じじぃの「歴史・思想_131_動物と機械・AIの普及・働くことの意味」

ベーシック・インカム解説 - 無条件の収入をすべての人に? UBI

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=kl39KHS07Xc

普通の人々の戦い AIが奪う労働・人道資本主義・ユニバーサル・ベーシック・インカムの未来へ  2020/3 アンドリュー・ヤン (著), 早川 健治 (翻訳) Amazon

ある州の世論調査トランプ大統領を8ポイントリードする意味が本書に表現されている。
世界的に懸念されるAI革命による労働世界の消滅と地域経済の衰退に対する抵抗戦略を提示。
それは、国民ひとりあたり、月に11万円を支給する「自由配当」=ベーシック・インカムによりすべての人々の所得を保障することで、人間性を中心にした「人道資本主義」を実現すること。

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『動物と機械から離れて―AIが変える世界と人間の未来』

菅付雅信/著 新潮社 2019年発行

仕事の代替は古くて新しい問題である より

ベーシック・インカムを政策に掲げる米大統領選候補

では、AIによる仕事の代替に対して処方箋はあるのだろうか? 第1章に登場した松原仁や第2章で取材した池上高志も語っていたひとつのアイデアが、通称ベーシック・インカムだ。正確にはユニバーサル・ベーシック・インカム。これは最低限所得補償の一種で、政府がすべての国民に対し、最低限の生活を送るのに必要とされる必要とされる額の現金を定期的に支給するという政策のことである(以下、UBIと略)。つまり、働かなくても最低限の収入があり、生活できるという制度である。さらに言えば、仕事がなくてブラブラしていて当たり前の世界が実現する仕組みだ。現在、UBIは世界的に大きな論議を呼び、すでに先進国の一部、オランダのユトレ人やカナダのオンタリオ州では実験的に導入されている。
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アンドリュー・ヤンは彼の著作『The War on Normal People(普通の人々の戦い)』(2018年)で、「装置中心の資本主義から、人間中心の資本主義へ」の転換を促す。なぜなら、彼いわく「機械による仕事の代替は、民主主義的ではない」からだ。彼は自らを「資本主義を愛する者」だと述べるが、「資本主義は極端になりやすい」とも危惧する。彼が唱える「人間中心の資本主義」は、以下のような3つのポリシーを持つ。
1:人間性は、お金よりも重要である。
2:経済の単位は、人であり、お金ではない。
3:市場は人々の共通の価値とゴールのためにあるべきだ。
この理想の実現のため、ヤンはUBIの必要性を説いて回る。さらに彼にはデジタル・テクノロジーへの過大な期待に対する大きな懸念がある。それは「インターネットはわたしたちを賢くしなかった。インターネットによって、わたしたちは、貴重な時間を、他者との共感を、社会への関心を以前よりも失っている」というものだ。
UBIを提唱するのは彼だけではない。「欧州の当ら数知性」とも呼ばれるオランダの歴史家ルトガー・ブレグマンは、2016年に『隷属なき道――AIとの競争に勝つ ベーシック・インカムと1日3時間労働』を上梓した。そこでブレグマンは3つのアイデア――UBIの導入、週15時間労働へのシフト、そして国境線の解放――を提案している。AIが仕事を代替する社会においては。この3つの組み合わせこそが処方箋になる得るのだという。
また日本では、駒澤大学経済学部准教授の井上智洋がラディカルなUBI支持者として注目を集め続けてきた。井上は2019年5月に出版した『純粋機械化経済――頭脳資本主義と日本の没落』にて、ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』に出てくる「無用者階級」という言葉を参照しながら、未来の社会は『無用階級』『不老階級』に二極化すると警鐘を鳴らす。そして、技術による失業についてのさまざまなデータを引用しながら、UBIのような包括的な社会保障制度の必要性を強調している。
そこで、精力的に著作を発表する井上に話を伺った。かれは前日にUBIの調査のため、フィンランドから帰国したばかりだという。
「私はAI時代にはUBIが必要不可欠だと主張しています。汎用型AIが出来なかったとしても、普通に働いていた人がある日仕事を失ってしまうということがこれから徐々に現れてくると思うんです」
UBIの導入のためには、国家の役割があらためて重要であると井上は語る。
「現代において再分配を行なえるのは、近代国家しかないんです。AIが真価すれば国家の枠組みは意味をもたなくなると言う方もいますが、近代国家の枠組みはかなり協力なので、わたしは残ると思っています。もしかするとグーグルのような企業が仮想通貨を配り、国家を超えていくようなケースも想定できますが、いまのところは、国家しか再分配をおこなえない。ですから、日本が世界に先駆けてUBIを導入し、それが機能することを世界に示した後に、貧しくて自国だけではUBIをおこなえない国家を救うために国家機関をつくり、再分配を行なうという道筋が現実的だとおもうんです」
労働時間が減り、余暇をどのようにすごすべきか――そんな問いかけに対して、井上は「余暇こそが、知的好奇心を増やす」という見解を示す。
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井上は、未来には労働と仕事が分離すると考えている。「もしも食べていくためにやるものを労働と呼んで、それ以外に自発的にやっている作業のことを仕事と呼ぶのであれば、労働というものがすごく減って、仕事という、お金になるかならないかはわからないが自分が能動的にやっていることのほうが広がっていく社会が見えてきます。そうであれば、それは仕事大好き人間にとっても嫌な社会にはならないと思うんです。わたしは、人間は賃金労働から解放されたほうがいいと思っていますね」