じじぃの「歴史・思想_46_アインシュタインの旅行日記・日本人についての見解」

ナショジオ】「ジーニアス:世紀の天才 アインシュタイン」 天才の愛した日本「日比谷の夜篇」

動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=n8u4KnyWFow

芸者をまじえての酒席

おそらく1922年11月25日

注8 訳者石原純について

石原 純 氏とアインシュタイン夫妻。
http://www.echna.ne.jp/~bunden/infchu8.html

アインシュタインの旅行日記 - 日本・パレスチナ・スペイン - アルバート・アインシュタイン

アルバート・アインシュタイン/著、Z・ローゼンクランツ/編、畔上司 /訳 草思社 2019年発行

日本と日本人についてのアインシュタインの見解 より

中国人との接触はごくわずかしかなかったが、それとは対照的にアインシュタインは日本の学界とは極東旅行以前から強いつながりをもっていた。彼が初めて日本人と接触したのはどうやら1909年3月のことで、それは物理学の学生だった桑木或雄とベルンで会ったときのようである。翌年彼は、日本の物理学者である石原純が書いたポンデロモーティブ力による相対性理論についての論文を賞讃し、「これは[……]まちがいなく、このテーマに関して書かれた唯一の有意義な論文である」と述べている。その10年後、アインシュタインは桑木(彼は物理学教授になっていた)が相対性理論について一般向けの本を翻訳してくれたというので「大喜びしている」と言っている。「私はあなたのベルン訪問のことを今もよく覚えています。何しろあなたは、私が知り合った最初の日本人でしたし、初の極東の人だったからです。あなたはあのとき、理論的知識の豊富さで私を驚かせました」
その後、極東に向けて出発するまでのアインシュタインと日本人とのやりとりはほとんどすべて、前述の「改造社」による日本招聘に関連したものである。だが交渉中には、招聘条件に不満だったときに日本人のことを「まさに信用できない」と呼んだりしたこともあり、その直後に彼はエルザにこう不平を漏らしている。「私は今後相当長時間ベルリンに留まることになりそうだ。鼻持ちならぬ日本人が私に面倒を吹っかけて、話を骨抜きにしてしまったからな」。だが前述のように、旅費に関するハードルは最終的には飛び越えられた。
ここで、アインシュタインが旅行以前に日本についてどう思っていたかを見てみよう。すでに述べたように、日本からの招聘を了承した一因は、東方に対するアインシュタインの憧れだった。西洋在住の日本受容史専門家が指摘することだが、「東方という罠」は西洋人が日本に向かうときに常に重要な要因だった。1900年のパリ万国博覧会以後、この傾向は強まった。この博覧会は西洋における日本様式流行に大きなインパクトを与えた。日本の芸術と習慣に対する熱狂は「ジャポニスム」として知られている。
だがアインシュタインの日本への関心は、どうやら異国情緒への(そして空想的な)刺激のほうが強かったようだ。旅の途中で受けたインタビューで彼は、ギリシャアイルランド人の作家でジャーナリストのラフカディオ・ハーン(1896年に日本に帰化した)の作品が旅行前の自分の日本観に影響していたと述べている。訪日前のアインシュタインは、日本のことを「おとぎ話のような小さな家と小人(こびと)たちの国」だと思っていたと語っている。日本到着から3週間後に書き上げた日本印象記のなかでも彼は、日本に対して感じている全般的な神秘感情を指摘している。「わが国にいる多くの日本人は孤独な生活をし、熱心に学び、親しげに微笑んでいます。自分を守っているようなその微笑みの背後に流れている感情を解明できる人は一人もいません」。同文のなかでアインシュタインはこう認めている。「私は自分が日本について抱いていることすべてを明確な像にすることは今までできませんでした」
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アインシュタインは日本芸術を絶賛していて、それこそは「日本人の心」の反映と見なしている。彼は日本の芝居を「部分的にはとてもエキゾチック」と見ている。ただし彼は日本音楽に魅力を感じていることは認めているが、結局はそれを批判し、「高度な芸術ジャンル」ではないと言っている。彼が日本芸術の最高の表現とみなしているのは絵画と木彫だ。そして日本人芸術家を崇拝しているのは次に挙げる点があるからだという。「明確さと単純な線を日本人は何よりも好むのです。そして絵画は全体像として理解されるのです」
アインシュタインは、日本の西洋文化受容について相反する2つの意見を持っていた。「日本は正当にも西洋の知的業績に感嘆し、成功と大いなる理想をめざして科学に没頭しています」とは言いつつも、日本人にこう警告をしている。「西洋より優れている点、つまりは芸術的な生活、個人的な要望の簡素さと謙虚さ、そして日本人の心の純粋さと落ち着き、以上のおおいなる宝を純粋に保持し続けることを忘れないでほしい」というのだ。この点に関しては、アインシュタインが表明している意見と、訪日経験のある他の西洋人の意見には類似点がある。日本旅行経験者の研究をしている歴史家によれば、西洋人のなかには日本の西洋化、近代化に賛成しかねる人もいた。「<エキゾチックな>旅先ならではの<異質性>を弱めてしまった」というわけだ。