じじぃの「歴史・思想_179_地球に住めなくなる日・気候トラウマ」

カメラマンが見たフィリピン台風被害

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=gDcCpqXNxWc

フィリピンの台風被害 トラウマに悩む少年

フィリピンの台風被害 精神的疲労とトラウマに悩む被災者

2013年11月13日 UNHCR Japan
UNHCRはフィリピンを襲った台風30号(ハイエン)の被災者に支援物資を届けている。
フィリピン政府やUNHCRのパートナー団体からの報告によると、被災地では特に女性や子どもが、高まる緊張感による精神的疲労とトラウマに悩まされるなどの事例が伝えられている。UNHCRはフィリピン政府の社会福祉・開発省と連携し、支援活動を続けている。
https://www.unhcr.org/jp/10986-ws-131113.html

『地球に住めなくなる日』

デイビッド・ウォレス・ウェルズ/著、藤井留美/訳 NHK出版 2020年発行

第2部 気候変動によるさまざまな影響

大規模な気候難民 より

温暖化の現状がこのまま続けば、2050年までに、世界の3つの地域で1億4000万人の気候難民が発生する――世界銀行が2018年に出した予測だ。内訳はサハラ以南のアフリカで8600万人、南アジアで4000万人、ラテンアメリカで1700万人である。国連の国際移住機関が発表した数字は2050年までに2億人とさらに多く、おちらのほうが多く引用される。とても多い数字だ。多すぎて反対派には信じてもらえない。それでも国際移住機関(IOM)は、2050年までに気候変動が最大10億人の難民を生むと主張する。南北アメリカの人口とほぼ同じだから、2つの大陸がとつぜん海に沈んだと思えばいい。海面に浮かびあがった人びとが、とにかく陸地にたどりつこうと必死にもがく。誰かが岸を見つけて泳ぎだせば、ほかの者もいっせいにそこに向かうだろう。

深刻な「気候トラウマ」

苦しみに満ちた世界では、人は自分を守るために殻に閉じこもろうとする。気候科学の最前線を追いかけていて興味ぶかいのは、地球温暖化が人間の心理にも足跡を刻みつけていることだ。環境の危機が精神衛生にまで影響をおよぼしているのである。その最たるものとして容易に想像できるのがトラウマだろう。極端な気候にさらされた者の4分の1から半分は、精神的に強い衝撃を受ける。洪水が起きた地域では、直接の被害がなかった住民でも精神的苦痛が4倍も大きくなったというイギリスの研究報告がある。ハリケーンカトリーナでは、避難者の62パーセントが急性ストレス障害と診断され、被害地域全体で見ると住民の3分の1がPTSD心的外傷後ストレス障害)を発症した。山火事だとその割合はなぜか低く、カリフォルニアの場合24パーセントだった。ただし山火事を経験した住民の3分の1は、その後うつ病の診断を受けている。
第3者として現場にいた人間も「気候トラウマ」から逃れられない。2007年、アル・ゴアとともにノーベル平和賞を受賞したIPCCに参加したかミール・パルメザンは、「被害
を目の当たりにして精神的に同様しなかった科学者はいません」と話している。オンラインマガジンのグリストはこれを「気候うつ」、サイエンティフィック・アメリカン誌は「環境非嘆反応」と呼んでいる。気候変動による環境荒廃が少しずつ明らかになってきたいま、世界の行く末を考える人間が絶望にとらわれるのも無理はない。警告の声が無視されていればなおさらだ。苦悩する気候科学者たちは、炭鉱のカナリアなのである。温暖化の警告が「オオカミが来た」になることを彼らは恐れる。大衆の無関心ぶりをよくわかっているだけに、いつ、どんな形で注意を喚起するべきなのか逡巡(しゅんじゅん)するのだ。
いっぽうで間接的に警鐘が鳴る場合もある。研究者でさえ二次的な精神被害を受けるのだから、当事者の打撃はいかばかりか。気候トラウマで深く傷つくのは、感受性の強い子どもたちだ。1992年にフロリダを襲い、40人の死者を出したハリケーン・アンドリューから8ヵ月後の調査では、子どもの半数以上に中程度のPTSDの症候が見られ、そのうちの3分の1強は深刻な状態だった。とくに被害が甚大だった場所では、1年9ヵ月たったあとも70パーセントの子どもたちでは中度から重度のPTSDが続いていた。ちなみに戦地から帰還した兵士がPTSDを発症する割合は11~31パーセントとされている。
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大規模災害だけではない。気候はうつ病の発症だけでなく、病状の重さまで左右するという研究結果がランセット誌に発表されている。気温と湿度がともに上昇すると、精神的な不調で救急外来に駆けこむ人が増加するのだ。精神科への入院も増える。とくに気温との関連が顕著なのが、統合失調症だ。精神科の病棟では、室温が統合失調症患者の病状に直結している。気温上昇は、気分障害、不安障害、認知症も増加させると言われている。
暑さが暴力や争いを生むことはわかっているが、その矛先が自分自身に向くことも大いに考えられる。アメリカでは月平均気温が1℃上昇すると自殺率が1パーセント近く高くなり、メキシコでは2パーセントを超える。二酸化炭素の排出が現状のままだと、アメリカとメキシコの自殺は2050年には4万件増加しているだろう。世界の自殺の5分の1を占めるインドでは、自殺者の多くは農民だ。インドの自殺率は1980年以降2倍に増えている。それに加えて、カリフォルニア大バークレー校のタマ・カールトンが戦慄の研究結果を発表した。インドで過去30年間に発生した自殺のうち5万9000件は、地球温暖化が関係していたというのである。インドはすでに相当暑くなっているが、気温がさらに1℃上昇するだけで、1日に70人が自らの生命を絶ってしまうのだ。