じじぃの「イギリス人が見た日本人の気質」

昔の日本 動画 YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=NROOPnZFdAk&feature=related
明治時代の日本 動画 YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=4_V-Ct4TYlY
『ナショナル ジオグラフィックが見た日本の100年』 日経ナショナル ジオグラフィック社 2003年発行
1921 大正10年
1921年7月号 美しい山川草木から生まれた日本人の気質 
筆者は、英国の宣教師で登山家。1888年明治21年)に来日し、日本各地の山を登り、"日本アルプス"の名を世界に紹介した。変化に富んだ日本の山川草木、そして季節の移ろいが日本人の気質に与えた影響を語る。
                          文=ウォルター・ウエストン
日本と英国は共通点がいくつかある。そのうちの一つは両国とも近くに大陸を控えた島国であることだ。英国の場合は欧州大陸であり、日本は中国大陸である。地理的な関係から、いずれも大陸の文化や宗教の影響から逃れることはできない。しかし同時に、それぞれの国の独自性を保たなくてはならない。
 日本はその宗教や文化をもっぱら隣国の中国から直接、あるいは朝鮮半島を通じて間説的に取り入れてきた。中国から学ばなかった、日本独自の文化といえば、「身体を清潔に保つこと」だけだったと、当の日本人も認めている。
 日本人はほとんど毎日、熱い風呂に入る。中国人はというと、よほど必要がない限り、湯につかったりすることはない。「日本人はなんと不潔な民族であることよ。毎日風呂に入って体をきれいに洗わなくてはならないとは」。中国人はこう言って日本人を軽蔑するのだそうだ。
 英国と日本は国土面積や人口ではほぼ同じサイズだが、いずれもやや日本の方が勝っている。国土は英国が約24万5000平方キロなのに対し、日本は約37万7000平方キロだ。一方、人口では日本の5700万人に対し、英国は4500万人といった具合だ。
 海岸線が長いのも日本の国土の特徴で、海岸線1.6キロ当たりの国土面積が25平方キロなのに対し、英国は同32.5平方キロなのだ。海岸線の長さは天然の良港をもたらしている。もっとも、日本中どこにでも良い港があるというわけではなく、どちらかというと太平洋に面した海岸線に良港は多い。
 日本最大の港、横浜はジブラルタルとほぼ同じ緯度に位置し、太平洋に面している。一方、日本の屋根といわれる日本アルプスはスペインのシエラネバダ山脈と大体同じ緯度だ。
 火山国はどこでも似ているが、荒々しい景色があるかと思えば、女性的な優しい景色もあるなど変化に富んだ美しさがある。また日本は地震や台風の洗礼を絶えず受けているだけに、なおさら地形が複雑で変化に富んでいる。
 夏や秋に日本を襲う台風は水害を伴い、河川の氾濫だけでなく土砂崩れによる大きな被害をも招く。津波の心配もあるし、それでなくても日本の海岸は複雑に入り江が組み込んでおり、暗礁があちこちにあって、ベテランの船乗りでも海の荒れた日の航海は極めて危険だ。
 しかし、日本はこうした自然災害や危険だらけということではもちろんない。それを補ってなお余りあるほどの素晴らしいものがたくさんある。豊富な野菜や果物、野山を彩る様々な草木や花々、見事な風景、すがすがしい空気、春夏秋冬がはっきりした四季の移り変わり。どれをとっても、日本以外ではあまり目にしたり経験することのできないものばかりだ。
 こうした様々な自然環境が日本の国土に暮らす人々の精神構造を形づくっているのだ。
 家屋の構造も日本人の精神構造とは切り離せない。木と紙とでできた日本の家屋は水害や火事などの災害にもろい。だからといって日本人は決して始終深刻そうな顔をしているというわけでもなく、楽天的だし、創造的でもある。芸術家肌と言えなくもない。
 しかしながら、自然のもたらす災害や予期せぬ不幸から逃れられないという意識があるせいだろうか、日本人はどちらかというと運命論者なのではなかろうか。
 日本の地理的条件は古代のギリシャとも似ている。いずれも山々や渓谷、平野、深く入り組んだ海岸線や半島、そして数多くの島々などの組み合わせは共通し、どんな内陸部でも山や海に遠い土地はほとんどない。こうした地形が小規模な地域社会を誕生させ、独自の気質や方言をもつ人々を生んだ。
 たとえば日本の最南端の島、九州の鹿児島は昔は薩摩といった。薩摩人はギリシャのスパルタ人と共通点があると言われるのだ。確かに薩摩の人間は他人にだけでなく自分自身に対しても厳しく、非妥協的傾向が強いところもスパルタと似ていると言われるゆえんか。
