じじぃの「人の死にざま_1520_ウォルター・B・キャノン(アドレナリン)」

アドレナリンとノルアドレナリンの違いはなんですか? 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=bsSLmrQZKJI
キャノンとセリエの「ストレス状態」(ストレス学説) MIND-BODY THINKING BLOG
「ストレス」という言葉は、今日では当たり前のように使われていますが、そもそもこの言葉を医学や生理学の領域で始めて使ったのは、「セリエのストレス学説」で有名なハンス・セリエ(1907-1982, ウィーン生れ)でした。
しかし、その前に、ストレスに対する身体の反応を見出したのはウォルター・B・キャノン (1871-1945, 米)です。
キャノンは、ほえる犬を前にして緊張状態にある猫の血中に、アドレナリンという交感神経系の神経伝達物質が多く存在することを発見しました。
http://plaza.rakuten.co.jp/mindbody/diary/200611040000/
アドレナリン ウィキペディアWikipedia)より
アドレナリン(adrenaline)は、副腎髄質より分泌されるホルモンであり、また、神経節や脳神経系における神経伝達物質でもある。
ストレス反応の中心的役割を果たし、血中に放出されると心拍数や血圧を上げ、瞳孔を開きブドウ糖血中濃度(血糖値)を上げる作用などがある。
交感神経が興奮した状態、すなわち「闘争か逃走か (fight-or-flight)」のホルモンと呼ばれる。動物が敵から身を守る、あるいは獲物を捕食する必要にせまられるなどといった状態に相当するストレス応答を、全身の器官に引き起こす。

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『死と神秘と夢のボーダーランド - 死ぬとき、脳はなにを感じるか』 ケヴィン・ネルソン/著、小松淳子/訳 インターシフト 20013年発行
闘争か逃走か (一部抜粋しています)
ハーヴァード大学カウントウェイ医学図書館の特別コレクションに収蔵されている閲覧制限文書の中に、科学界最大の生理学者のひとりの日記がある。ウィリアム・ジェイムズの最も優秀な教え子と言っても過言ではなく、しかも、科学的な見地からすれば間違いなくジェイムズ本人よりも影響力を振るった思想家、ウォルター・B・キャノンの日記だ。キャノンは中背だがずんぐりむっくりした体格で、いかにも中西部出身と思わせる服装は、ハーヴァードの身だしなみのよいエリートたちの中ではひときわ浮いていた。家族思いで、研究のライバルたちには寛大、ナチス時代のヨーロッパでは初期の頃からユダヤ人科学者の保護のために積極的に尽力した。
ジェイムズとキャノンは互いに認め合っていたものの、その間柄は複雑だった。ジェイムズとデンマーク生理学者カール・ランゲがほぼ同時期に提唱したことから”ジェイムズ・ランゲ説”と呼ばれる。恐怖をはじめとする情動の身体表出に関する理論に、キャノンが学者としての人生の大半を費やして反論し続けたからだ。2人の説の違いは、鶏が先か、卵が先かの論争に似ていなくもない。ジェイムズは、情動は身体の物理的反応に応じて生じるものと考えた。クマに出逢うと、心臓がドキドキして、恐怖に襲われる。つまり、心臓がドキドキするのを感じるから恐怖が生まれるというわけだ。キャノンはその逆を考えた。クマを観て脳が恐怖を感じるから、心臓がドキドキするという。
真相に近いのはキャノンの説であることが確認されている。自律神経に損傷を来して心臓と脳の情報伝達が遮断された患者も恐怖を感じるからだ。クマを見て心臓が跳ね上がることはなくても、やはりクマを怖いと感じるのである。
キャノンの研究室にはずっと、クロード・バルナールとチャールズ・ダーウィン肖像画飾られていた。クロード・バルナールは、1865年に内部環境という考え方を提唱したフランスの生理学者である。すなわち、身体は個々の細胞に安定した環境を提供しているとする考え方なのだが、キャノンはこの内部環境を動的に拡大し、血糖や酸素などの化学的環境をも含むとした。後には、そうした化学的環境が、脅威や危機の際にも重要な役割を担うことを証明している。身体は通常、糖などの栄養素や酸素の値を狭い範囲内に安定されて維持している。これを”ホメオスタシス”と名づけたキャノンは、危機下にあってホメオスタシスが脅かされた時に対処する生理的なメカニズムを研究した。ホメオスタシスにとっての脅威とは、たとえば出血、痛み、そして恐怖などだ。
キャノンは副腎から分泌されるホルモンも発見し、それをアドレナリンと名づけた。アドレナリンはノルアドレナリン作動性の交感神経系に呼応して作用する。神経伝達物質ノルアドレナリンは、言うなれば神経と脳用のアドレナリンで、知名度こそ身体の臓器・器官用のアドレナリンに及ばないものの、化学的な相違は些細で微々たるものだ。
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アドレナリンと交感神経系が人に危険に対する備えをさせるというキャノンの考えは、時の試練に耐えて科学的に証明された。
今では、身体に闘争か逃走の準備をさせるアドレナリンの分泌増加が、魚類から人類への進化の基点となったと分かっている。そして、そのための回路は、人間の脳の進化の中で最も古く最も原始的な領域に存在している。