じじぃの「科学・芸術_558_イギリス史・近代スポーツの発祥の地」

Sport and Leisure in Britain Circa 1900 Part 1 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=-wXQ1jWBWvQ
Game of cricket, 18th century

『王様でたどるイギリス史』 池上俊一/著 岩波ジュニア新書 2017年発行
大英帝国の建設 より
アングロ・サクソン族のみが世界に法に則った普遍的平和をもたらせるのだから、未開地域の植民地化を進めて帝国を築く資格があるのは大英帝国だけ」という考えに民衆も拍手を送り、ミュージック・ホールでは国粋的な流行歌が歌われました。
学校で歴史が必修になったのは1900年ですが、歴史教科書で帝国の偉大さを教え、その大英帝国の担い手としての義務を学ばせました。そして、世界で諸民族に強大な支配権を揮(ふる)っている大英帝国の中心にいる誇りと優越感、たえざる戦争の必要性を叩き込んだのです。
大英帝国とはカナダ、オーストラリア、ニュージーランドインド帝国、アジア・アフリカ・カリブ海の直轄植民地など世界の広大な地域からなるだけでなく、「想像の帝国」でもありました。イギリス国内が貴族階級の頂点に立つ王から最底辺の臣民までのピラミッドを成していたのと同様に、帝国にも人種のヒエラルキーがあると考えられ、イギリス人がもっとも優越した地位にあるのはもちろん、植民地支配に服する人びとも序列化されていきました。
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イギリス人のまた別の特性として、彼らは「フェアプレー」を非常に重んじます。貴族から農民、都市労働者や馬車の御者まで、フェアネスとは何かを知っています。これまで見てきた王と貴族階級、やがて中産階級らも加わって段階的に作られてきた法的遺産と国制が、その柱になっています。イギリス人の誇るイギリス憲法(諸法・原則の集合)と諸制度は。上から押しつけられたものではない自然な正義の感覚を表し、強化するのです。
18〜19世紀のヨーロッパの革命の時代、フランスが抽象的で普遍的な諸権利の教義を掲げたのに対し、イギリス人にはフェアプレーが社会的コンセンサスの枠組みを提供していました。彼らは抽象的な理念や協力な政府に服して束縛されるのではなく、自分たちの内的感覚に従い、それを法・慣習として外部化して自発的に服するのです。
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代表的なスポーツを眺めてみましよう。まず、クリケットというまさにイギリス的なスポーツがあります。起源は16世紀、昼休みやティーブレークのある、精妙でおかしなジェントルマンの遊びです。全国統一ルールができたのは1744年です。この不思議なスポーツは19世紀のヴィクトリア時代、ジェントルマンにふさわしい、動作が美しく尊敬されるべきゲームとして推奨されるようになり、1805年からパブリック・スクールイートン校とハロウ校が相みまえるのが伝統になっています。相手のミスを待つスポーツで、大変ゆっくりした進行のため、丸1日かけても決着がつかないことも珍しくないようです。
もうひとつ、他国の人にはあまり理解できないイギリスならではの貴族的スポーツに、ポロがあります。これは古代ペルシャに発祥したとされ、イギリスが植民地インドでそれを発見し、1860年代に本国にもち帰って新たなルールを定めて広がりました。1チーム4名で構成され、馬に乗りスティックで球を打って相手ゴールに運んで得点するゲームです。
こうした悠揚迫らぬ優雅な貴族的スポーツに、王族がかかわらないはずがありません。ポロは馬上競技なので、王族にふさわしいのです。たとえばエリザベス女王(2世)の夫君のエディンバラ公(フィリップ殿下)はポロの名手ですし、息子のチャールズはかつて在学したケンブリッジ大学でポロの補欠に選ばれたそうです。チャールズとダイアナ元妃の息子、ウィリアム王子とヘンリ王子もポロを趣味で楽しんでいます。
もうひとつ、王族が大いに肩入れしたスポーツは競馬です。1574年、エリザベス1世が頻繁に訪れたソールズベリ平原の競馬場に、スタンドが作られたことが知られています。歴代王の多くが競馬の庇護者・愛好者でした。エリザベス1世のほか、ジェームズ1世、チャールズ1世も競馬の大ファンで、彼らの時代にニューマーケットという競馬の町が開かれました。
王政復古後のチャールズ2世も競馬好きで、観戦や馬の飼育・取引に関わるだけでは満足できず、自ら騎乗してレースに出場し、1671年10月14日にニューマーケットで行われたタウン・プレート競技では優勝してしまいました。
王室との関係では、ウィリアム3世が専用の繁殖場をハンプトン・コートに作り、アン女王は自らロイヤル・アスコット競馬場(現在も王室所有)を創設したことも、特筆されるでしょう。王や王族たちは、その後も競馬を愛し、保護し、王室の持ち馬の勝利を願ったのです。「競馬は王様のスポーツ」と言われるのも、むべなるかな、です。
なお、現在のエリザベス女王も大の競馬好きで競走馬を所有し、毎月6月のエプソムダービーを楽しみにしているそうです。レースに興奮のあまり、自席を離れて最前列まで飛び出ている様がテレビに映し出されたことがありました。
イギリスは近代スポーツ発祥の地とされ、今挙げてきた「貴族的」なもの以外に、サッカー、テニス、ラグビーモータースポーツなど、庶民的なスポーツもイギリスで成立しました。