じじぃの「科学・芸術_826_フランス人は老いを愛する」

60歳からを楽しむ生き方 フランス人は「老い」を愛する 賀来弓月 文響社

●「食べること」「笑うこと」を楽しむフラン人に学ぶ、何歳になっても人生を楽しむ方法!
◎フランス人は規則正しい生活を「美しい」と考える
◎フランス人はお金をかけずにオシャレを楽しむ
◎フランス人はゴシップより政治に興味を持ち、テレビより新聞を好む
◎フランス人にとってジョークはユーモアでなく、「エスプリ(才気)」
◎フランスの高齢者は遠足(バラデ)と巡礼を趣味にする
https://bunkyosha.com/books/9784866511108

『60歳からを楽しむ生き方 フランス人は「老い」を愛する』

賀来弓月/著 文響社 2018年発行

老いの試練を受けながらも人生を最後まで楽しもう より

ベルギーの作家ジャン・クロード・ピロット(1939ー2014)は「老いには年齢がない」と言っています。つまり、人の顔と心に皺ができる年齢はまちまちということです。例えば、60歳で「年をとっている」と見える人もいれば、85歳になっても「年をとっている」と見えない人もいます。
チェコの作家フランク・カフカ(1883ー1923)は「幸福は老いを忘れさせる」といっています。
とはいえ、高齢期の後半には、多くの高齢者はさまざまな試練を受けます。
まず、心身能力の衰えです。自由のきかなくなった手足の痛みです。若いときには、病気や怪我をしたときにしか感じなかった痛みや苦しさを始終感じるようになります。
ジャン・ドゥ ラクール(1890ー1985 フランスの鳥類学者)は、少々卑猥で辛辣なことを言っています。「若さと老いの違いはこういうことだ:若いときには4つの柔軟な肢体(手足)と硬直したもうひとつの肢体を持っている。ところが、高齢になると、4つの硬直した肢体(手足)と柔軟なもうひとつの肢体を持つことになる」
次に、五感が鈍くなります。物事をよく忘れる。新しいことがよく記憶できない。
さらに、配偶者との死別の悲しみがあります。生きながら、たびたび死を意識するようになるのです。
あれやこれやとさまざまな試練を味わいながら、多くの高齢者は「老いを生きるのは人間の生きることの内で一番難しい」(ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世)ことをつくづく感じるようになります。
そこで、同時に心まで老いると、「意味の危機」を迎えることがあります。日本人は、すぐに悲観する傾向がありますし、先述した通り、人に苦しみを打ち明けにくい。そのため、苦悩をひとりで抱え、「意味の危機」に陥りやすいように思います。「もう死んでしまいたい」。そんなことを思ってもおかしくありません。
私は、そんなふうに「意味の危機」を感じている高齢者に対して、「時間に対する新しい姿勢」を身につけてほしいと思っています。
ジャン・ノアン(1900ー1981 仏作家・作詞家)は、「若い世代は生きる空間を求める。高齢者世代は生きる時間を求める」と言っていますが、日本では、定年直後の人は、むしりあり余る時間を生きるための空間(居場所)は求めます。
しかし、幸いなことに、年を重ねていきながら、高齢者は「時間に対する新しい姿勢」を身につける力があります。それは、「時間が早く過ぎて行く」と感じる中、生きている各瞬間を一層楽しむことができる力です。以前は見過ごしてきた日常生活の小さいことに喜びを感じ、感謝することができます。ちょっとした人間同士のふれ合い、自分を取り囲む自然の神秘的な美しさに感じ入ることができるのです。
フランスのわが親友故ルネ・ペルシェ氏は、始終、「年をとるということ、それは生きるということだ。年をとりながら、生きる喜びを見つけましょう」と、口にしていました。

年を重ねるごとに、私たちは生きる喜びを一層感じる力を得るのです。