じじぃの「科学・芸術_935_ウェールズ・英語とウェールズ語」

Japanese Spectators Sing Welsh National Anthem At Training Session - Rugby World Cup

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=TE5rK_pM9r0

Japanese mascot belts out Welsh national anthem arm

in arm with players

イギリスの秘境 vs.ロンドンのアーティ農園

2012/06/10 NEMOGRAPHY
ウェールズによく行くので日本人の知人友人に「英語とウェールズ語はどのくらい違うの」と聞かれることがある。
実はこの2つ「訛っている」という程度の差ではなく、2つの異なる言語で、例えば「グッド・モーニング」は「ボレダー」、「ウェルカム」は「クロイソ」といった次第。道路標識や公文書は2言語で表記されている。ウェールズ語が先に来るので一瞬戸惑うことも。
https://nemoroberts.wordpress.com/2012/06/10/%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%81%AE%E7%A7%98%E5%A2%83-vs-%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E8%BE%B2%E5%9C%92/

ウェールズを知るための60章 吉賀憲夫(編著) 発行:明石書店

英国を構成する4つの「国」の1つウェールズ。最も早くイングランドに併合されたが独自性を保ち続け、英語と全く異なるウェールズ語を話せる若者も少なくない。アーサー王伝説のルーツを持ち、海苔を食すなど日本との意外な共通点もあるウェールズを生き生きと紹介する。
Ⅲ ウェールズ語保存の歴史
第22章 ウェールズ語――英語とはまったく異なる言語
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784750348650

ウェールズを知るための60章』

吉賀憲夫/編著 赤石書店 2019年発行

ウェールズ語――英語とはまったく異なる言語 より

ウェールズ語は、インド・ヨーロッパ語族ケルト語派の中のブリトン語系の言語である。同じ島で話されている英語(ゲルマン語系)と系統が異なり、発音、文字、文法、語彙がすべて異なる。
ウェールズ語の文字体系は、いわゆるアルファベットのうち、k、j、q、v、x、zを除いた20文字に、2つの文字の組み合わせ(ch、dd、ff、ll、ph、rh、th)を加えたものである。書かれた文字はすべて発音し、各文字には同じ1つの発音があるのが原則である。綴りを見れば、いわゆるローマ字読みで発音できる。例えば tad「父」は「タード」、pen「頭、終わり」は「ペン」と読む。ただし、注意すべき文字もある。例えば、「f」の文字1つでは vの発音、重ね字にして「ff」とすると fの発音になる。
     ・
ウェールズ語は、後ろから前に修飾する言語である。例えば、「おはよう」を表すボレ・ダーはボレ「朝」とダー「良い」が結びついた表現であるが、形容詞が名詞を後ろから修飾している。英語とは真逆の文法である。この分法は地名にも見ることができ、「ペナボンド(ペナ・ア・ボンド、「その橋」(ア・ボンド)の「終わり」(ペン)))」がその1例である。他にもスウォンジーウェールズ語名「アベルタウェ」は「アベル」(河口の意)と「タウェ」(河川名)の2語から成り、「タウェ川の河口」を表す地名である。ここでも後ろから前に係っているのがわかる。
     ・
ウェールズ語の語彙は主にケルト語系のものが多いが、多民族との接触の歴史を通じて、外国語から多数の語を借用してきた。ローマ帝国統治時代にはラテン語から多数の語彙が伝播した(例「ポント」pont[橋」はラテン語 ponta「橋」から)。11世紀のノルマン征服以降、フランス語からの語彙が主に地名に見られる(ピューマリス<Beaumaris>は「美しい沼沢地」を表すフランス語から)。
しかし最も多い借用語は、何といっても英語由来の借用語である。英語からの借用はアングロ・サクソン時代から始まっており、しばしばウェールズ語形に英語の古形が残っていることがある。例えば、「鷹」をウェールズ語で「ヘボク」と呼ぶが、ここには英語の「ホーク」の古英語形「ヘヴォク」が残っている。1536年のウェールズ併合以降、現在に至るまでの5世紀間に、2言語話者としてのウェールズ語話者が増える過程で、英語からの語彙借用はさらに増加する。英語の影響は、借用語だけでなく翻訳借用にも見られる。例えば「~を楽しみにする」は「エドリヒ・アムライン・アト」(edrych ymlalen at)と言うが、これは英語の look forward to を遂語的にウェールズ語に訳したものである。
ウェールズ語が純粋でなくなりつつあると嘆く人々もいるが、ウェールズ語は歴史を通じて常に外国の文化とともに外国の言語を受け入れ、新たな表現形式として上手に吸収してきた。その歴史は現在も続いているのである。ウェールズ語語彙の創造性は、ウェールズ語が生きた言語である証である。