じじぃの「人の死にざま_1733_ピエール・ベール(哲学者・思想家)」

Pierre Bayle

もう一つのフランス−野沢協氏追悼 子安宣邦(近世日本思想史 大阪大学名誉教授) 2016年5月26日 日刊ベリタ
ピエール・ベール(Pierre Bayle, 1647年11月18日 - 1706年12月28日)は、フランスの哲学者、思想家。『歴史批評辞典』などを著して神学的な歴史観を懐疑的に分析し、啓蒙思想の先駆けとなった。
ピエール・ベール著作集の個人全訳を成し遂げた野沢協さんが亡くなったのは昨年11月18日であった。私はその死を知らなかった。東大の仏文時代の旧友松原雅典からの年賀状によってはじめて私は彼の死を知った。なぜ私はその死を知らなかったのか。ほとんど新聞の見出しを眺める程度で、記事の中味を読みもしなくなったせいなのか。あるいは腰痛と高血圧に悩まされ、もっぱら自己への配慮に昨年中深入りしていたせいなのか。この忘れがたい人の死を私は知らずにいたのである。
https://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201605261333424
『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』 立花隆/著 文春文庫 2003年発行
立原道造、ピエール・ベール (一部抜粋しています)
『ピエール・ベール著作集』(法政大学出版局)全8巻が今月3月末に全巻完結した。78年に第1巻「彗星雑考」が出て以来だから、足かけ20年の仕事になる。
最終巻の第8巻を本屋の店頭で見てびっくりした。
菊判で、厚さ11センチ(2分冊)、持ってみると、重さ3.4キログラムもある。こんなどでかい本は見たことがない。定価もとびきりで4万7千円である。
ピエール・ベールは、日本では、知る人がほとんどいないが、17世紀フランスの思想家で、思想史上の一大巨人である。大著「歴史批評辞典」によって徹底的な宗教批判、歴史批判を展開して、ヨーロッパの伝統的思考体系を木っ端微塵に打ち砕き、近代社会の思想的基礎づくりをした人である。一般にヨーロッパ近代は啓蒙思想によってはじまったといわれるが、ヨーロッパの啓蒙思想はみんな、ピエール・ベールが敷いたレールの上を走ったといっても過言ではない。マルクス唯物論もこれが最大の源流の一つといわれる。彼はお上品な思想家ではなく、徹底的なしかも論理的な論争家であったから、相手の誤りを徹底的に指摘し論破していった。その論争のスタイルも後の思想家たちに大きな影響を与えた。
評判は高かったが、日本語では長らく読めなかった。なにしろ大部すぎるので翻訳する人が誰もいなかったのである。主著の「歴史批評辞典」が取り上げた項目は2千項目あまりだったが、本文にはその数百倍の脚注がつけられ、そこで、徹底的な議論がつくされたので、本文より註のほうがよく読まれたという不思議な本だった。
これを訳した野沢協氏は、ほとんど一生のすべてをこの翻訳に費やしたという。それでも全訳ではない。この著作集で「歴史批評辞典」は3巻も占めているが、もし全訳するとしたら、それだけで30巻必要だったろうという。
ピエール・ベールもすごいが、野沢氏の翻訳もすごい。詳細な訳註、人名解説、附属資料、解題などをつけたもので、徹底的に贅沢な(体裁ではなく、内容的に)本造りをしている。出版社ともどもよくぞこんな本を作ったものと感心せざるを得ない。
全8巻で、トータルページ数1万1千2百ページ、重さ16.3キログラムである。定価は全部合わせて22万5千円。1週間ばかり買おうか買うまいか考えて、思い切って買ってしまった。