果にほぼまちがいないと思いつつも、慎重にほかの説も検討し、排除してきた。そして現われた数々の予測――地球の平均気温、海面数位、ハリケーンの頻度、山火事の程度――は、一見するといくらでも誤りを立証できそうだ。しかしどれほど悪いことが起きるかは、科学が正しいかどうかではなく、人間の活動が決める。災厄をうまくかわすために、どれだけ迅速に力を尽くせるのか?

宇宙植民の可能性

1950年、イタリア生まれの物理学者で、原子爆弾開発にも関わったエンリコ・フェルミは、昼食に向かう道すがら同僚たちとUFOの話をした。自分の考えに夢中になっていたフェルミは、ふと気づくとまわりに誰もいなくなっていた。

「みんなどこに行った?」。思わずフェルミは口にした。この疑問はフェルミパラドックスを語る際にかならず引きあいに出される。宇宙がこれだけ大きいのなら、なぜほかの知的生命体と出会わないのか?

その答えはかんたんだ。私たちのような生命体を生みだせる条件の星は、よそにないのである。人類の出現以降の地球環境は、気候学的には人間がきわめて快適に過ごせるものだった。そのおかげで人類はいまに続いている。しかし地球といえどもこの状態は永遠ではなく、以前より居心地が悪くなっている。人類はここまで暑くなった地球など、それまで知らなかった。だがこの先はもっと暑くなる。私が話を聞いた気候科学者のなかには、地球温暖化フェルミパラドックスで考えようとする者もいた。ひとつの文明が続くのはせいぜい数千年。工業化文明となると、数百年といったところか。140億年近い歴史を持ち、恒星系どうしも時空がかけはなれている宇宙のなかでは、文明の出現・発達・終焉はあっというまで、おたがいを見つけだすことは不可能だ。
フェルミパラドックスには「グレート・サイエンス」の別名もある。宇宙に向かって大声で呼びかけても、返事はおろかこだますら返ってこない。経済学者ロビン・ハンソンはこれを「グレート・フィルター」と呼ぶ。文明は地球温暖化という網にひっかかった虫なのだ。「文明が出現しても、このフィルターにひっかかると絶滅して、すぐに姿を消す」と私に話してくれたのは、古生物学者ピーター・ウォードだ。「こうしたフィルタリングは、過去の大量絶滅の引き金になった」。そしていま、ふたたび大量絶滅が始まっているとウォードは言う。
地球外生命体を見つける試みの背後には、無限に広がる宇宙のなかで人類の重要性を確かめたい欲求がある。他者がいてこそ、自分たちの存在を実感できるのだ。ただし宗教やナショナリズムとちがって、ここでは人間は大きな物語の主人公ではなく、むしろ端役になる。コペルニクスの夢ということだ。コペルニクスは地球が太陽のまわりを回っているとカキ芯したとき、宇宙のスポットライトを一身に浴びた気がしただろう。だがこの発見によって、コペルニクスは全人類を宇宙の片隅に追いやった。
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生態系が危機にあると運命論が幅をきかせるが、それでも人為的な気候変動による地球の変容によって、フェルミパラドックスばかりが熱を帯び、その哲学版ともいうべき人間原理が見向きもされないというのは、人新世の奇妙なねじれだ。人間原理は、人間が引きおこす異常を説明すべき謎ではなく、壮大な自己愛的宇宙観の柱に据える。いちばん近いのが、物理学のひも理論が導く自己中心性だ。無限の宇宙に漂うガスから知的文明が誕生する可能性がいかに低くとも、宇宙で私たちがどれだけ孤独に思えても、私たちが築きあげて、いま生活しているような世界は、私たちがこうした疑問を投げかけている以上、論理的には不可避だ。この意識的な生活と互換性を持つ宇宙でしか、生活を同じように熟考できる存在は生まれない。
これは比喩がねじれたメビウスの輪だ。観察されたデータに厳密に基づく主張というより、巧妙な同語反復である。それでも、解決まであと数十年しか猶予がない気候変動の難問を考えるうえでは、フェルミやドレイク(アメリカの天文学者、ドレイクの方程式を考案した)よりずっと役に立つはずだ。

行動を決めるのは自分自身

気候変動の脅威は、原子爆弾よりも全面的であり、徹底的だ。2018年、世界各国の42名の科学者が警告を発した。現状のままのシナリオでは、地球上の生態系はひとつの例外もなく劇的な変化を余儀なくされる。100年や200年といった長さではおさまらない、地球の歴史上最も激しい変容の時代が幕を開ける。すでにグレート・バリア・リーフは半分が死滅した。北極圏の永久凍土は融けてメタンを放出し、もう二度と凍結することはないだろう。平均気温が4℃上昇すれば、穀物の収穫量は半減する。これが悲劇だと感じたならば、食いとめる手段を持っているのが自分たちであることを思いだしてほしい。税制を使って化石燃料を急いで廃止する。農業のやりかたを変え、牛肉や乳製品に偏たった食生活から脱する。グリーンエネルギーと二酸化炭素回収への公共投資に力を入れるなど、やれることはたくさんある。