 スパルタといえばアテネとくるが、日本ではアテネに相当するところを探すとすると、それは日本の古都、京都ということになろうか。社交的で文学を愛し、自由と独立を尊重する。確かにこの2つの古い都市には共通点がありそうだ。
 ギリシャと現代の日本という国には共通点が少なくない。両国とも海との縁が深い海洋国家であり、防衛するのには便利な国だ。しかし、逆にまた外敵に狙われやすいことも事実だ。
 諸外国との交易も盛んで、航海術にも長けていた。いわば海洋国家であり、海洋民族でもあったわけだ。
 日本の国土は南北に長いだけに、気候的には寒暖の差が激しい。日本ほど場所によって寒暖の差が大きい国は、この地域では他にあまり聞いたことがない。北端となると北極圏に近い寒さになるし、南端に行けば亜熱帯性気候になる。また本州の西部の地域になると、猛烈な寒さと猛暑が同居したような気候になる。
 冬になると、シベリアから吹きつける湿った冷たい空気が、日本の東北部に大量の雪を降らせる。あまりの雪の多さに村や町全体が雪に埋まることも珍しくなく、雪のトンネルが唯一の交通路となる。
 雪にすっぽり包まれると、重要な公共の建物でさえ、その見分けがつかなくなることがある。そのため、郵便局や医院など主要な建物には旗などの目印が必要となる。このような豪雪地帯でも、夏になると熱帯地方と同じくらいに気温が上がることも珍しくない。
 湿潤な気候のせいで、変化に富んだ豊かな植生が見られ、これが日本の景観を特徴づけている。これまでに発見されている地球の植物の約半分が、英国よりも少しばかり面積の大きなこの国で見られるのである。
 日本人の入浴好きは前にも触れた。日本の山間部には1000ヵ所ほどの天然温泉があると言われる。農民たちは普段の労働が激しいせいもあるのか、終日の汗を一気に流し落としてくれる温泉が特に好きだ。
 温泉は成分によっては様々な病気に効果があるとされるが、温泉通いはなにも健康のためばかりではない。気の合った仲間たちとリラックスするために温泉につかる方が、むしろ多いのではないだろうか。日本人は移り気とか、熱しやすく冷めやすい民族だとよく言われるが、温泉好きだけは変わりそうもない。
 日本で経験する自然現象のなかで、最も不快なものの一つは地震である。平均すれば毎日4回ほど地震があるというが、大きな被害を残すような大きな地震は6年から7年に一度発生する程度だという。
 東京湾からそう遠くない太平洋岸が地震津波の発生源となることが多い。台風は地震と違って、その到来を予測することができるが、毎年定期的に訪れる台風は特に海岸地帯に大きな被害を与えている。
 日本の風景で忘れられないのは、滝の多いこととその見事さだ。特に有名なのは日光の華厳の滝と富士山の近くにある白糸の滝である。華厳の滝は高さが100メートル余りもあるせいか、昔から大学受験に失敗した若者や失恋を悔やんで投身自殺する若者が後を絶たないという。
 白糸の滝のほうは2本の太い滝と39本の細い滝とからなっていて、親子を連想させる滝としても人気がある。
 ギリシャと同様、日本でも国土を特徴づけているのは山である。国中に山々が広がり、どこからでも山の姿が眺められる。山はまた歴史にも大きな影響を与えてきた。
 日本では国土面積の4分の3余りが山で、ほとんど耕作できない土地である。残り4分の1の土地をそれこそ隅々まで、人々は日々精魂を傾けるようにして耕している。こうした努力は、私たち欧米人の人間にはとうてい理解しえないほどである。
 工業が発達し、地方から都市部へ移動する人々が増えた今でも、日本ではまだ国民の半分以上が農地とともに暮らしているのだ。
 大地と汗して取り組み、生きてきた日本人(農民の数は2500万人余り)は類まれな忍耐力とともに不屈の精神と明るさを育ててきた。さらに言えば、優秀な兵士は農山村から集められた男たちだという。中国東北部を舞台に繰り広げられた日露戦争でも、道なき山岳地帯を行くような作戦では、山暮らしに慣れた地方出身の下級武士たちが活躍した。
 要するに、日本という国の地理的な特性と、日本人の精神的な特性との間には密接なつながりがあるのだ。
 日本を代表する名山として富士山に触れないわけにはいかないだろう。筆者も何度か登ったことがあり、一度などは遭難しかかったこともある。富士山は日本で一番高い山であることは言うまでもないが、女子供たちにも登れる山ということで、ことに人気だある。
 富士山は、聖なる山としてあがめられており、事実、頂上には神社があって神が祀られている。しかし神社のすぐそばには郵便局があったり、気象観測所があったりするから面白い。富士山ではまさに古い日本と20世紀の新しい日本が仲良く同居しているのである。