じじぃの「歴史・思想_126_動物と機械・深センはAIに未来を託す」

Baidu - an AI Company

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=JJq2MWRIPBQ

Baidu COO Lu Qi in Beijing. Photo: Handout

『動物と機械から離れて―AIが変える世界と人間の未来』

菅付雅信/著 新潮社 2019年発行

世界最大のテック都市、深圳はAIに未来を託す より

香港国際空港に降り立ち、そこから電車で約1時間。中国本土への”国境”を越えた先に広がるのは、深圳(シンセン)の街並みだ。ここはグーグルもフェイスブックもアマゾンもない巨大都市。わたしたちは中国製のアプリ、バイドゥ・マップやウィーチャットスマートフォンにダウンロードし、広大なテックシティに足を踏み入れた。
人口は約1450万人。「中国のシリコンバレー」と呼ばれ、世界最大のテクノロジー都市として注目を集めているのが、この深圳だ。この街に本社を構えるテックカンパニーを挙げれば、アジア最大の時価総額を誇る巨大インターネット企業のテンセント(Tencent/騰訊控股)、ドローンの世界シェア7割を占めるDJI(大疆創新科技)、米中の経済立率の象徴となっている大型家電メーカーのファーウェイ(Huawei/華爲技術)、最先端バイオ企業のBGI(華大基因)と枚挙に暇がない。
深圳の発展の歴史は、約40年前に遡る。1970年代まで、深圳は人口40万人の、中国ではとても小さな漁村であり、いまのようなテクノロジー都市の面影はなかった。80年代に入り、中国初の経済特区に指定されたことから、深圳は急速な発展の道をひた走ることになる。
さらに大きな転機となったのは、2008年に起きた世界金融危機だ。世界の工場とも呼ばれていた中国、そのなかでも工場地帯であった深圳に拠点を置いていた外資系企業は、不況と人件費の高騰を理由に次々と撤退していった。そこで深圳が掲げたスローガンは、「大衆創業、万衆創新(大衆による企業、万人によるイノベーション)」。廉価な商品を中心とした下請け的労働集約産業からハイテク産業への大胆な転機を図り、DJIやファーウェイは自社プロダクトを武器に世界へと羽ばたいていった。
アメリカン・ドリームという言葉があるように、ダイナミックでイノベーティブな都市である深圳には『深圳ドリーム』があるんだ」とは、今回取材した、AIを活用した画像認識を開発するミニアイ(MINIEYE)のCEO劉国清の言葉だ。「この街では、よく働けば、夢を実現できる。これはしがらみの多い北京や上海といったほかの都市とは大きく異なるんだ」と、彼は街独自の価値観を誇らしげに語った。
また、ミニアイのようなテクノロジー企業には、深圳で起業するメリットが大いにある。「深圳は優れたエンジニア、工場、サプライヤーを見つけられる場所。北京や香港ではなく、有用なリソースを見つけられる場所にいる必要がある」と劉は話す。
そして、深圳に若者が集まる理由について「中国の若者は、テクノロジーイノベーションの力を信じている。深圳では起業家は人々から尊敬され、成功するためのチャンスが多くある」と言葉を続け、劉は笑いながらこう付け加えた。「ぼくの地元では、教師や公務員になる選択肢しかなかったからね」
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わたしたちが深圳で最初に訪問した先は、世界最大の遺伝学研究所が併設されたBGI(旧・Beijing Genomics Institute/華大基因)の本社だ。1999年に設立されたBGIは、その名が表すように当初は北京に本社を構えていたが、2007年に深圳に移転した。ゲノム(遺伝情報)の解析事業を展開する同社は従業員の数が6000人を越え、急成長を続けている。
1990年に始まった国際的なプロジェクト「ヒトゲヌム計画」は、ヒトのゲノムの全塩基配列を解析するプロジェクトだ。それは当初の予想より2年早く2003年に完了し、同プロジェクトによってヒトのゲノムの全塩基配列が解析できることが証明されるという、歴史的な快挙となった。ヒトゲヌム計画には、日本、米国、英国、ドイツ、フランス、そして途中から中国が参加し、競うように解析が行なわれたが、この時中国を代表してプロジェクトに参加し、全DNAの1パーセント分の解析を担当したのがBGIだった。しかも同社は現在、従業員全員が自身のゲノムを解析済みというから驚きだ。
2010年に米国の巨大バイオ企業イルミナ( Illumina)の高速シーケンサー塩基配列解析装置)を128台購入し、2014年までに世界のゲノムデータの少なくとも4分の1を生み出す世界最大のゲノム解析企業へと成長したBGIは、これにとどまらず、2013年にはイルミナの競合にあたるシーケンサー開発企業コンプリート・ゲノミクス(Complete Genomics)を買収し、シーケンサーの自社開発にも乗り出した。つまり、イルミナのお得意様から、いきなりライバルとなったのだ。この立場の急変がいかにも中国らしい。現在、ヒトゲヌム解析にイルミナでは約1000ドルのコストがかかるところ、BGIは600ドルで同様のサービスを提供している。
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ところで、中国のインターネット空間は誰が支配しているのか? グーグルが使えない中国では、一体何がグーグルの代わりになっているのか? それがバイドゥ(Baidu/百度)だ。中国最大の検索エンジン・サービスを提供するバイドゥは、アメリカンのグーグル同様に、検索を軸として多種多様なウェブ・サービスを提供し、中国の検索エンジン市場の7割を占め、世界の検索市場でもグーグルに次ぐ第2位の位置を占めている。手がけるサービスは、ニュース、SNS、マップ、音楽や動画の視聴とダウンロード、そして様々な予約業務など、ウェブがカバーするほとんどの領域に及び、今の中国人には、バイドゥなしの生活はありえない。