じじぃの「科学・芸術_493_高畑勲『かぐや姫の物語』」

かぐや姫の物語 予告 動画 YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=af0hwlKjgpE

かぐや姫の物語』は、高畑勲との「別れの物語」だ。 2018年05月18日 HUFFPOST
82年の生涯をかけて、アニメーションの可能性を追い求めた高畑さん。遺作となったのが『かぐや姫の物語』だ。
3日前に営まれた高畑さんの「お別れの会」でも、『かぐや姫の物語』が随所に散りばめられていた。この映画は、いかにして作られたのか。それを少し紐解いてみたい。
https://www.huffingtonpost.jp/2018/05/18/the-tale-of-the-princess-kaguya_a_23437690/
『アニメーション,折りにふれて』 高畑勲/著 岩波書店 2013年発行
竹取物語』とは何か より
竹取物語』からかろうじて読み取れる翁の苦労、慈しみ、そしてかぐや姫のそれに対する恩義とは、このようなものだった。そしてこのように解釈すれば、一応お話の辻褄は合っているようにも思われる。しかしそれならば、別れに際してあんなに嘆き悲しむのではなくて、翁に詫びと感謝とねぎらいの気持ちを伝えるだけで充分なのではないか。
かぐや姫が泣いて訴えたところを信じるとすれば、わたしがいなくなって翁が嘆き悲しむことを思うと、ほんとうにつらい。帰りたくもない月へは帰らず、できることならばこの世にとどまりたい、翁・媼とともにいて、親の恩に報いたい、ということになる。もしそれが実現可能であったならば、すなわち、月にかえらなくてもよくなったら、いったいどういうことが姫を待ち受けているのだろうか。
翁・媼の老後の面倒を見ながら、次第に和んできていた御門の后になるしかないだろう。月へ帰らねばならないことが御門への求愛拒否の唯一の理由になってしまったいま、そうなって少しもおかしくない。
じつにつまらないハッピーエンドである。
こんな仮定は何の意味もなさそうに見えるだろうか。しかしじつは、ここにこそ重大な問題がひそんでいるのではないか。すばらしいハッピーエンドが待ち受けていたはずなのに、それが実現しないのを「悲劇」というならば、この物語はとうてい人の心をうつような、まともな悲劇にはなりそうもない。このことを仮定が証明しているのである。御門を毅然として拒んだような女が、その御門の第何夫人となってもしあわせかどうか。姫はしきりに親子の情愛を強調するが、それさえも、いままで以上に深まりそうにも思えない。こう仮定して見えてくるものはそれだけではない。これまでのかぐや姫の地上生活がしあわせにはほど遠いもので、名残惜しくもなんともないようなものだったこともまた、浮かび上がってくる。そんなものを捨てざるをえないことが、どうして悲劇的と言えるだろうか。心を描いたはずの『竹取物語』が、人々を揺り動かすほどの感銘を与えないのは、そのためではないのか。
じつは、姫の別れの言葉は、別れることが決定的になったからこそ言えるものであって、できることなら、あんな拒否などをせずに、「親の恩に報い」たかったのだが、という社会通念的な孝心を、翁に対する慰めのために強調しているにすぎないのではないか。それはかぐや姫の心からの言葉ではないのではないか。
いったい、かぐや姫にとってほんとうに喜ばしいことを、心から楽しめることを、翁や媼は何かしてくれただろうか。かぐや姫もまた、この世に来て、何かを楽しんだだろうか。月に帰らなければならなくなったとき、あれほど悲嘆に暮れたのは、翁に対する義理人情のためなどではなく、それ以外に、何かもっと大きなわけがあったのではないか。得たかった何かを得られなかったとか、失ったとか。あの嘆き悲しみようは尋常ではない。言葉では、親の恩に報いたかった、などと言いながら、じつは、この世でほんとうのしあわせを得たかったのに、得られたはずなのに、という悲痛な心の叫び、深い侮恨の情をそこに込めていて、それが得られないまま月へ帰らなくなってしまった身の不幸をこそ、嘆き悲しんでいるのではないか。
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かぐや姫は竹林のある山野で自然児として育ち、突然都に連れてこられて貴族の婦女子の暮らしを強いられる。姫はそれに抗わなかったはずはない。以前のように仲間と自由にのびのび野山を駆け回りたい。髪上げや裳着だけでなく、不自然な眉抜きもお歯黒も、蔀戸(しとみど)や御簾(みす)や几帳で二重三重に囲われた部屋も、かぐや姫には窮屈で耐えられなかったはずである。それを家出など、さまざまな「わがまま」によって押し返したり、また押さえ込まれたりするたびに、自分がこの世の者ではなく、どこか異次元世界からきた者であることを自覚するようになるのではないか。何かのきっかけで、天真爛漫だった子どもの心が完全に冷え、心を閉ざして内に籠り、しかもひどく攻撃的になることなど、現代の子ども心理にいくらでも例を見出すことができる。かぐや姫もまた、そんな子どもの一人だった可能性はないだろうか。
むろん、そのあたりはまったく原作に描かれてはいない。けれども、それが積み重なった末、あの、最高権力者に抱きすくめられて「ぱっと影になって」消えてしまう事件が起こる。それはかぐや姫の上げた最後の悲鳴だったのではないか。
ひょっとしたら、あの、姿を消したときこそ、月に帰らねばならないことが決まった瞬間だったのではあるまいか。
かぐや姫には居場所がなかった。月の都にも、この世界にも。「わたしは、もともと月の都の者で、父母があります」「あの国の父母のことも覚えておりません」「月の都の人たちは、たいへん清らかに美しく、年をとることもございません。心配ごともありません。そんないいところへ帰るのに、うれしくもございません」と、かぐや姫は翁に月の世界について語る。生老病死をまぬがれないこの世に対し、月は不老不死の国。それはすばらしい国かもしれない。けれどもひょっとすると、ただの死の国かもしれない。そんなところへ帰らなければならない。すなわち、この地上を去らねばならないのがほんとうに悲しくつらいことなのだとすると、かぐや姫にとって、本来、この地上がよほど意味あるもの、かけがえのないものでなければならないだろう。にもかかわらず、結局そこに居場所を見つけることができなかった。そしてこのあたりにこそ、隠された物語がひそんでいるにちがいない。

