じじぃの「歴史・思想_134_動物と機械・AI・未来の市民・わたし」

What is the Meaning of Life? | What is the Purpose of Life?

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=_C7DzloSiCM

What is the Purpose of Life ?

『動物と機械から離れて―AIが変える世界と人間の未来』

菅付雅信/著 新潮社 2019年発行

未来の幸福、未来の市民 より

ホール・アース・シチズン

この世界政府的な国際組織は、多国籍企業と提携し、その先進的技術と国際的組織力を借り、または委託する。具体的にはグーグル、マイクロソフトフェイスブック、アップル、VISAカードアリアンツ、アクサ、CNN、ロイター、またはエアー・ビー&ビー、フェデックス、DHLなども提携企業の候補に挙げられるだろう。衣服や食料品、医薬品の提携では、ユニクロやギャップ、H&M、ネスレ、ホールフーズ、ユニリーバ、ロシュ、ファイザー、ノヴァルティスというのもありえるかもしれない。ちなみにマイクロソフトは「AI for Good」というAIを招いた国際的な社会貢献活動を展開しているが、逆にこの名称から想起されるんおは、「AI for Bad」な用い方も十二分にありえるということだ。
企業の経済力が国家を超えている事例としては、このようなレポートがある。シンクタンクGlobal Policy Forum(グローバル・ポリシー・フォーラム)が2000年に発表した「Top200:The Rise ofGlobal Corporate Power」は、大きな物議を醸した。各国の年間GDPと企業の年間売り上げを比較したこのランキングで、世界の最も大きな経済主体をトップ100二並べると、そのうち企業が51で国はわずか49という内容だったからだ。このレポートの発表から20年近くが経った現在は、さらに世界企業が増え、その力が国を超えていることが推測できる。
こうした世界市民のヴィジョンが本格的に提示されるにはべつの大著が必要になるだろうし、わたしがここで簡単に素描したアイデアの中にも大きな誤謬(ごびゅう)や詰めの甘さがあるだろう。『21世紀の資本』(2013年)が世界的ベストセラーになったフランスの経済学者トマ・ピケティは、緻密な分析に満ちたその本の締めで、先進国の格差是正の解決案として、国家を超えた課税と配分が必要であると謳い、大きな議論を呼んだ。批判者の意見は、国家を超えた課税など具体性が乏しく実現性がないというものだった。
また日本の経済学者、水野和夫のベストセラー『資本主義の終焉と歴史の危機』(2014年)でもピケティに近い提案が示されている。それは「グローバル資本主義の暴走にブレーキをかけるとしたら、それは世界国家のようなものを想定せざるをえません」というものだ。さらに水野は続ける。「世界国家、世界政府というものが想定しにくい以上、すくなくともG20が連帯して、巨大企業に対抗する必要があります。具体的には法人税の引き下げ競争に歯止めをかけたり、国際的な金融取引に課税するトービン税のような仕組みを導入する。そこで徴収した税金は、食糧危機や環境機器が起きている地域に還元することで、国境を超えた分配機能をもたせるようにするのがよい」。この水野の大胆な提案も議論を呼ぶところとなった。

動物でも機械でもない「わたし」を考える

これからAIと共生する社会が進むにつれ、労働の中心はある程度AIと機械で占められるようになり、生活と文化の中心は人間になるだろう。ユニバーサル・ベーシック・インカム論議のように、人によっては労働をまったくせず、国や社会から英活が保障される者も出てくるだろう。しかし、そのような人も先進国的な生活を過ごし、文化を受発信するはずだ。そうなると、経済的でなく、文化的なアイデンティティが、これからの人のアイデンティティの核になるだろう。
そして、人間が人間らしく生きることを、AIという鏡のような存在を凝視することで、より深く考えよう。動物でも機械でもない「わたし」を考える時間と場所を確保すること、それがとても大切で、肯定的な時間であり体験だと思えること。それがAIと共生する時代における幸福なのではないかとわたしは考える。そしてケインズにこう言いたいものだ。「余暇が十分ある豊かな時代が来る半面、平凡な人間にとって暇な時間をどう使うかという恐ろしい問題」を克服できる知恵を、AIの力を借りて見つけましたよ、と。