じじぃの「科学・芸術_425_霊的体験・お花畑」

Heavens Garden 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=jAoxQHMfkO4
お花畑


『死と神秘と夢のボーダーランド 死ぬとき、脳はなにを感じるか』 ケヴィン ネルソン/著、小松淳子/訳 インターシフト 2013年発行
霊的体験とは何か? より
霊的体験は脳が生む。もちろん、その全貌を詳らかにできる日は永遠に来ないだろう。哲学で言う”不可知なるもの”、それが霊的体験にはあるからだ。しかし、シェイクスピアが感得し、エリック・カンデルも書いているように、霊的体験は脳の働きなくしては起り得ない。信じるも信じないも勝手。ジョーのように自分の魂を巡るキリストとサタンの闘いをしかと目撃したと本気で思おうが、ただの幻覚とかたずけようが、はたまた、脳こそ神の幻想を創り出す張本人と考えるか、それとも、脳は不可侵にして絶対なるものが宿るところと信じて疑わないかにかかわらず、霊的体験の源が脳であることは誰にも否めない。
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シンシアは外交的な性格だし、一流大学病院で小児科医チームのリーダーを務めているほどの人物だから、私は臨死体験をテーマにしたテレビのドキュメンタリー番組の作成を手伝うように頼まれた時、事例として紹介するなら彼女こそ打ってつけだと思った。ところがシンシアは首を縦に振らなかった。対外離脱体験などを公共の電波に乗せて流したら、医師としての能力や人格を疑われかねないと言うのだ。
もちろん、臨死体験を恥ずかしがるヒトばかりではない。ドキュメンタリー出演をシンシアに打診して断られたその週に、初対面の患者が私と顔を合わせるなり、こんな話をしてくれた。
彼女、ポーラは22歳の時、親友だった女性の夫にドラッグを飲まされ、殴られ、レイプされた挙げ句、死んだと思われて放置されたと言う。頭部に重傷を負った彼女は何ヵ月も昏睡状態にあり、一時は医師たちもさじを投げた。危機を脱した後ですら、一名は取り留めるだろうが、植物状態は必至と見られていた。そこから奇跡的な回復を遂げたわけだが、その過程でポーラは臨死体験をした。
「私、天国に行ったんです」と彼女は語った。「眩い光は見えなかったし、どうやってそこまで選ばれたのかも分からないけれど、ああ、私は今、天国の門の前にいるのだと思ったわ。その時、大好きだった祖父のポー=ポーが、私に会いに門から出てきてくれたの。そして、帰りなさい、まだその時ではないよ、戻らなければ母さんが”死んでしまう”と言いました。2人で肩を並べて、光さざめくお花畑を歩いたわ」
ポーラに、自分がいつ、どのようにして天国から戻ったかという記憶はない。ただ、これを体験したのが、回復に向かい始めた頃であったのは確かだ。医師に何かを目で追うように言われる前だったこと、身動きできなかったことを覚えているからである。
私の患者になった時には、ポーラは自活し、婚約もしていた。脳損傷の後遺症でこわばり、思うように動かせなくなった下肢の治療法を探るために、私のところへ通うようになったのだ(「80歳のおばあさんみたいな歩き方でしょ、まだ25歳なのに」、彼女はあっけらかんと、そんなことを言った)。神経学的検査を行ったところ、残酷な脳損傷の名残りが確認されて、私がどうしても知りたかった疑問の答えが見つかった。彼女はなぜ、初対面の私に怪我や回復の様子を開けっぴろげに話してくれたのか? 彼女が私に対してたちまち胸襟を開いた理由は単純明快だった。カルテに書き込まれた言葉は、前頭葉損傷の可能性あり」前頭葉は社会的な行動の抑制・制約にかかわる脳領域である。そこでさらに原始反射を調べてみることにした。原始反射というのは新生児に見られる反射で、前頭葉が成熟するにつれて抑制され、消失していく。ところがポーラには、その原始反射が認められた。これで、前頭葉損傷の確証が揃った。謎は解けた。