じじぃの「科学・芸術_371_統合失調症・グルタミン酸仮説」

統合失調症の原因】グルタミン酸仮説とは 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=V8WFCt5YTjw
グルタミン酸仮説 (ishiyaku.co.jp HPより)

第二世代抗精神病薬による精神医療の進展 これからの抗精神病薬 2008年11月15日 医学のあゆみ 227巻7号
抗精神病薬の開発の歴史は 1950 年代にさかのぼる。これまでの抗精神病薬の開発はドパミン仮説に基づいており,ドパミン系の伝達制御を効率よく,あるいは繊細に行うことをめざして改良が進んできた。同時に抗精神病薬の開発は統合失調症の治療目標を変化させ,陽性症状を制御することから,認知機能障害を改善して社会復帰をめざすことが治療目標となった。
認知機能障害を改善する薬剤開発においてはドパミン仮説を超えた薬剤開発が求められており,現在グルタミン酸系に作用する薬剤,アセチルコリン系,セロトニン系に作用する薬剤などが検討されている。
https://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/AyumiArticleDetail.aspx?BC=922707&AC=7624
『フューチャー・オブ・マインド 心の未来を科学する』 ミチオ・カク/著、 斉藤隆央/訳 NHK出版 2015年発行
精神疾患 より
たとえば、昔からずっと、統合失調症の治療は野蛮で手荒なものだった。全人口のおよそ1パーセントを占めるこの消耗性精神障害の患者は、一般に、実際にはない声が聞こえたり、偏執的な妄想や支離滅裂な考えに悩まされたりする。いつの時代も彼らは、悪魔に「取りつかれている」と考えられ、追放されたり、殺されたり、閉じ込められたりしてきた。ゴシック小説にはときどき、秘密の部屋や地下室の暗がりで暮らす、異様で気の触れた身内が登場する。聖書にさえ、イエスが悪霊に取りつかれたふたりに出会った出来事が触れられている。悪霊はイエスに、豚の群れのなかへ追いやってくれと訴える。するとイエスは「では行け」と言った。悪霊が豚の群れに入ると、群れ全体が猛然と崖を駆け下り、水のなかで溺れ死んでしまった。
今でも、統合失調症の典型的な症状として、自分自身と言い合いながら歩きまわっている人を見かけるだろう。最初のしるしは、たいてい10代後半(男性の場合)か20代前半(女性の場合)に現れる。統合失調症であっても、声にいよいよ乗っ取られてしまうまでは、ふつうに暮らす人もいれば、偉業をなし遂げる人さえいる。最も有名なのは、1994年のノーベル経済学賞受賞者であり、映画『ビューティフル・マインド』でラッセル・クロウが演じた、ジョン・ナッシュの例だ。20代のころ、ナッシュはプリンストン大学で、経済学とゲーム理論純粋数学における先駆的な成果を出した。彼の指導教官がひとりが推薦状に書いたのは、「この男は天才です」の1行だけだった。意外にも、彼は妄想に悩まされながらも、そうした高い知的水準で成果を上げることができた。しかし31歳ですっかり狂気に陥ると、ついに入院させられる。それから施設を転々したり世界を放浪したりしながら、共産主義のスパイに殺されるとおびえて長い年月を過ごした。
現在、精神疾患を診断するのに、正確で、普遍的に受け入れられている方法はない。それでも、いつの日か科学者が、脳スキャンなどのハイテクを使って正確な診断手段を生み出してくれるという望みはある。これまで、精神疾患の治療の進歩はひどく遅かった。統合失調症患者は、何世紀も苦しみつづけた末、1950年代にソラジンなどの抗精神病薬が偶然発見されたときに、初めて救済の光を目にした。そうした薬は、患者につきまとう声を奇跡のように押え、時には取り除くことさえできたのである。
抗精神病薬は、ドーパミンなどの神経伝達物質の作用を調節することで作用すると考えられている。具体的には、ある種のニューロンのD2受容体の機能を阻み、それによってドーパミンの作用を抑えるという理屈だ(幻覚の一因が辺縁系前頭前皮質におけるドーパミンの作用の過剰にあるとするこの理屈で、アンフェタミンを服用した人が似たような幻覚に襲われる理由も説明できた)。
ドーパミンは、脳のシナプスにとってきわめて重要なので、ほかの疾患にも関与している。一説によると、パーキンソン病シナプスにおけるドーパミンの不足で悪化し、トゥレット症候群はドーパミンの過剰で引き起こされるという(トゥレット症候群の症状には、チックと呼ばれる、顔面などの異常な動きがある。ごく一部の患者は、卑猥な言葉や下品な悪口を無意識に発してしまう)。
最近になって、科学者は別の容疑者――脳内のグルタミン酸濃度異常――に狙いを定めてきている。グルタミン酸濃度の関連を疑うのは、ひとつにはPCP(天使の粉)という合成麻薬が、NMDAと呼ばれるグルタミン酸受容体の機能を阻害して、統合失調症患者のもとと似たような幻覚を生み出すことが知られているからだ。クロザピンという統合失調症用の比較的新た強い薬は、グルタミン酸の産生をうながす作用があるため、非常に有望視されている。