じじぃの「知の巨人エマニュエル・トッド氏に聞く・世界情勢の近未来は?プライムニュース」

知の巨人 エマニュエル・トッド

プライムニュース 「知の巨人 読み解く 世界情勢の近未来は? エマニュエル・トッド 2018年5月18日 BSフジ
【キャスター】生野陽子、松山俊行 【ゲスト】エマニュエル・トッド(歴史人口学者)、三浦瑠麗(国際政治学者)
家族制度・人口動態が国家や歴史に与えた影響を分析し、「ソ連崩壊」「リーマンショック」「アラブの春」「トランプ政権誕生」「イギリスのEU離脱」など、世界情勢の数々の動向を次々“予言”したとして、「知の巨人」と称されるフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏が初の生出演!
来月には史上初の米朝首脳会談が開催されるなど、歴史の転換点を迎えようとしている世界情勢をどのように読み解けばよいのか?少子高齢化や人口減少による労働力不足など深刻な社会問題を抱える日本が、世界の潮流の中で取るべき対応策とは?
●トッド氏に問う・共同体家族と中国の台頭
三浦瑠麗、「日本、中国、韓国について世論調査をやっている。日本との貿易関係を持っている方たちは日本に対する好感度が高い。私たちがなぜ中国と上手くやっていけないのか。日本に関して儲けられる人の人口比率が少ない。中国のようないびつな政治構造、経済構造を持つ国とは仲良くしていくのは難しい」
トッド、「中国では生まれてくる子供が女子だとわかった時点で人工中絶をしているなど女性の地位が低い。理想としては平等というのに執着がある。現実には国内に問題を抱えている。国内の危機を国外で強く出ることで危機を乗り切ろうとしている。中国の膨脹政策は世界にとって大きな不安材料だ」
●トッド氏に問う・世界情勢の今後
トッド、「日本に来て驚いたことは国際情勢について盛んに議論していること。これはヨーロッパと全く同じだ。日本人は2大大国のヘゲモニーが米国から中国に移るのではないかと思っているようだが、プリンシプルがなくなっていく。中国はWTOを尊重していないし、米国は国際条約に調印しても離脱している。中国は見かけ上の繁栄から危機を迎えるだろう。無秩序に向かっていくのではないか。世界のプリンシプルがどこにもない世界になっていくのではと懸念している。ロシアについては大変なパラドックスだ。今もっともリーズナブルな外交をしているのはロシアではないか。オルブライト国務長官は米国は世界にとって必要不可欠と言ったが、私はロシアではないかと思う。米国と中国に挟まれた日本は困難な立場にある。平和は絶対的なものと信念を貫いていくことは世界秩序を変えるかもしれない。そうでなければ無秩序になる」
●提言 「日本へのメッセージ」
トッド、「提言ではなく不安を表明する言葉を書いた。米国は危機にある。米国はベトナム、中東と失敗してきた。これが米国の混迷にある。トランプがまた問題児になっている。米国の危機はヨーロッパ、日本にとって大変危険な要素だ。これについて我々はよく考えなければならない」
前編:http://www.bsfuji.tv/primenews/movie/index.html?d180518_0
後編:http://www.bsfuji.tv/primenews/movie/index.html?d180518_1