じじぃの「科学・芸術_911_パレスチナ・イスラエルとの非対称性」

Palestine flag

パレスチナを知るための60章』

臼杵陽、鈴木啓之/編著 赤石書店 2016年発行

イスラエルパレスチナの非対称性 国家主体と非国家主体 より

イスラエルパレスチナ関係は強者と弱者の関係である。これはイスラエルが経済、軍事面で圧倒しているだけでなく、イスラエルは国家であるのに対し、パレスチナは非国家であるためだ。そのためパレスチナは交渉の場を自ら設定できず、イスラエルは有利な場で交渉を進めてきた。この非対称な関係を示すに当たり、本章ではイスラエル政府をイスラエル、その対となるパレスチナ自治政府ヨルダン川西岸とガザ地区パレスチナ自治区パレスチナ人を便宜上まとめてパレスチナと呼びたい。
非対称性について、まず経済面を見てみたい。2013年度の統計によると、単純な1人当たりのGDP差ではおよそ12倍、貿易面ではパレスチナの対イスラエル貿易は貿易総額の約70%と依存している一方、イスラエルの対パレスチナ貿易はわずか3%しかない。またパレスチナの関税等をイスラエルが代理徴収し、還付するという制度が存在するが、その額はパレスチナの税収の約3分の2を占めている。イスラエルが何らかの理由で税還付をやめることで、この制度が制裁の道具として機能している。同様に全パレスチナ人労働者のうち約16%はイスラエル国内と入植地で働いているが、イスラエル軍の検問はしばしば彼らをイスラエル労働市場から締め出すこととなる。このようにイスラエルパレスチナの「人・モノ・カネの移動」を容易に遮断することができる立場にある。
続いて軍事面だが、2014年のガザ紛争だけをみても、イスラエルの死者は民間人と兵士を合わせても67人であるのに対し、パレスチナは2251人、その内の3分の1は子どもであり、その一方的な関係が見て取れる。さらにヨルダン川西岸に設置された分離壁イスラエルの絶対的優位な軍事力を象徴している。
そして何よりも重要なのは、国家主体と非国家主体の関係という現実である。イスラエルは国家として1949年に国連で承認されているが、パレスチナは2012年に総会での投票権のないオブザーバー国家として承認された。この違いによって、イスラエルがテロなどの理由でパレスチナを交渉パートナーとして認めないといえば、あらゆる交渉がストップする。
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1993年のオスロ合意でアメリカ以上に重要な仲介者はノルウエーであった。このとき、ノルウェー政府ではなく、社会学者テリエ・ラーセンが交渉のきぅかけを作った。アメリカを主な仲介者としてきた両者にとって、ノルウエーという新しい仲介者は交渉の「横道」を作り出し、合意終結に重要な転機となった。同時に、PLOとの接触を禁じた法律が廃止されたこともこれを後押しした。
オスロ以降では、2003年の和平への「ロード・マップ」に代表されるように、「カルテット」と呼ばれるアメリカ、ロシア、EU、国連といった大国、国際組織が仲介者の役割を果たしていくこととなった。注目したいのは、EUや国連といった国家の枠組みを超えた組織が重要な役割を担い始めたことである。前述のとおり、パレスチナはオブザーバー国家であるため、国連総会での投票権を持たない。しかし、2014~15年の総会決議だけでみても、イスラエルに対して避難決議は20回行われ、同時に議論されたイラン、北朝鮮、シリアにはそれぞれ1回しか行われなかった。さらに、国連下部組織のユネスコや、独立した国際機関の国際刑事裁判所へのパレスチナの加盟など、国際機関を舞台にしたパレスチナ外交の盛り上がりを示している。EUでも、2014年のスウェーデンパレスチナ国家承認やイギリス下院での承認決議といった動きは、欧州を迂回してイスラエルへの大きな圧力となっている。