じじぃの「歴史・思想_53_ナイジェリアの歴史・奴隷貿易の爪痕」

The Atlantic slave trade: What too few textbooks told you - Anthony Hazard

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=3NXC4Q_4JVg

大西洋奴隷貿易


ナイジェリア

JICA
ナイジェリアは、アフリカ大陸において最大の人口(約1億8500万人)と最大規模のGDP、最大の石油産出量と天然ガス埋蔵量というアフリカ有数の大国です。
一方、国内の所得格差は大きく、社会インフラの整備が不十分な状況は国民生活の向上や企業投資促進の大きな妨げになっています。JICAは技術協力、有償資金協力、無償資金協力の各スキームを効果的に組み合わせ、(1)日本の技術が生かせる分野で「質の高い経済成長のための基盤づくり」、(2)包摂的かつ強靭な保健・医療システムの整備を重点分野として支援していきます。
https://www.jica.go.jp/nigeria/

『物語 ナイジェリアの歴史 「アフリカの巨人」の実像』

島田周平/著 中公新書 2019年発行

奴隷貿易の爪痕 「大西洋奴隷貿易は歴史的過去ではない」 より

大西洋奴隷貿易の特徴を経済的に分析したホプキンスは、交易条件だけに限ってみればアフリカ側商人たちが一方的に不利であった訳ではないと分析している。ヨーロッパ人商人同士の競争は激しく、より商品価値の高い奴隷を短期間に集めたい彼らは現地商人の歓心を買うことに腐心し、現地商人の要求する多品目の品物を前渡しで与えるという「前渡し方法」をとっていた。ヨーロッパ人商人側にも不利な条件があったという訳である。
しかし、この貿易がアフリカ社会に与えた負の影響は、交易条件のみでは到底判断できない。人口減少や若年労働者の喪失についてはすでに述べた。ヨーロッパから輸入された布や陶器等が、粗悪品が多かったにもかかわらず、現地の織物業や陶業を衰退させたことも負の影響の1つである。
何よりも、奴隷狩りによる社会の荒廃や個人レベルの精神的負担の大きさは計り知れない。近年、奴隷貿易が個人レベルや社会に与えた影響を研究する論文が発表された。「アフリカにおける奴隷貿易と不信の諸原因」と題するその論文は、奴隷とされた子孫を対象に、彼らの血縁家族や近隣住民、さらには同一民族や地方政府などに対する信頼度を調べることにより、奴隷貿易が(180年以上も後世の)今日の子孫に与えている影響を調べようという意欲的なものである。奴隷貿易の影響は沿岸部の方が大きいだろうという想定のもと、海岸からの距離と奴隷貿易の相関関係をみるという方法や、信頼度を測るための簡便な四択(全くない、殆どない、少しある、大いにある)を用いたという点で方法論に疑問がない分けではない。
しかし、この論文が提起した問題は重大である。この論文の結論は、奴隷貿易が終って1世紀半以上も経つ現代においても、奴隷貿易が盛んであった(あるいは奴隷貿易で過酷な経験をした)社会の人々は、他の社会の人々より、血縁家族、近隣住民、同民族、地方政府のどれに対しても信頼度が低いというのである。もしこの結論が正しいならば、今日のアフリカの政治的不安定や汚職などの根源的原因の1つとして奴隷貿易を挙げることができることになる。
2001年8月末から9月初旬に南アフリカ共和国のダーバンで開催された「反人種、差別撤廃世界会議」では、この貿易にみられる人種差別主義を歴史書の中に閉じ込めるのではなく、現代の問題として取り上げるべきだという議論が行われた。その議論の末、大西洋奴隷貿易の反省と現在に与えている影響に関する議論の一部が「ダーバン宣言」の中に盛り込まれ、大西洋奴隷貿易が歴史的過去ではないことが再認識された。それはほんのわずかとはいえ「前進」であろう。しかしながら、この会議が反イスラエル主導で行われたとして、アメリカを初めとする数ヵ国が会議を途中でボイコットするという展開になってしまい、この会議後の議論は現在もなおその方向性が見えない状態になっている。